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幻想終末の欠落者  作者: あした
【第五章】 深夜訓練
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第五十一話 デジャブ

「―――みんな、いっくよーっ★」


 黒大剣をバットのように構えて、エルザはキレイなフォームでスイングする。


 黒大剣の剣脊にシャドウの巨躯がヒットし、軽々と吹っ飛んだ。


 ボールのように飛んでいくシャドウの行く先には、四人の仲間がいた。


 すでに≪魔装≫を発動していたレンは、紅光を放つ黒剣で吹っ飛ぶシャドウを斬った。


 斜めに斬られたシャドウは黒い塵と化す。


 その塵が完全に舞い上がったところで、レンは斬った後の体勢をやめて一言。


「何なんだよ、これ!?」


「決まってるじゃんっ★ レンっちたちが一撃で倒せるよーに、エルちゃんが致命傷を与えてシャドーをお届けっ★ シャドー・デリバリーっ★」


「いらねぇし、もっと他にやり方あんだろーが! ってか、シャドー・デリバリーじゃなくて、ほぼデス・デリバリーだろーが!!」


 牙を剥き出しにして文句を言いつつ、ツッコむレン。


 その横では、遠い目をしたアオイとサクラがいた。


「ほとんどワタシたち、何もしてませんね……。勝手にエルザさんが瀕死のシャドウをこちらに飛ばして、勝手にそれをワタシたちは攻撃するだけですから……」


「バッティング、正確すぎ……」


 一人離れたところで、エルザはシャドウの群れへと単身で突撃。


 それからエルザはシャドウに攻撃を放たず、シャドウの攻撃を回避。


 その一瞬の隙に、シャドウをボールに見立てて、黒大剣をフルスイング。


 それをエルザ以外の四人が、自分たちのところにやってきたシャドウを倒す、というのがエルザが思いついた名案だ。


 エルザの異常なバッティングセンスで、四人はその場から動かず、勝手に瀕死のシャドウが届けられていた。


 まさしく、デス・デリバリーである。


「「「「ガアアアアアアアアア!!」」」」


 すると、エルザの背後に四体のシャドウが襲いかかってきた。


 エルザは振り向くことなく四つの攻撃を全て回避して、シャドウたちの背後へ回り込んだ。


「―――シャドー四体、新入荷だよーっ★」


 そして、黒大剣を四回スイングして、四体のシャドウを吹っ飛ばす。


 一人一人にシャドウが飛んでくるが、それを四人は焦ることなく己の武器でシャドウを倒した。


 このやり方で50体以上のシャドウを倒していた四人にとって、最早これは単純作業だった。


「今のでもう、100体倒したんじゃねぇか?」


「そうですね。ミライくんとエルザさんが倒したのと合わせれば、すでに任務は達成していると思います」


「早く戻る、疲れた……」


「えぇ。まだあそびたいなぁ」


 サクラのもう帰りたい宣言に、ミライは頭の後ろで手を組んで物足りないと言う。


 その時、サクラは暗いオーラを出して無表情なその顔が嫌そうに変わった。


 ……これ以上訓練するのもミライの態度も、相当、嫌なようだ。


「スゲェ露骨に嫌そうな顔してんな……」


「無表情なサクラさんでも、あんな顔されるんですね……」


「だな……ん?」


(あれ? 朽葉くちは、サラッと酷いこと言ってない……?)


 同意したレンだが、ふとそんなことに気がついた。


 アオイに悪意などあるわけがない、と思いながらもアオイの横顔を見てみる。


 いつもとなんら変わっていなかった。


(あぁ―――これ、完全に自覚無しだ)


