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幻想終末の欠落者  作者: あした
【第六章】極限解放
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第五十八話 ぼくがまもるからぁ

「―――お前たちが逃げ続けても、その度にまた私はすぐ追いつく。だから、無駄な足掻きはやめて、今ここで大人しく……私に殺されろ」


鬼装きそう≫状態のミライと≪魔装≫状態のレンは、トゥーラに追いつかれ、大通りで大きく距離を取って対峙した。


 そしてその天使は、二人の人間に死以外の選択肢はないと宣告する。


「―――? ホンキでにげてないよぉ? ぼくぅ」


 笑顔のミライの言葉に、トゥーラは眉を曇らせた。


「どういう意味だ?」


「だってホンキでにげたらぁ―――」


 ミライの姿が消える。


 否、弾けるように地面を蹴ったことで、凄まじい速度によってそう錯覚した。


 たった一足で刹那のうちに、ミライはトゥーラの眼前に迫った。


「―――キミとあそべないじゃん」


 喋る速度とは正反対の、紅い軌跡を描いた鋭い剣閃。


 トゥーラは、ミライの攻撃に辛うじて反応でき、首を傾けて回避した。


 ……遊ぶ、と言った割には、ミライは一瞬で決着をつけようと首を切り落としにかかっていた。


 あるいは、この程度の攻撃を避けられないヤツとは、殺し(遊び)合いたくないと思ったのかもしれない。


(まさか、わざと私と戦うために遅く逃げていたのか……! なら、コイツらは本来なら―――このスピードで行動できるというのか!?)


「あははぁ。まだまだぁ」


 直後、無垢な笑顔のミライから放たれたのは、まるで―――嵐のような斬撃。


 高速に放たれたその一撃一撃は、相手に確実にダメージを与えるモノで、蓄積され続ければ、いずれ致命傷になりうるモノ。


 その危険性を知っているからこそ、トゥーラは全身全霊をもって全ての攻撃を紙一重ではあるが回避した。


 そして、ミライが白刀を振り上げた一瞬の隙を突き、トゥーラはミライの脇腹を蹴って廃墟まで吹っ飛ばした。


 ドーン、とミライが叩き込まれた廃墟からそんな衝突音が響き、そこから煙が立ち昇る。


 それを蹴った後の姿勢のまま見聞きしていたトゥーラは、蹴った足を地面に戻した。


「とりあえず、なんとかしたが……」


 トゥーラは周囲を見渡す。


「もう一人の人間は、一体―――」


「―――どこにいる、ってかぁ!」


 背後からの威勢のいい声に、トゥーラはバッと振り返る。


 そこには―――紅光を放つ黒剣を振り下ろそうとする、レンがいた。


 トゥーラは驚愕に目を見開き、そしてその瞳は言っていた。


 ―――いつの間に、と。


 それに気づいていたのか、気づいていないのか、レンはトゥーラの求めている答えを教えた。


「背後から回り込んでたから―――なッ!!」


 同時、レンは全身の力を込めた渾身の一撃を放つ。


 ミライとトゥーラが戦っている中、レンはトゥーラに見つからないよう大きく迂回して、死角である背後まで接近できた。


 なんとも、単純な答え。


 黒刃の向かう先は、トゥーラの首。


 いよいよ、レンの刃がトゥーラの首に触れた。


「―――ッ!?」


(刃が、入らねぇ……ッ!!)


 レンの斬撃は、トゥーラの首を断つことなく、正真正銘、ただ『触れる』だけに終わった。


 どれだけ押し込めても、刃が入る気配などない。


 夜のシャドウですら、辛うじて刃が入ったというのに、全くもってかすり傷すら与えられない。


 瞬間、レンはイッキの言葉を思い出す。


 天使は―――進化系シャドウすら凌駕するほどの高い戦闘能力を有している、と。


 それは、いつも戦っているシャドウではなく、強化された夜のシャドウも含まれているのだと、レンは理解した。


 けれど、理解できない点もあった。


 コレは『凌駕』している程度では収まらないほど、圧倒的な身体能力を有している。


 今ので、それがハッキリとした。


 が、そんなレンの思考を置き去りにするように、


「貴様、今私に―――何をした?」


 殺意に目を剥き、トゥーラは憤怒の言葉を発した。


「………ぁっ」


 殺気の篭った眼光に、レンは恐怖に支配され……攻撃することも、逃げることもなく、ただただその場から動けなかった。


 まさに、蛇に睨まれた蛙の如き、怯えぶり。


「この私に傷をつけようとしたこと―――死をもって、罪を償え」


 ゆっくりと、トゥーラはレンへと手を伸ばす。


 否、トゥーラはゆっくりと動いているのではない。


 レンが死を予感し、走馬灯を見ているため、視界の一切がスローモーションになっているのだ。


 けれど、ゆっくりといえど、確実にトゥーラの手は近づきつつある。


 そして、走馬灯の世界の中で、トゥーラの手がレンの頭に触れる。


「―――ッ!?」


 ことはなく、トゥーラは半身をズラしていた。


 レンを殺すことをやめ、顔をしかめるトゥーラ。


 なぜ、そうなったのか―――?



