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幻想終末の欠落者  作者: あした
【第六章】極限解放
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第五十六話 ゴミども

「―――全小隊、シャドウを100体倒したようだな」


 廃墟のタワーが付近にある、十字路にて。


 集合場所であるそこで並ぶ候補生に向かって、イッキは遠回しに自身が課した課題をクリアした彼らにそう伝えた。


 その後、イッキは最前列のエルザ隊に、いつもの険しい顔を向けた。


「一番初めにクリアした空宮エルザ隊だが、シャドウ199体の他に、104体のウルフ・シャドウにも遭遇し、これを全て撃破した。あと一体でノルマの二倍になり、この中で唯一進化系シャドウに遭遇したのは、お前たちしかいなかった。……とても苦労したな」


「エルちゃんにかかれば、そんなの楽勝っ★」


「だねぇ。あははぁ」


「お前たちではない……三人に言っているのだが」


 少し怒気を滲ませた声で、イッキはミライとエルザに告げた。


 イッキは、レン、アオイ、サクラに対して労いの言葉をかけた。


 ……ミライとエルザに振り回されたことに、同情したからだ。


 しかし、イッキの意図に反して、ミライとエルザがその言葉を受け取った。


 怒りが漏れてしまうのは、仕方のないことである。


「草壁教官、なんでそんな詳細に知ってんだよ……」


「100体を倒さずに戻ってきた小隊を見抜き、あっさりと追い返して、もう一度向かわせましたからね……」


「アオイの時、同じ。教官、どこから見てる、わからない……」


 一番最初に課題をクリアしたため、エルザ隊は他の小隊がクリアするまでの過程を全て見ていた。


 その中で、ノルマであるシャドウを100体倒さずに、ここへ戻ってきた小隊がいた。


 100体とはいかなくとも、数十体を倒せば、さすがにバレないと思ったのだろう。


 だが、タワーの頂上からイッキは、その小隊に向かって、


『お前たちはまだ、43体しか倒していない。残り57体、今すぐ倒しに行ってこい!』


 圧しか感じない低い声で一喝し、怯えるその小隊をもう一度、課題に向かわせた。


 しかし、それには、その小隊の動きを確認しておく必要がある。


 つまり、イッキはタワーの上から、それを行っていたということになる。


 だから、これしか考えられない。


「草壁教官は、鷹なんだ!」

「草壁教官は、鷲です!」

「草壁教官、鷹」


星無ほしなしと空宮の頭の悪さが移ったのか……何をバカなことを言っている

んだ、お前たちは」


 今度は三人に対しても、イッキは呆れ果ててしまう。


 これにて、エルザ隊はアホ認定された。


 鳥の視力は人間の視力の何倍も有するため、これならタワーの上からでも、全小隊の動向を見ることも可能だろう。


 その中で鷹と鷲を選んだのは……イッキの険しい顔つきと似ていたから。


 しかし、レンとサクラは『鷹』、アオイは『鷲』と意見が分かれたため、


「鷲ぃ? いやいや、朽葉くちは。草壁教官はゼッテェ鷹顔だって!」


「レン、言う通り」


「いーえ、違います! どっからどう見ても、草壁教官は鷲顔です!」


 ……こんな論争が勃発するのだった。


 すると、それを止めたのは意外な人物だった。


「―――鷹も鷲も、ほぼおんなじだよっ★」


 両手を頭の後ろで静観していた―――エルザがそう告げた。


 その言葉を聞き、鳩が豆鉄砲を食ったような顔で三人はエルザを見た。


「……マジで?」


「マジのマっ★ まー正確に言うと、大きいのが鷲で、小さいのが鷹っ★ 要は大きさで呼び方が変わるみたいっ★」


「エルザさんが、そんな雑学を知っているとは知りませんでした……」


「サクも、驚きの一面」


 サクラは呟きを落とすと、エルザはミライに尋ねる。


「ミライっちはさ、イッキっちを鳥で言うならなんの鳥だと思うっ?」


「ぼくぅ? そうだねぇ。きょうかんはぁ―――スズメさぁん」


 エルザの変な質問に、満面の笑みでミライは回答。


 数秒の沈黙が流れ、そして切り裂かれた―――候補生の笑い声によって。


「み、ミライ、それはねぇだろ……っ!」


「失礼ですが、スズメはありえないと思います……っ!」


「イッキっちの強面顔には似合わないよっ★ ニャハハッ★」


「………ぷふっ」


 レン、アオイ、エルザは、ミライのおかしな発言に笑い、サクラだけは首を後ろへ向けてプルプルと小さな体を震わせていた。


 ミライは笑うトモダチを眺めて一言。


「なんかわかんないけどぉ。みんなたのしそうだねぇ。あははぁ」


「人のことを『鷹』や『鷲』や『スズメ』など……お前たち、いい加減に―――」


 瞬間、イッキはバッと振り返り、険しい瞳を見開いた。


(―――この気配は……!)


