第四十五話 告白
夕暮れの街並みの中、並んで歩いていたのは少年と少女の二人だった。
「ハテナさんとエルザさん、喫茶店に残って何を話しているのでしょう……」
「その中にミライもいるしな……謎だな」
佐伯レンと朽葉アオイである。
喫茶店で現地解散となったのだが、ハテナとエルザは残ると言って一緒に帰らなかったのだ。
なんのために残るのか疑問に思ったが、四人で帰ることになった。
が、帰ろうとするミライをエルザが「ミライっちは、まだ帰っちゃダメだよっ★」と呼び止めた。
結局、レン、アオイ、サクラの三人で帰ることになった。
……しかし今、サクラの姿はここにはなかった。
それは、
「―――ですが一番謎なのは、サクラさんがスイーツを食べに行くって言ったことですよね……」
スイーツを食べるために別れたからだ。
アオイの言葉に、「だな」とレンは頷いた。
「オレたちの残したステーキまで食って、それでまだ胃袋に余裕があるなんて……アイツ、人間じゃねぇぞ」
「別腹、とまでおっしゃってましたからね……」
アオイは苦笑いを浮かべる。
アオイが「まだ、食べるのですか?」と尋ねた時、サクラが「スイーツ、別腹」と答えた時のことを思い出して。
そう。
レンとアオイが残した17枚のステーキを、サクラは一人でペロリと平らげてしまったのだ。
なので自分の分の10枚を足すと、サクラは27枚もの巨大ステーキを胃の中に収めたということになる。
レンの言うように、あの小柄な体よりも大きいステーキを平然と食べ、そして妊婦のようにお腹を膨らませていないサクラは―――最早、人間には見えなかった。
インフェルノを約三回も乗り越えたのだから、よりその真実味が帯びてしまっていた。
不意に、レンは足を止める。
(そういえば、今オレたち……二人っきりだな)
ふと、そんなことを自覚した。
色々ありすぎて気づかなかったが、お腹にあった物がある程度消化できた今、そのことに気づけるくらいには回復していた。
「レンさん、どうかしたのですか?」
振り向いて、不思議そうにアオイが見つめる。
その純粋で何色にも染まらない、キレイな漆黒の瞳をレンは見つめ返す。
そして、
『もしかしたらレンっちの中には―――『迷い』とか、心を縛る『ナニカ』があるから上手くできないのかもねっ★』
エルザの言葉を思い出していた。
(もしかしたら、その原因は―――)
「朽葉」
「はい?」
「―――一緒に来てほしい場所があるんだ……いいか?」
レンの表情から並々ならぬ決意を感じ取る。
だが、レンが一体何を考えているか、なぜ決意をしているのか……わからなかった。
それでも、
「……はい」
受け入れなければならないと直感し、真剣な顔でアオイは小さく首を縦に振った。
それに喜びも、悲しみもなく、自然とレンは強く拳を握って、
(……こうやって朽葉から逃げないようにすんの―――二回目、だな)
己の後悔を、回想していた。
◆
「ここは……校舎裏ですか?」
第一区から変わって、レンとアオイは第七区の第七中学校の校舎裏に来ていた。
区から区への移動には時間を要し、茜色だった空には夜の闇が広がっていた。
レン、アオイ、そしてミライの三人は、ここ第七中学校の卒業生だ。
懐かしい景色を前に、アオイは全体を見回す。
「朽葉……これ、返すよ」
俯いていたレンが差し出したのは、白いハンカチ。
それはレンがウツロに取り憑かれていた時、頭から流れた血を拭くためにと、アオイが渡してくれたハンカチだ。
そのハンカチには血痕どころか、血の滲みさえなく純白に戻っていた。
丁寧に洗ってくれたのだろう、とレンの優しさを感じながらアオイは受け取る。
アオイはそのハンカチを抱きしめて、
「キレイに返してくれて、ありがとうございます。でも、これを返すのでしたら他の場所でも……」
「―――『東京災禍』の時、朽葉は校舎裏に呼ばれてたよな……」
唐突なレンの言葉に、アオイは狼狽える。
「どうして、レンさんがそのことを……!」
「オレなんだ……」
そっと、レンは顔を上げる。
アオイを見つめるその瞳は……苦しみに、抗っているように見えた。
「オレが、朽葉をここに呼んだんだ。―――今から、告白するよ。オレの罪と……朽葉への気持ちを」




