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幻想終末の欠落者  作者: あした
【第六章】極限解放
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第五十七話 始めよっか?

 エルザ隊は廃墟の屋上を伝って、天使たちは白翼を羽ばたかせて空を飛んで移動している。


 すると、一際大きな廃墟の屋上を発見して、そこをエルザは決戦場と決め、エルザ隊が止まった。


 続いて、上空を飛んでいた天使がフワリと、エルザ隊から20メートルほど間合いを取って降り立つ。


 しばし対峙していると、真剣だったレンとアオイの顔がおかしくなった。


 青褪めて、エルザの目の前にやってきた。


「今思ったんだけど、オレたちで勝てんのかよ空宮!? 天使は最終試験で倒すヤツなんだろ!? 訓練課程終えてねぇ今のオレたちじゃ、どう考えても太刀打ちできねぇだろ!?」


「エルザさん! あれほど啖呵を切っていたんですから、何か勝算があるってことですよね!? ですよね!?」


 勢いでここまで来たが、不意に冷静さを取り戻したレンとアオイに、大きな不安がのしかかってきた。


 天使と戦うのは、訓練課程を修了して、その後にある最終試験。


 しかし、候補生はまだ訓練を始めて数週間。


 明らかに力不足で……天使に敵うはずもないのだ。


「………」


 サクラもそう思い、エルザの顔を凝視しに目の前にやってきた。


 一方、


「なーにやってんだろ、あれ」


「考えるだけ無駄だ。人間の考えてることなど、崇高な私たちに理解できるわけがない」


「ってか、理解したくもないな」


「反吐が出るぜ、うえー」


 天使までもが不思議がっていると、人間への嫌悪が増長していった。


「まーね、一応あるよ―――とっておきの作戦がねっ★」


「本当か!?」


「エルザさん……その、とっておきの作戦とは?」


「………(こくこくこく)」


 サクラが小刻みに何度も首を縦に振ると、エルザはその作戦を伝える。


「それは、とその前に……」


 だが、まだ伝えずにエルザは振り返った。


 そこには小石で何かを描いている、しゃがんだミライがいた。


 四人が何を話し合っているのか理解できなくて、暇だったから一人で遊んでいたようだ。


 蚊帳の外になっているミライを手招きして、エルザは「ミライっち来てっ★」と呼び寄せる。


 そうして、小石をポイッと投げたミライがやってきて、エルザ小隊が集合。


「作戦ってのは―――」


 ゴニョゴニョ、とエルザ隊は顔を寄せ合って、エルザは作戦を共有する。


 顔を離して、エルザは笑いかけた。


「ね、いーでしょっ★」


「……確かに、いい作戦ですね。天使は先ほど、エルザさんの力の一端を目の当たりにしましたから、十分に作戦通りに実行できるはずです」


「アオイ、同意」


「えぇ。エルザちゃんだけズルいよぉ。ぼくにやらせてよぉ。ソレぇ」


「ニャハハッ★ ミライっちにはまだ荷が重いっ★ やりたかったら、エルちゃんより強くならないとねっ★」


 ミライの肩をバシバシと叩いて、エルザは高笑いした。


 うぅん、とミライは唸ると、


「そっかぁ。―――てんしとあそぶのはじめてだなぁ。たのしみぃ。あははぁ」


 凄まじい速度で気持ちを切り替えた。


 エルザの作戦への不満は一瞬のうちに忘れて、今は天使と遊びたくてウズウズしていた。


「―――納得できねぇ」


 低い声で反対したのは、レンだ。


 そのレンに、四人は振り向いた。


「なんだよ、この独りよがりな作戦……。テメェ、言ってたじゃねぇかよ……」


『―――みんなの力を、エルちゃんが信じてるからだよっ★』


「お前……オレたちこと、信じてるんじゃなかったのかよ!!」


 エルザの言葉を想起し、叫んだレンはエルザを睨み上げた。


 夜のシャドウ討伐時、エルザは、レン、アオイ、サクラの三人に対して理不尽な命令を出した。


 それは、三人の力を信じていたからこその命令だと、エルザは言っていた。


 ……なのに、今のエルザが提案した作戦は、三人だけじゃなくてミライまでも信じていないモノだった。


 そのことにレンは、怒りと悲しさに顔を歪め、奥歯が割れるくらい歯噛みした。


「うん、信じてるよっ★ でも、レンっちたちじゃ無理だから、仕方ないよっ★」


 ……しかし、それに対して、エルザはそんな残酷なことを告げた。


 レンは目を剥くと、いよいよ限界がきてエルザに詰め寄る。


「無理かどうか、んなもんやってみなきゃ―――」


「―――今は、ねっ★」


 エルザの発した一言に、レンの足が止まる。


 ハッとするレンを上目遣いで見上げ、エルザは言葉を続けた。


「みんなが、エルちゃんがお願いするくらい強くなれば、もちろんお願いするよっ★ でも今はまだ、みんなそのレベルに到達してないっ★ だから―――勝つために、協力してほしーなっ★」