 と、レンは理解した。


 真実、アオイはサクラへの悪意などなく、ただ思ったことを口にしただけだった。


「―――まだまだ遊べるみたいだよ、ミライっちっ★」


 夜空を切り裂くような、エルザの元気な声。


 それに導かれるように、ミライ、レン、アオイ、サクラはそちらを見る。


 こちらに背を向けて、黒大剣を肩に担ぐエルザがいた。


 だけではなく―――エルザの視線の先には、ヤツらがいた。


「おい、アイツらはまさか……!」


「シャドウと―――ウルフ・シャドウの群れ!?」


 レンが言おうとした敵の名を、アオイが言い放った。


 ウルフ・シャドウ。


 容易に肉を引き千切るような鋭い牙、闇に溶け込むような漆黒の毛、どんな音をも聞き逃すまいとピンと立った獣耳。


 文字通り狼の姿をしたシャドウだが、やはり眼はなかった。


 体長は3メートル。


 つまり、5メートルのシャドウより小柄だった。


 それなのに、ウルフ・シャドウはシャドウを従えるように引き連れていた。


 それは、


「―――ボスウルフ、いる……!」


 30体のシャドウと100体のウルフ・シャドウをまとめている、ボスウルフがいたからだ。


 体長はウルフ・シャドウよりも5倍も大きい、15メートル。


 そして、この群れの頭であるため、一番奥で牙を鳴らして毛を逆立てて威嚇していた。


 なので、一目でヤツがボスウルフだということは一目瞭然であった。


「―――どれがボスなのぉ?」


 ……ミライ以外は。


 ヒュー、と虚しい風が通り過ぎる。


 ミライの衝撃発言は、レンとアオイを間抜け面にさせて、エルザを「み、ミライっち、アホすぎる……っ★」と笑いを堪えさせたた。


 そして、サクラに心底呆れたようなジト目を向けさせるほどのモノだった……。


 レンは首を横にブンブンと振って正気を取り戻し、ツッコミ役としての使命を果たす。


「はぁ!? そんなの見りゃわかんだろ! あの一番デケーのだよ!!」


「へぇ。あのおおきいイヌさんがボスウルフなんだぁ」


「似てますが……イヌさんではなく、オオカミさんです」


「ドアホ」


 ミライの間違い発言に、アオイは苦笑いしながら静かに訂正して、サクラの罵倒が『アホ』から『ドアホ』へとグレードアップしていた。


 そんな中、エルザはあることを思い出して笑う。


「ニャハハッ★ なんかスゴいデジャブ感っ★」


 ボア・シャドウを見た時、ミライは猪ではなく「ブタさん」と言ったことがあった。


 今回のと、あまりに似すぎている間違い。


 それにエルザは、デジャブを感じていたのである。


「そうなんだぁ―――イヌさんとあそぶのぉ。おもしろそだなぁ」


 あははぁ、とミライは笑った。


 ボスウルフとの戦いが楽しみだと思ったから。


 だからこそ、その笑顔は月光よりも明るく、眩しいくらいに光り輝いていた。


 アオイの訂正は、思いきり忘れているが……。


「ミライっち、やるよっ★ こっち来てっ★」


「うん」


 エルザに手招きされて、ミライは頷いてエルザの元へ走る。


 そうして並び立った二人はボスウルフ率いる群れと対峙し、得物を構えて、≪鬼装きそう≫、≪魔装≫を発動した。


 残された三人はその遠い二つの背中を、寂しそうに、悔しそうに眺めた。


「ウルフ・シャドウの群れの中に一体、リーダ―となるボスウルフがいます。あれをどうにかすれば、群れの機能を無効化できますが……」


「サクたちじゃ、無理。でも、エルザと変態、可能……」


「―――クソッ!!」


 叫び、レンは思いきり地面を踏む。


 奥歯を噛みしめて、振り絞るように言った。


「シャドウ程度倒せない、オレたちじゃ……なんの役にも立たねぇ。そんなの―――ただの、足手まといじゃねぇか……ッ!」


 言いたくない、認めたくない、言葉だった。


 レン、アオイ、サクラは、ミライとエルザよりも遥かに劣っている。


 ミライやエルザのような超人的な身体能力も、術の技量も規模もない。


 自分よりも遥かに巨大なモス・シャドウやボア・シャドウに突撃したり、どんな時も余裕綽々といれる精神力は持っていない。


 だから言うしかなかった―――『足手まとい』という現実を。


 レンの言葉にただ、反論の余地もなく、アオイとサクラは俯くことしかできなかった。


 ―――その時だ。


 ミライとエルザが、ウルフ・シャドウの群れの前にいる、30体のシャドウの蹂躙を開始したのは。


