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幻想終末の欠落者  作者: あした
【第四章】告白
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第三十九話 マンツーマン・フルボッコ指導

「はぁ、はぁ、はぁ……」


 同時刻、壁の外にて。


 虫の息となったレンが、相棒である黒剣をカランと落として四つん這いになる。


 ダラダラと流す汗が顎を伝い、地面に落ちた。


「―――全然できないね、≪魔晶術ましょうじゅつ≫っ★」


 そんなレンを見下ろして、エルザは黒大剣を肩に担ぐ。


 レンに対して、エルザは汗の一滴も流しておらず、体力を消耗していなかった。


 怒りに身を任せて、「クソッ……!」とレンは拳を地面に叩きつける。


「なんでオレだけ、≪魔晶術ましょうじゅつ≫が使えないんだ……! なんで……っ」


 ギリッ、とレンは奥歯を噛む。


 ……怒りの対象は、自分自身だった。


 イッキの候補生の中で、≪魔晶術ましょうじゅつ≫が使えないのは……レンのみとなった。


 置いてけぼりにされて、孤独になって、自分の無能さに心底腹が立って、そうするしかやり場がなかった。


「ホントどーしてだろうねっ? ここ5日間、エルちゃんが付きっきりで付き合ってあげるのにっ★ ≪魔晶術ましょうじゅつ≫できないなんておかしーよっ★」


 訓練が終わってからぶっ続けで、5日も≪魔晶術ましょうじゅつ≫の訓練をしていた。


 もちろん教官のイッキには言わず、コッソリとバレないように……。


 到底こんな時間まで訓練するなど、許可をもらえるはずがないから。


 なので教官なしで壁の外へいるため、レンとエルザは思いきり禁止事項を破っていることになる。


 キッチリ規則を守るレンは、そうしてでも≪魔晶術ましょうじゅつ≫を早く使えるようになりたかったのだ。


 アオイが≪魔晶術ましょうじゅつ≫を初めて発動したその日、レンはエルザと二人っきりになったタイミングで教えを乞うた。


『空宮、オレに≪魔晶術ましょうじゅつ≫のやり方を教えてくれ……! オレ一人だけ足手まといなんて耐えられねぇし、シャドウと天使をぶっ倒せねぇなんて……ゼッテェ嫌だ。―――オレは強くなりてぇんだ!!』


『へー、珍しーねっ★ レンっちがエルちゃんにお願いするなんてっ★ プライド激高なのにっ★』


『誰が激高だぁ!? 適正値だわ!』


『でも、なんでレンっちはエルちゃんにお願いをしたのっ? アオイっちに教えてもらえた方が嬉しいでしょっ?』


『できるわけねぇだろ……そんなダセェこと。それに、オレがお前に頼んだのは知ってるからだ』


『ハニャッ? 知ってるって、何がっ?』


『―――ミライより、強いってことをだよ』


 その一言が決め手で、エルザは引き受けることにした。


 エルザはレンの期待に応えようと、願いを叶えてあげようと頑張っているのだが……中々その兆しは見えない。


 エルザは一つ溜息を零した。


「アオイっちにも話したけど、≪魔晶術ましょうじゅつ≫って『願望』がキッカケで目醒めるんだよねっ★ あと、これは最低条件すぎてあえて言わなかったけど―――契約してる悪魔との親和性っ★」


「悪魔との親和性? ……っ」


 全身の痛みに顔をしかめながらも、レンは黒剣を使ってなんとか立ち上がる。


「そーっ★ それが悪魔と喋ったりするのに必要なんだけど、あの時レンっち、フツーに悪魔と会話してるぽかったから問題ないんだよねっ★」


「あぁ、あん時か……」


(そうか……あれは、オレとウツロの親和性を確かめるためだったのか……)


 レンは憑依者となった時、≪魔晶術ましょうじゅつ≫を発動した経験がある。


 だから、そのヒントを悪魔に聞いてみたら、とエルザに促されてウツロと脳内会話した。


 エルザの前でそれをしたことを思い出して、レンはあの時の質問の意図を理解した。


 ……が、それによって大きな疑問が生まれた。


「ん? おかしくねぇか? オレは強くなりたいっていう『願望』もあるし、悪魔との親和性だってある。……≪魔晶術ましょうじゅつ≫に目醒める条件は揃ってるはずだ。さっきまでオレたち、なんのために戦ってたんだ?」


 レンは眉をひそめて言うと、エルザはニヤリと笑みを浮かべて、


「それはね、外法って呼ばれる最後の≪魔晶術ましょうじゅつ≫覚醒方法―――レンっちを、死ぬ寸前の極限状態までフルボッコするためですっ★」


 ピンと人差し指を立てて、ウィンクした。


「………………は?」


「契約者が死んじゃうと、封印されてる悪魔は次の契約者が現れるまでずっと眠りっぱなしっ★ だから、それを回避するために―――悪魔が力を覚醒させてくれるんだよねっ★ でも、リスクも当然あって、それに失敗したらフツーに死んじゃうし、生きてても取り憑かれる可能性が高くなっちゃうんだーっ★ ニャハッ★」


「ニャハッ、じゃねぇだろーが! 思っきし邪法じゃねぇか!! つーか、あん時テメーらがオレたちをボア・シャドウで追いかけ回した理由がようやくわか―――って、極限状態? そういえば、あのクソメガネもそう言ってたような。まさか……」


