表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幻想終末の欠落者  作者: あした
【第四章】告白
43/66

第四十三話 マスター

 歩道から外れて、路地裏を通っていく。


 本当にこんなところに目的地である喫茶店があるのか、とレン、アオイ、サクラは疑いながらついてきたが、ついに路地裏を抜けた先に一つの喫茶店と思わしき店があった。


 その店は木々に囲まれて、下は芝生でその上に石畳で舗装された道があり、それは扉まで続いていた。


 自然の中にある、隠れ家的喫茶店で―――現世とは隔離された神秘的な雰囲気があった。


「ダリア……?」


 レンが看板に書かれている、『DAHLIA』をカタカナ読みにして言った。


 その喫茶店の扉をハテナが開けると、扉についていた鈴がカランコロンと鳴った。


 エルザ隊も、後に続いて喫茶店の中へ入る。


 店内には人工的な光源は一切なく、窓から入る自然光がその役割をしていた。


 仄かに薄暗いが、不気味さはなく、心地いいと感じる。


 そして、コーヒーのいい匂いが鼻腔をくすぐった。


 カウンターと、アンティークなテーブルセットが置いてあるが、6人以外誰も客がいなくて、また店員らしき人物もいない。


 初めてくる喫茶店に、レン、アオイ、サクラがキョロキョロと落ち着きなく店内を見渡している。


「―――いらっしゃい、待っていたよ」


 その時、カウンターの奥から一人の男が、カウンターを挟んで6人の前に現れる。


 その男は、60代ぐらいのメガネをかけたおじいさんだった。


 細身の体だが、年寄りの割には背がとても高かった。


 白髪まじりの髪を七三分けにして、白シャツの上に高級そうなベストを着て、そして親しみやすい蝶ネクタイをしている。


(デケェ……オレより頭一つ分くらいか? でもヒョロヒョロだ……これでガタイが良けりゃ、格好だけでも伝説の幻滅師エクソシストと同じなのに。もったいねぇ……)