 突然の雲が巨大な瞳のような満月を覆い隠す。


 イッキは感知したのだ―――得体の知れないナニカを。


 だから、告げる。


「お前たち……今すぐに引き返せ」


 イッキは何もない虚空を睨みながらコートを翻して、腰に差してある黒銃剣を手に持って≪魔装≫を発動する。


 戦闘態勢に入ったイッキを見て、候補生の困惑はさらに大きくなり、異常事態が起こっていると悟った。


「なんか、相当ヤベェみたいだな……あれ」


「草壁教官は普段も怖いですが、今までとは段違いに怖いです。一体、何を警戒しているのでしょうか……」


 雰囲気だけで警鐘を鳴らすイッキだが、なぜそうしているのかは、レンとアオイを含めた誰もが理解できなかった。


「えぇ。いやだぁ。ぼくあそびたぁい」


「ミライっち、イッキっちの言うことに従った方がいーかもっ★」


 遊べなくて不満を口にするミライの肩に手を置いて、エルザがそう諭した。


 それにミライは頷くと、


「うん。わかったぁ」


 納得して、いつもの笑みを浮かべた。


 首だけ振り向かせて、全員が逃走の準備ができたことを確認して、


「―――逃げろッ!!」


 イッキは前を見据えて腹から叫んだ。


 呼応するように、候補生は振り返って全力で逃走する。


 同時に、イッキも跳躍して気配を感じたところへ向かった。


「いきなり、どうしたんだよ草壁教官……!」


「あんなマジで臨戦態勢取り始めて……!」


「そんなのにさせるようなヤツ、いたか……?」


 候補生の誰もがイッキに疑問を抱いたまま、けれど指示に従って逃げ続けていると、


「……ん? なんだあれ? 流れ星?」


 視界に五つの流れ星のようなものが落下するところを、候補生の一人が発見した。


 夜の中で一際白く光り輝く五つの流れ星は、一つが信号機の上、残り四つが街灯の上に落下する。


 ……否、正確には着地だった。


 人間のような姿形、しかし、背中には二つの白い翼。


 その翼を優雅に広げながらフワリと着地したのは、人間離れした容姿と雰囲気、そして人間に明確な敵意と殺意を向ける、白い装束に身を包んだナニカ。


 その存在の名を候補生は知っていた。


(ま、まさかアイツたちが……!)


(―――天使!!)