「………」


 ジッとエルザの紅い双眸を見つめ、レンは思考する。


(空宮は、オレたちが天使に勝つために、こんな作戦を考えた。そう、勝つためだ……オレたち全員が生き残るために。それには、空宮一人にデケェ重荷を背負わせなきゃなんねぇ。そして今のオレたちじゃ、その重荷をどうにかしてやれねぇ。だったら、話は簡単だ……)


「わかった、お前の言う通りにする。でも、今回だけだ。≪魔晶術ましょうじゅつ≫できるようになって、もっと修行して、お前に二度とそんな重荷を背負わせねぇくらい―――強くなってやる」


「うん、期待してるっ★ ありがと、レンっちっ★」


 決意するレンに、エルザは八重歯を覗かせて笑顔を浮かべる。


 それからエルザは、アオイに向き直る。


「天使とり合う前に―――アオイっち、一つだけいーかなっ★」


「はい?」


 エルザはアオイにあることを伝え終えて、エルザ隊は五体の天使たちと対峙する。


 再び相対したエルザ隊の顔つきを見て、戦う覚悟ができ、戦いの開始がもうすぐだと天使たちは直感した。


 実際その直感は正しく―――エルザ以外の四人が、己の得物を手に取って、≪魔装≫と≪鬼装きそう≫を発動して疾走する。


 四つの紅光の残像が四本の線を描き、天使に接近した。


「はあ? バカじゃないの? 五対四って何考えてるつもり?」


「四つの人間を肉壁にして、最後の強いあの人間で私たちを倒すということか?」


「だとしたら、最低すぎるだろ……」


「ま、人間らしくていいじゃねーか?」


「……どうでもいい―――迎え撃って殺すぞ」


 リーダ―の天使の一声で、迎撃態勢に入る。


 ミライ、レン、アオイ、サクラの四人は、それでも真っ直ぐ突き進む。


 そうして天使と衝突する直前、


「―――!」


(二手に、別れた……!?)


 ミライとレンが左へ、アオイとサクラが右へ跳躍した。


 リーダ―の天使が内心で驚愕すると、四体の天使も予想外の行動に目を大きく見開いた。


「おい、どうする……!」


 紫髪の男の天使スーナと、


「早く追いかけないとマズい、救援を呼ばれちまう……!」


 茶髪の男の天使ジャイガが焦った様子で言うと、リーダーの天使は「ふむ……」と顎に手を当ててエルザを一瞥した。


「そうだな……左右に一人ずつ、別れたゴミどもを追わなくてはいけない。僕以外がだ。さて、お前たちの誰が行こうか……」


 スッと手を挙げたのは、


「俺いくよ」


 オレンジ髪の男の天使ジレオと、


「私もだ」


 赤髪の女の天使トゥーラだった。


「ジレオ、トゥーラ、助かる。それで、どっちがどっちのゴミを殺す?」


「女の子一択~」


「私は少年の方だ」


 トゥーラを見て、ジレオは「うわあ」と露骨に引いた顔をした。


「また野郎を炙るの? 趣味悪~。野郎の痛がる顔なんか見ても、萎えるだけじゃん」


「それはお前の方だろ。私はただ男を優先的に断罪したいだけだ。お前みたいな、泣き叫ぶ女に興奮するような変態ではない」


「だって、スゴく唆るんだもん。しょうがないじゃん」


「―――無駄口を叩く暇があるなら、さっさと追え」


 リーダ―の天使に睨まれ、


「ハイハイ」


 ジレオは適当に、


「わかっている」


 トゥーラは真面目に返事をした。


 直後、ジレオはアオイとサクラが向かった右へ、トゥーラはミライとレンが向かった左へ、白翼を広げて飛び立った。


 エルザの作戦は、二人一組で一体の天使を倒し、残り三体の天使をエルザ自らが倒すというもので―――思惑通り成功した。


 天使側は、二手に別れたペアは救援を呼びに行ったと思っているため、必然的に最低でも一体ずつ左右に向かわせなければならない。


 しかし、エルザ隊は五人だから、天使側は二人ずつ送った方がより迅速かつ確実に殺せる。


 そうなれば、エルザの作戦は破綻するが……そうはならなかった。


 それは、


(二対一、数的不利だが問題ない。あの程度の人間ゴミなら、一人で十分だ。しかし……)


「あのゴミは別格だ……強い。だが、スーナ、ジャイガ、僕の三人がかりなら、確実に殺せる」


 ―――自分の風の斬撃を容易く弾いた、エルザを警戒しているからだ。


 そしてエルザは、それを知っていた。


 だからこそ、この作戦が上手くいくと確信していた。


 リーダ―の、緑髪の男の天使―――リブロがエルザに殺気を放つ。


 それに合わせて、両隣のスーナとジャイガは戦闘態勢に入った。


「自分で言っといてなんだけど、天使を三体もやるって、かなりめんどくさいっ★ でも、エルちゃん偉いなっ★ 一番大変な役割を自分に振り分けるなんて、リーダ―の鏡っ★ ま、みんなができないだけなんだけどっ★ ニャハハッ★」


 背中の黒大剣の柄を掴んで、≪魔装≫を発動する。


 そして紅光を放つ黒大剣を肩に担ぎ、



「じゃあ―――始めよっか?」



 見下すように顎を上げ、三体の天使を見下ろす。


 ―――猫のように細めた真紅の瞳が、狂気に鋭く光った。


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