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幻想終末の欠落者  作者: あした
【第五章】 深夜訓練
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第五十三話 夫婦カラスを攻略せよ!

「ねぇな……『あれ』」


 辺りを見回して、残念そうに言うレン。


 目的の『あれ』を、未だに見つけていなかったようだ。


「変だな……いつもなら簡単に見つかるのに―――ん?」


 ボヤきながら歩いていると、アオイを見つけた。


 しかし、なんだか様子がおかしく、アオイは瓦礫にしゃがんで隠れて何かを覗き見ていた。


 アオイの謎行動に疑問符が浮かびながらも、理由を知るべく、ゆっくりと近づく。


「何やってんだ? 朽葉くちは


「あ、レンさん」


 レンの声に気づいたアオイは、首だけ振り向かせて名を呼んだ。


 そして、もう一度前を向いた。


「レンさんも、あれを見てください……」


「あれ?」


 疑問に思ったが、レンは隠れることなくアオイの横に立って、アオイの見ているモノを見た。


 そこには、疲れた様子でツタをクチバシで器用に編み、巣作りしている夫婦と思わしき二羽のカラスがいた。


 それにレンは、驚愕に目を見開いた。


「―――あれ、オレたちの探してたツタじゃねぇか……!」


 レンとアオイが探し求めていたモノ。


 それは、ツタだった。


 そのツタを、あの二羽のカラスが大量に集めていた。


(だから、ツタが見つかんなかったのか……)


 廃墟に巻きつき、本来であればどこにでもあったはずのツタが見つからなかったのは、あのカラスたちの仕業だとレンは気づいた。


「……でも、なんでツタで巣作りしてんだ?」


「決まっているじゃないですか! 木の枝がないからツタで代用しているんですよ! ……あんなにくたびれて。きっと昼夜問わず、ずっと巣作りに励んでいたんですね……健気です!」


 顔を上げて、アオイはレンに力説する。


 それを聞いて、レンは呆れ顔になってアオイを見下ろした。


「いや、フツーに枝落ちてんだけど、そこら中に……。オレ、あのカラスに枝渡してくるよ」


 ツタだけ奪って、カラスの巣作りをほったらかしたりなんかしない。


 そんなの、レンの正義感に反する行為だ。


 パパッと枝を集めて、レンはそれを抱えて巣作りに励む夫婦カラスの前に置いた。


「ほら、それ使って巣作りしろよ」


 言葉だけでは伝わらないと思い、手を差し出してジェスチャーでも伝えたレン。


 夫婦カラスはクチバシからツタを離して巣作りを中断し、枝を見て、それから顔を上げてレンを見た。


 くたびれていたはずの夫婦カラスは元気に満ち溢れ、レンに感謝を伝える。


 ……ことはなく、怒りのオーラを纏い、つぶらな瞳がつり上がっていた。


「え? なんでそんな殺気出してんの? 殺気に満ち満ちてんの?」


「「カアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」」


 怒り狂う夫婦カラスは、そのクチバシをもってレンを襲撃した。


「おい、やめろ、うぎゃあああああああああああああああああ!!」


 夜空の下で、レンの悲鳴が響き渡ること数秒後。


 チーン、と夫婦カラスに敗北したレンは、うつ伏せに倒れてピクピクと痙攣し、白目を剥いてボロボロになった。


 一方、夫婦カラスはくたびれた様子に戻り、ツタでの巣作りを再開。


「大丈夫ですか? レンさん……」


「……大丈夫、じゃ、ねぇ……」


 心配そうに声をかけるアオイに、レンは途切れ途切れに答える。


「でも、どうしましょう? ツタがなければ、作戦が……」


「あのメチャクソ変バカラスども……枝で巣作りする気がねぇ。だったら―――」


 レンは立ち上がって、ニヤリと口角を上げて夫婦カラスを見る。


「―――オレたちで、巣を作ってやりゃいい」


 レンとアオイは協力して、あるモノを拾ってきた。


 今二人の前には、薄汚れた大きな布と紐が置かれていた。


 が、アオイは何を作るのかわからなかった。


「大きな布に紐……レンさん、一体何を作ろうとしているんですか?」


「すぐにわかるぜ。朽葉くちは、その槍で布の両端に三つ穴を空けてくれ」


「はい、わかりました……」


 釈然としないが、レンの言われた通り、アオイは大きなの布の両端を黒槍の槍先を使って小さな穴を作る。


 黒槍を背中に背負い直して、アオイは合計六つの穴が空いた布をレンに渡した。


「これを、どうするんですか?」


「それはな、こうして……」


 レンは布の穴に紐を通し、それをアオイに見せた。


 完成したのは、


「―――ハンモックにすんだよ!」


「なるほど! 簡易的な感じは否めませんが、あのカラスさんたちの巣としては十分ですね!」


「だろ! んじゃ、木登りすっか」


 ハンモックを肩に担いで、レンは木登りをする。


 木の背は高くなく、また足をかけられる枝がよく生えていたため、難なく巣にちょうどいい高さまで登ることができた。


 全てのハンモックの紐を枝に結んで、夫婦カラスの巣が完成。


 調子に乗って、レンはその場から飛び降りる。


 高さはそんなにないため、足への衝撃はそこまでなく、くたびれた様子でツタで巣作りしている夫婦カラスの前に向かった。


「ほら、お前たちの代わりに超最高な巣を作ってやったぜ! あそこ見ろよ!」


 レンが木に吊るしたハンモックを指差すと、夫婦カラスは巣作りを中断した。


 レンの指差す方を見ると、夫婦カラスは漆黒の羽で羽ばたき、ハンモックに乗った。


 ゴクリ、とレンは固唾を呑む。


「こっからが本番だ……。頼むぜ、気に入ってくれよ……。もうテメェらにつつかれたくねぇんだよ、オレは……」


「一生懸命作ったんです、お願いします……カラスさん!」


 額から冷や汗を流しながら見守るレンと、両手を胸の前で組んで祈るアオイ。


 そして、夫婦カラスが上から黒いつぶらな瞳で二人を見下ろす。


 ……一気に緊張感が高まった。


(気に入れ気に入れ気に入れ気に入れ気に入れ気に入れ気に入れ……!)


(お願いしますお願いしますお願いしますお願いしますお願いしますお願いしますお願いします……!)


 全身全霊で祈りを捧げた直後、夫婦カラスは雄々しき漆黒の両翼を広げ、


「「―――カァ~」」


 それを頭の後ろで組んで、さらには満喫してそうに足まで組んで寝っ転がった。


「よっしゃああああ!!」

「やりましたあああああ!!」


 レンとアオイは勝利の雄叫びを上げて、人目を気にせずガッツポーズした。


 ……いや、お互いに人目はあった。


 レンとアオイは目が合うと、今自分が全力に喜んでいた瞬間を人に見られたことに気づき、一緒に頭に手を当てて照れ笑いした。


「よし……これでミッション完了」


 レンは夫婦カラスが編んだツタを拾った。


「一時はどうなるかと思いましたが……無事ツタを入手できましたね」


「あぁ。……けど、時間食っちまった。氷咲ひさきがもう、『あそこ』に着いてるかもしんねぇ……急がねぇと!」


 夫婦カラスの巣作りをして、作戦の要であるツタを入手したレンとアオイ。


 その二人は、最後の仕上げをするべく、決戦場である『あそこ』へと走り出した。


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