 レンとアオイが、心の中で叫んだ。


 先日、イッキから最終試験の時に倒す敵だと明かされた存在―――天使。


 進化系シャドウすら凌駕するほどの高い戦闘能力を有しており、人間と同じく知性を宿している、シャドウと同じく殲滅すべき人類の敵の名だ。


 その知識から、候補生は憔悴し切って、肩を震わせ、足をすくませ……恐怖に支配される。


 立ち尽くすことしかできなかった。


「―――初めまして、罪深き脆弱な人間ゴミども」


 嫌悪と侮蔑だけの冷え切った声を発したのは、正面の信号機の上に立っている天使だった。


 すると、挨拶をしたリーダ―と思わしき天使と四体の天使たちが、狂気に歪んだ笑みを見せた。


 イッキの言っていた通り、天使は会話ができるほどの知性がある。


 ……その事実が、さらに候補生を恐怖に陥れた。


 が、ある単語によって、


「―――ゴミだと……ふざけんな!!」


 怒りのスイッチが入った。


「俺たちは人間だ……ゴミなんかじゃない! 人間を散々殺し回って、誰かを悲しませて……お前たちの方がよっぽどゴミだ! 上からモノ言ってんじゃねえよ、バケモノ!!」


「そ、そうだよ! こんな酷いことしてるアンタたちなんか、さっさと消えていなくなってよ!!」


 他の候補生も続いて、天使を言葉で攻撃する。


 これによって起こる最悪の事態を予測したアオイは、決死に候補生の怒りを鎮めようと叫んだ。


「皆さん、やめてください! 敵を刺激してしまえば、ワタシたちは―――」


 が、しかし、


「……己の罪さえ自覚がないなんて、救いようがないな。なら―――死ね、ゴミども」


 リーダーの天使が、信号機の上から緩慢な動作で、真一文字に手を横へ振る。


 まるで埃を払うように。


 そしてソレは、ただ空気を撫でるだけではなく―――風の斬撃となった。


 最初に怒声を浴びせた候補生の少年に、ソレが飛んでくる。


 ターゲットに選ばれたのは単純、最初に反抗したことが気に食わなかったからだ。


 その少年の脳裏には、あの斬撃によって首が刎ねる瞬間が浮かび……もうすぐ死ぬのだと直感した。


 が、その瞬間、何者かがその斬撃を弾いて少年を救った。


「―――空宮さん……!」


≪魔装≫を発動した黒大剣を横薙ぎに払ったエルザの背中を見つめて、少年が助けてくれたエルザの名を呼ぶ。


 風の斬撃を弾いたエルザに、四体の天使は目を見開き、それを放ったリーダ―の天使は「ほう……」と興味深そうに目を細めた。


「もー、挑発したら危ないじゃんっ★ キミ、今ので死んでたよっ★」


 エルザは黒大剣を肩に担いで、首だけを振り向かせる。


 少年は「ごめん……」と、その言葉にションボリして俯いた。


「お前、それは言い過ぎ」


「よかったです、無事で」


 レン、アオイ、ミライ、サクラもエルザのいるところへ来て、エルザ隊が集結する。


 明るいトーンで辛辣な言葉を口にしたエルザをレンは軽く注意し、アオイは殺されかけた少年を見て安堵した。


 そして―――エルザ隊と五体の天使たちの視線が交錯する。


 レンは首だけ振り向かせて、背後の候補生の顔を見る。


 少年少女は青褪めた顔をして、戦意が喪失していた。


 あの死の斬撃を見て、自分にあの攻撃が向かってくるのではないかと想像し、死を疑似体験したからだ。


「こっからどうする、空宮……」


「ンニャ、決まってるじゃんっ★」


 レンが指示を仰ぐと、エルザが一歩、前に出る。


 そして黒大剣の剣先を、天使たちに向けた。


「エルちゃん隊で、あの天使―――ぶっ殺そっ★」


「うん。あそぼぉ」


「そう言うと思ったぜ!」


「はい!」


「………(こくり)」


 エルザの後ろで、ミライ、レン、アオイ、サクラがそれぞれの返事をした。


「皆殺し、か……。その言葉、そのままそっくり返そう―――ゴミ」


 信号機の上に立っていたリーダ―の天使が言うと、五体の天使は降りて、高低差なくエルザ隊と対峙した。


「こことは違うとこで、ぶっ殺し合おっ★ エルちゃんたちの戦闘に巻き込まれて、他のみんな死んじゃうと思うからっ★」


「……同胞を守ろうとしているのか、侮辱しているのか、判別し難い。……そうか、これがあのお方が嫌悪していた―――『矛盾』というモノか。なるほど……この『矛盾』があるから人間はゴミなのか。殲滅すべき理由が、ようやくわかった。……まあいい、貴様らに死に場所を選ぶ権利くらいはくれてやろう」


「やっさしっ★ ありがとっ★」


「しかし……」


 パチン、とリーダ―の天使が指を弾く。


 候補生の背後から、左右から、ぞろぞろと進化系を含めたシャドウの大群が現れた。


 昼間よりも獰猛な気配のシャドウたちに、今までそれらを屠ってきたはずの候補生は、思わず身を寄せ合って距離を取った。


「他のゴミどもは暇を持て余してしまうだろうから……遊び相手を用意した。精々蹂躙されるがよい。クククッ、その間に貴様らの首を投げ入れたらどうなるか……楽しみだ」


「なんて悪趣味なヤツらなんだ……あのクソ天使!」


「いえ、そんな程度では済みません……あれは、鬼畜の所業です! 絶対にここで倒さなければなりません……!!」


「………(こくり)」


「キチクってどういうイミなんだろぉ?」


 ミライがそう疑問を口にすると、エルザが振り返る。


 シャドウの大群の中にいる、ウルフ・シャドウを見つけて、あの時の疑問が解消した。


(あの時、ウルフ・シャドウがいたの、天使が連れてきたせいだったんだ。めんどくさいことするなー)


「―――みんな、こっち見てっ★」


 怯える候補生に向かって、エルザは意識を切り替えて声を出した。


 候補生が一斉に振り返って、エルザに注目する。


「エルちゃんたち、あの上から目線で陰湿な天使ぶっ殺すから、そっちよろしくっ★ 大丈夫、みんななら―――できるよっ★」


 そのエールの言葉に、候補生は目の輝きを取り戻した。


 ……その輝きは間違いなく、希望だった。


 候補生は笑みを浮かべると、魔を滅する『魔晶器ましょうき』を手にして、≪魔装≫を発動する。


「「「任せろ!!」」」

「「「任せて!!」」」


 少年と少女たちの元気に満ちた返事が、曇りがかった夜空に響き渡る。


 その勇敢な姿に、エルザは「ニャハッ★」と八重歯を見せながら笑顔で親指を立てた。


 それから振り返って、笑みを浮かべたまま再び眼前の天使を見つめる。


「―――じゃ、場所変えよっかっ★」


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