第五十二話 投擲得意
「―――ガアアアア!!」
シャドウたちは咆哮を上げ、瓦礫、ボロボロの廃車、朽ちた信号機を次々と投げつけてくる。
直撃すれば、必死の投擲攻撃だ。
が、なんとか、レン、アオイ、サクラは走りながらも避けることができた。
ヒィ、と情けない悲鳴を漏らして、涙目になりながら……。
「アイツら、なんつーもん投げてきやがんだよ!? 殺す気かよ!?」
「殺す気、決まってる……!」
「そんなこと言ってる場合じゃありません! シャドウのあの攻撃は避けられますが、いずれ追いつかれてしまいます! あのことについて、考えなければ……」
「あのことって、空宮の言ってたことか……?」
怪訝そうな顔でレンが尋ねると、アオイは「はい……」と頷いた。
「でもよ、未だにさっぱりだぜ? 真っ正面からやり合わなくていいって、どういう意味だよ……」
「チンプンカンプン」
「―――ワタシは今のシャドウの攻撃を見て、気づいたような気がします」
瞬間、驚愕に目を見開いて、レンとサクラはアオイを見た。
エルザの言葉の真意が読み解けないレンとサクラだったが、アオイのみ解に辿り着いたようだ。
慌てて、レンはアオイに聞く。
「ほ、本当か、朽葉……!」
「はい、おそらく合ってるはずです。エルザさんはたぶん、こう伝えたかったのかと……今からそれをお伝えします」
そうして、アオイは自身が解釈したことについて、レンとサクラに伝えた。
「なるほどな……真っ正面からやり合わなくていいって、そういうことだったのか……。だったら、『あそこ』なんか使えそうだな。……でも、どうやってシャドウをどうにかするかが問題だな」
「それだったら、『あれ』を使えば大丈夫です」
「あー、『あれ』か! 確かに『あれ』を集めて丈夫にすりゃイケそうだな!」
「むっ。サクだけ、置いてけぼり……」
ムスっと頬を膨らませたサクラがボソッと呟く。
レンとアオイの考えは一致しているようだが、サクラだけは全く何を言っているのかわからなかった。
『あれ』や『あそこ』が何を指しているのかも、まるで見当がつかない。
だから置いてけぼりにされて、とても不満だったのだ。
そんな不機嫌なサクラに気づき、レンとアオイは苦笑いして謝罪した。
「悪ぃ悪ぃ、てっきり氷咲も気づいてると思ってた……」
「ワタシもです……すみません。サクラさんにも、今ワタシたちが話し合っていたことをお話ししますね」
アオイは思いついた即席作戦と、その役割分担をサクラに伝えた。
「なるほど……」
と、サクラは手をポンと叩いて理解したが、不安そうに瞳を伏せる。
「でも、不安。成功、不確実。サク、ミスするから……」
「―――んなもん、やってみなきゃわかんねぇよ」
レンの発した一言に、サクラの伏せた瞳が見開いた。
そしてレンを見つめると、サクラの驚きなど気にせずにレンは言葉を続けた。
「それに、ミスすんのが氷咲ってワケじゃねぇ。オレだって、朽葉の可能性だってある。最悪、オレたち全員がミスするかもしんねぇ。……けど、オレたちにはコレしかねぇんだ。氷咲、失敗を怖がらないで、腹括ってこの作戦に賭けてくれねぇか? ―――お前の力が、この作戦に必要なんだ」
真っ直ぐな眼差しで、サクラを見つめるレン。
それをサクラも見つめ返し、数秒の沈黙を置いて答えを出す。
「……わかった、頑張る」
「―――! サンキュー、氷咲!」
「ふふっ……では、お伝えした通り。ワタシとレンさんで『あれ』の回収を! サクラさんは、限界まで時間を稼いでから、シャドウを『あそこ』まで誘導してください!」
「そんじゃ、作戦開始―――!」
三叉路を目前に、レンは気合を発した声で合図を出す。
左の道にアオイが、右の道にレン、真ん中の道にサクラが走り出した。
瞬間、背後から破壊音が轟く。
一体のシャドウが壁を走り、それから三人を攻撃しようと上からパンチを繰り出したからだ。
その拳は道路を砕き、煙が立った。
しゃがんだまま攻撃に失敗したシャドウの横を通り過ぎて、他のシャドウたちが三人の人間を追いかける。
―――それによって、計画外のアクシデントが発生した。
(クソ、シクった……!)
(シャドウをサクラさんに集中させることを失念してました……!)
全てのシャドウをサクラ一人が受け持つ想定だったのだが、シャドウが分散して
―――サクラだけじゃなく、レンとアオイを追いかけていた。
首だけ振り向かせた二人は、早々に作戦が失敗したことに焦燥感に駆られる。
―――が、突然シャドウは方向転換してサクラを追いかけ始めた。
なぜなら、
「―――サク、弓得意。投げるのも、得意」
小石を拾って、レンとアオイを追おうとするシャドウたちに、サクラがその小石を大きな頭部に向かって投げつけたからだ。
高い空間認識能力を持つサクラは、弓で狙ったところへ狙撃するのが得意。
それと同じように、手で物を投げて狙った場所へ正確に当てることもできる。
遠距離攻撃する手段が使い慣れている弓から投擲に変わっても、その空間認識能力は忌憚なく発揮されるのだ。
ふんす、と自慢げに鼻を鳴らして、サクラは二人に向かってグッドポーズまでしていた。
(ナイス、氷咲……!)
(ナイスです、サクラさん……!)
心の中で称賛し、レンとアオイはグッドポーズを返した。
そうして、戦犯となることを恐れていたサクラが窮地を救い、作戦は続行されたのだった。