「―――あははぁ。あたらなかったぁ」



 ミライが、縦に走る紅い一閃を、トゥーラに放ったからだ。


 しかしソレは、トゥーラに回避され、虚空を切るだけ。


 ―――かに思われたが、地面を割り、尋常ではない速度で白刀が振り下ろされた

ことで強力な風圧を発生させ、その風圧でトゥーラの頬にピキッと切り傷を作っ

た。


 その傷から人間と同じ赤い鮮血が零れ、トゥーラは堪らず後退し、ミライと大き

く距離を取った。


「ミライ……」


「だいじょうぶだよぉ。レン」


 呆然とするレンに、ミライは首を振り向かせて伝えた。



「―――ぼくがまもるからぁ」


「……!!」



 ミライのいつもの笑顔を見た瞬間、レンの胸にチクッと痛みが走った。


 レンはその胸に手を当て、握りしめ、俯いた。


「ミライが、オレを、守る……」


 近くにいるミライさえ聞こえないほど小さな呟きをして、レンはミライに言葉を返すことはなかった。


 その場面を、トゥーラは睨みつけながら見ていた。


 いや、レンなど眼中になく―――ミライだけに意識を向けていた。


(あの人間の攻撃、さっきのが全力……!? 今まで手を抜いていたのか!?)


 初めのミライとの攻防では、ミライは本気の斬撃を放っていなかった。


 それは、先刻の一太刀を見れば明白だ。


 地面を割り、風圧だけでトゥーラの頬に傷をつけたのだから。


 その事実を目の当たりにして、あえて手加減して、あえてギリギリで回避できるほどの剣速にして、ミライが舐め切った戦闘をしているとトゥーラは推測した。


 ―――しかし、ミライはナメているのではなくただ遊んでいるだけで、トゥーラは先の剣撃が本気だと思っているようだが……実は外れていた。


 そのことに気づくことなく、トゥーラは怒りが湧き上がった。


 ミライに見下されたこともそうだが、何より怒りが湧いたのは、


(人間の分際で、私の顔に傷をつけるなど―――万死に値するッ!!)


 頬に切り傷を与えられたことだった。


 その傷口を指先で触れ、トゥーラはその整った顔を、煮え滾るような怒りで醜く歪ませた。


 ―――愛した男に不倫をされて怒り狂う、女のように。


「……落ち着け。怒ったとて、あの人間たちに勝てるわけではない」


 けれど、そう呟いてトゥーラは怒りを抑え込む。


 冷静さを欠けば、足元を掬われる。


 それが、敗北に直結することを理解しているからだ。


 そして、現状を立て直す必要があることも。


 だから―――白翼を広げ、トゥーラは飛び立った。


「―――あっ」


「あぁ。おそらとんじゃったぁ」


 レンは間の抜けた声を漏らし、ミライは額に手を翳して、羽ばたく天使を見上げる。


 地上から500メートルほどの高さのところで、トゥーラは空中で二人の人間を見下ろした。


(地上戦で相手をするのは厄介だ。しかし、私たちは空を飛べる。……人間では、ここまで来れまい。空中戦に持ち込めば、私の独壇場。―――私に傷をつけたことを後悔しろ……!)


 確かに人間には翼などがないため、空を飛ぶことはできない。


 空中戦なら、天使は無敵だと言える。


 しかし、相手が『ただの人間』ではなく『異常な人間』だったら―――?


「ミライ、あん時みたいにやるぞ……!」


「うん―――≪陣鬼ジンキぃ展開テンカぁイ≫」


 ミライは頷き、もう片方の手を前に翳して≪鬼晶術きしょうじゅつ≫を発動。


 ミライとレンの前に、魔法陣が展開された。


 そして二人は、その魔法陣に乗って跳躍すると―――またその先に新たな魔法陣を展開。


 その繰り返しで、上空を制したと勘違いしているトゥーラに近づいていく。


(魔法陣が空中の足場に……!? あれが、ヤツの≪鬼晶術きしょうじゅつ≫なのか!?)


 トゥーラは、ミライの≪鬼晶術きしょうじゅつ≫の能力をそう推測した。


 そして、いずれここに到達することを予感し、


「来させるか―――ハッ!!」


 二人の人間を打ち落とし、殺すべく、美しい翼を振って羽根を射出する。


 弾丸のように迫る無数の羽根は、直撃すれば一溜まりもないだろう。


 だから、ミライとレンは魔法陣上りをやめた。


「羽根を飛ばしてきやがった!? 空中だと逃げ場がねぇし、このままだと蜂の巣にされんぞ、オレたち!?」


「あははぁ。こうすればだいじょうぶだよぉ―――えぇい」


 ミライは飛んでくる羽根に向かって手を翳すと、上った後の魔法陣がミライとレンの前に並び―――トゥーラの羽根攻撃から守った。


「なっ!? 使った足場を防壁にしただと!?」


 これには、トゥーラは驚きを隠せなかった。


「いこぉ。レン」


「おう!」


 ミライとレンは魔法陣上りを再開し、ついにトゥーラと同じ高度に達した。


 トゥーラの周囲に魔法陣を展開。


 その魔法陣の上を、二人の人間はグルグルと駆け回る。


 そして魔法陣を蹴って飛び出し、トゥーラの正面からミライが、背後からレンが―――得物を持った腕を伸ばして刺突攻撃を仕掛ける。


 二人の挟み撃ちに、



「フッ―――私には、見える」



 首を左右に傾け、トゥーラは二人の攻撃を回避した。


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