 おじいさんの顔を見上げながら、レンはそんな感想を内心で零す。


 が、そのおじいさんはレンの視線に気づかず口を開いた。


「久しぶりだね、ハテナ、エルザ……そしてミライ」


 穏やかな声で言い、その男は柔らかく微笑んだ。


 顔に刻まれたシワが、さらに深くなって穏やかな顔つきになる。


「ああ」


「ひさしぶりぃ。マスター」

「久しぶり、マスターっ★」


 ハテナは短く返して、ミライとエルザは元気よく手を挙げて言った。


 その三人の後ろにいるレンとアオイは、向こうに聞こえないようにヒソヒソと会話をする。


「あの三人……あのマスターって人と知り合いっぽいけど、ミライからこんなとこ来てる話なんて聞いたことねぇぞ……!? 朽葉くちは、ミライから聞いてたか……?」


「いえ、聞いたことがないです……。ミライくん、こちらが質問をしないと答えませんから……」


「―――立ち話もなんだし、座りなよ」


 マスターがそう促すと、左のカウンター席からハテナ、ミライ、エルザ、サクラが座り、慌ててアオイ、レンが座った。


 全員が座るところを見届けて、マスターはしゃがむと三つのメニュー表を手に取って、それを初めて来店する三人に渡した。


「君たちは、うちに来るのは初めてだね。これ、メニュー表。好きなの頼んでね」


「「はあ」」


「………」


 レンとアオイは吐息まじりの返事をして、サクラは無言で受け取った。


 メニュー表の表紙から視線を外し、レンはカウンター席から男を見上げて質問。


「あの、ミライたちはメニュー表を暗記してるほどここに来てるんすか?」


「いや、それはないだろうね。彼らの場合―――」


「ミルクココア」


「チョコケーキぃ。チョコたっぷりぃ」

「ショートケーキ、クリームたっぷりっ★」


「―――と、こんな具合で決まってるから」


 レンとアオイの口から、「あ、あはは……」と乾いた笑い声を漏れる。


「これなら確かに、いちいちメニュー表出さなくて済むな」


「そうですね……」


 そんな一連のやり取りに無関心なサクラは、メニュー表をペラペラとめくって注文する料理を熟考中。


 それに続くように、レンとアオイもメニュー表に視線を落とす。


「色々なのある……どれもうまそう……」


「はい、悩んでしまいますね……」


 料理の画像がないメニュー表の文字列と睨み合って、レンとアオイは真剣にどれにするか悩んでいる。


 文字列といえど、その料理の味や匂いが想像できてしまい、そうなってしまうのだ。


 そんな二人を朗らかな笑みで見ていると、


「………」


 無言でマスターを凝視するサクラがいた。


 マスターはその訴えるような視線に気がついて、「ん?」とサクラを見やる。


「決まったのかい?」


 優しく尋ねると、サクラはコクリと頷く。


 そしてメニュー表を突き出して、注文したいものを指差した。


「……! お嬢ちゃん、これ頼むのかい? この―――インフェルノ・ステーキタワーを……!」


 つぶらな瞳を見開いたマスターがそう言うと、「え?」とハテナ以外の四人が、カウンターの上に手を置いて身を乗り出した。


 サクラの指差すメニュー表を見ると、本当に『インフェルノ・ステーキタワー』と書かれていた。


「……なんか、ヤバい気配がすんだけど、それ」


「うん、実際ヤバいよ。巨大ステーキがタワーのように10枚重なったものだからね……。これを頼んで、痛い目を見た人はたくさん見てきたよ……。こんなことを僕の方から言うのもおかしいけど……お嬢ちゃんは小柄だから、とても食べ切れそうには見えないよ」


「イケる、お肉食べたい」


 マスターの忠告など意に介さず、サクラは自分の意志を貫いた。


 だって、お肉が大好きなのだから。


 そうサクラの好物について各々知って、マスターとレンが面食らっていると、


「―――ワタシも同じく、インフェルノ・ステーキタワーをお願いします!」


 アオイが手を挙げて高らかに注文した。


 アオイに視線が集まって、もう一度、二人は面食らう。


 アオイがサクラと同じものを注文したその理由は、


(……以前、サクラさんと一緒にランニングした時、サクラさんはお肉が好きだとおっしゃってました。それはつまり、こういうことです―――サクラさんのお胸が大きな秘訣は、たくさん、お肉を食べるということです! あの時は教えていただけなかったのですが、ワタシはその答えに辿り着きました……。サクラさんと同じように、ワタシもお肉を食べれば……ワタシの貧しいお胸も少しは成長できるはずです!)


 貧乳から脱却するためだった。


 正直、サクラのようにお肉が大好きかと言われれば、アオイは好きではない。


 どちらかと言えば苦手な方だ。


 胃もたれするから。


 しかし、それでもコンプレックスである貧乳を解消するためならば、アオイは頑張れることができる。


 苦行のようなそれを乗り越えた先に、最高のご褒美があることを信じて……。


 すると、


「……お嬢ちゃんたちの意志はわかった。ならば、僕はその意志に応えなくてはいけない……ダリアのマスターとして。―――誠心誠意、インフェルノ・ステーキタワーを作らせてもらうよ!」


 サクラとアオイの強い意志を汲んで、マスターが二人に宣誓する。


 年寄りなのにその声には凄まじい熱意があって、マスターとしての確かな矜持が宿っていた。


 ……しかし実際には、サクラはただお肉が食べたいだけで、アオイは胸を大きくするためだけだという、欲望に塗れたものだが。


 マスターのやる気が満ち、燃え上がるようなつぶらな瞳をレンに向ける。


「少年、女の子二人がインフェルノ・ステーキタワーに挑戦するんだ! 男なら黙ってられないし、負けられないだろう!? 挑戦せずに逃げ出すなんて、男として一生の恥だ! 少年も、インフェルノ・ステーキタワーを注文するよね!?」


「いやぁ、オレ普通に―――カレー食べたいんすけど……」


 レンは気まずそうに、頬をポリポリと指で掻きながら注文した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