「―――レンっち、アオイっち、サクラっち、シャドウ頼んだよっ★」


「たのんだぁ」


 そう思われたが、その前にエルザとミライは、三人にシャドウ退治を託した。


 ハッとした顔で、三人はミライとエルザを見る。


 直後、


「せぇの」

「せーのっ★」


 ミライとエルザは、自身の視線の先にいるシャドウへと駆け出し―――同時に腹を蹴った。


 苦鳴を上げて二体のシャドウは吹っ飛び、進路が切り開かれた。


 その道を進んで、ミライとエルザはウルフ・シャドウの群れを目指す。


「おい、シャドウを頼んだって……ふざけんなよっ!」


「エルザさんも見ていたじゃないですか! ワタシたちが、シャドウに殺されかけたところを……! ワタシたちじゃ、無理ですよ……っ!」


「サクたち、足手まとい。できない……っ!」


 シャドウを倒せないと現実を突きつけられたばかりなのに、そんな理不尽なことをエルザから頼まれた三人の弱者。


 倒せない敵を倒すように言われても、無理なことだ。


 そしてそんなことは、変人だけど常識を持ち合わせているエルザにだってわかりきっていることだ。


 それなのにそんな言葉を告げたエルザに対して、三人が非難を飛ばすのは当然のことだった。


「―――キミたちはさ、エルちゃんたちがいなきゃ、なんにもできないのっ?」


 シャドウの間を走る途中、エルザは立ち止まって言う。


 ミライはそのまま進み、三人は絶句したままエルザの背中を眺めていた。


 シャドウらも同様で、エルザに攻撃をするチャンスなのに何もせず棒立ちだった。


 だがそれは、三人とは違って……もしもそんな愚行をすれば、即座にエルザに殺されることを直感したからだろう。


 エルザは首だけ振り向かせ、紅光を放つ黒大剣を肩に担ぎ、告げる。


「そんなんじゃ、いつまで経っても―――エルちゃんたちに届かないよっ★」


「「「―――!」」」


 その言葉に、レン、アオイ、サクラがハッとするのは当然だった。


「確かに……エルザさんの言う通りです。ワタシたちは、お二人の足元にも及びません……」


「つーか、あの上から目線ムカつく……事実なんだけど」


「レン、同意……」


 ―――いつまで経っても、ミライとエルザに自分たちは届かない。


 そんなの、三人が受け入れるワケがない。


 許せるはずがない。


 だから、


「今は届かないけど、きっと届いてみせる!!」

「今は届きませんが、きっと届いてみせます!!」


「……みせる!」


 決心した、自分たちの実力を遥かに上回る夜のシャドウを倒すことを。


 今までだって、散々エルザに理不尽な目に遭わされてきた。


 そして、なんだかんだ言って、最終的には乗り越えてきた。


 今回も同じだと、三人は決心できたのだ。


 ……が、レンとアオイは同時に宣言したものの、マイペースなサクラだけ一歩遅れてしまった。


 しかし、三人の瞳には先ほどまでの諦めはなく、強い決意で満ちていた。


 その言葉と眼差しを受け止めて、流し目で見ていたエルザは八重歯を覗かせて頷く。


「うんうんっ★ それでこそ、エルちゃん隊の一員だよっ★ だから、そんなキミたちにご褒美をあげるねっ★ 何も別に―――真っ正面からやり合わなくてもいーんだよっ★」


 んじゃねっ、とエルザは告げて、ウルフ・シャドウと戦闘中のミライの元へ駆け出した。


「真っ正面からやり合わなくていいって……は? どういうことだよ……」


「レンさん、その言葉の意味は後にしておきましょう。それより今は……!」


「あぁ、わかってるぜ……」


 レン、アオイ、サクラは紅光を放つ武器を構えると、討伐対象であるシャドウたちがこちらへ振り向いた。


 大きく息を吸って、レンは言い放つ。


「―――とりあえず逃げるぞおおおおおおおおおおお!!」


 全速力で、三人はシャドウに背を向けて逃げた。


 それは最早、お決まりみたいなモノだ。


 そのため、直後にサクラはボソッと呟く。


「スゴい、デジャブ感」


 先刻のエルザのような言葉。


 ボア・シャドウの時も同様に逃げたことに、サクラは酷く既視感があった。


 だが、決定的に異なる点が存在する。


 エルザのようにハキハキと明るい声音ではなく、サクラの声音はボソボソと暗いということ。


 そして―――あの時とは違って、アオイが出遅れることなく一緒に逃げていることだ。


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