「うん、おんなじだねっ★」


 レンの憶測に、なんの罪悪感もなく平然と肯定したエルザ。


 クソメガネこと―――ヌルによって、『魔晶器ましょうき』を入手する最初の試験で、440名の候補生は≪魔装≫を覚醒させられた。


 ―――『魔晶器ましょうき』に封印された悪魔に取り憑かれた憑依者に、極限状態に追い込まれたことで。


 そしてボア・シャドウでレンたちを追いかけ回したのも、同じく極限状態にするためだとエルザは言った。


 真実を知ったレンは、呆れ果てて得意の怒号を飛ばせず、ピクピクと頬を引きつらせることしかできなかった。


「ま、このやり方で覚醒できるの≪魔装≫と最初の≪魔晶術ましょうじゅつ≫だけなんだけどねっ★ あとは自分の力で切り開かなきゃダメって感じっ★ でも、予定が狂っちゃったなーっ? ホントはこのやり方で、レンっちもアオイっちも覚醒させたかったんだけど、まさかのアオイっちだけ覚醒しちゃったしっ★ レンっちだけ覚醒できないままだったねっ★」


「オレ、だけ……っ」


『だけ』という言葉に反応して、レンは黒剣を強く握りしめた。


 本当にワケがわからなかった。


 ―――どうして自分『だけ』が、未だに≪魔晶術ましょうじゅつ≫に覚醒しないのか。


『ま、エルちゃんみたいに『才能』があれば、そんなのなくても余裕だけどっ★ ニャハハハッ★』


 だとしたら、これしか考えられない。


(やっぱりオレは、幻滅師エクソシストの『才能』が……)


「―――朽葉くちはには、それ言ったのかよ?」


 気づけば、レンはそんなことをエルザに尋ねていた。


 話題を変えて、現実を受け入れないよう無意識下で防衛本能が働いたのだ。


 それ、とは外法の内容とそのリスクについてだ。


「ううん、言ってないよっ? アオイっちみたいなタイプは、ブチギレたら一番怖いからねっ★ さすがにエルちゃんでも言えないよっ★」


朽葉くちはが? んなわけねぇだろ。ブチギレから一番程遠いぜ、あんなに温厚で優しいんだからな」


 妙に明るく、自信満々に否定するレン。


 アオイが怒ったところを見たことはあるが、ブチギレたところは今まで見たことがない。


 怒ることはあっても、決してブチギレないアオイを、心が広くて温厚で優しい人だということをレンは知っていた。


 自分のことではないのに自慢げなレンに、エルザはやれやれと肩をすくませて溜息をついた。


「わかってないな~、女の子のことっ★ これだからレンっちは、≪魔晶術ましょうじゅつ≫できないダメダメっちなんだよっ★」


「関係ねぇし、オレがどんだけ深刻に考えてんのか知ってんだろーが!」


 レンのツッコミをスルーして、エルザは黒大剣を地面に突き刺して顎に手を当てる。


 考え込むような仕草をしてみせると、それから思っていることを口にした。


「もしかしたらレンっちの中には―――『迷い』とか、心を縛る『ナニカ』があるから上手くできないのかもねっ★」


「『迷い』、心を縛る『ナニカ』……」


「ちな、これただの憶測だから真に受けないでねっ? ま、とにかくレンっちっ★ この5日間でエルちゃんはわかりましたっ★ レンっちはまだ、≪魔晶術ましょうじゅつ≫は使えませんっ★ こんなに頑張って教えても無理だったから―――ごめんねっ★」


 かわいらしく両手を合わせて、エルザは謝罪する。


「はぁ!? 無責任にもほどがあんだろ!?」


 レンはエルザを指差して非難する。


 けれど、エルザのお手上げムーブは崩れない。


「だって、ホントにそーなんだもんっ★ 大丈夫だって、レンっちっ★ 焦ったって物事は滅多に好転なんかしないし、そのうち時間が解決してくれるってっ★ これ以上、続けたら、エルちゃんのツルツル美少女肌がダメになっちゃうしっ★ エルちゃんは余裕だけど、レンっちの方が体力持たないと思うからっ★ わかってよ、ねっ?」


「自分で美少女言うなー!」


(でも、実際体力は限界だ……。訓練の後に、また訓練やってんだから……。しかも、たった5日でこのザマだ……。闇雲に続けても、空宮には申し訳ねぇし、≪魔晶術ましょうじゅつ≫だってできる気がしねぇ……。それに解決策なら―――手に入れたような気がする……)


 そうしてレンは、「わかった、今日でこれもしめぇにする」とエルザに伝えた。


 それにエルザは、ホッと胸を撫で下ろす。


「よかった、そー言ってくれてっ★ 明日の休日、エルちゃん隊でやりたいことがあったからできそーだよっ★」


「ん? なんだよ、やりたいことって……」


「何って、決まってるじゃんっ★ ―――エルちゃん隊の、結成パーティーだよっ★」


 朝日に照らされて、さらにエルザの笑顔が眩しくなる。


 だから、


「―――はぁ?」


 肩をすくめて、レンは呆れ顔を浮かべた。


 ちょうどその頃―――ミライは一人の少女をお姫様抱っこしているのだった。


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