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幻想終末の欠落者  作者: あした
【第四章】告白
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第三十八話 友人関係解消

 4月20日。


 日が昇ったばかりで、朝焼けの空が広がる早朝。


 小鳥のさえずりと、柔らかな風に揺れる木々の音だけが聴こえる閑静な第一区。


 その街中を、鼻歌まじりにランニングをする、ジャージに身を包んだ一人の少女がいた。


「―――ついにワタシも、≪魔晶術ましょうじゅつ≫ができました!」


 そう嬉しそうに独り言を言ったのは、朽葉くちはアオイだった。


 初めて≪魔晶術ましょうじゅつ≫を発動して以来、まぐれではなくアオイは自由に使いこなしていた。


 そのことに、ここ5日間アオイは喜びっぱなしで、それで多くの進化系を含めたシャドウを倒すなど活躍していた。


 が、あることを思い出して、その喜びの表情が真剣なものになる。


「……ですが、エルザさんの言ったように≪魔晶術ましょうじゅつ≫による魔力の使いすぎで、すぐにダウンしてしまっています……。これを克服するには、走って走って、体力をつけなければ……!」


 ―――自分が初めて≪魔晶術ましょうじゅつ≫を発動した日。


 アオイは≪魔装≫と≪空絶結界くうぜつけっかい≫を発動したことで、魔力を使いすぎて立てないほどの疲労感に襲われた。


 それをエルザに体力不足が原因だと言われ、またその日ほどではないが≪魔晶術ましょうじゅつ≫を発動した日は息切れを引き起こしていたため、アオイは自主的にランニングをして克服しようといるのだ。


「そういえば草壁教官に、『その『魔晶器ましょうき』に選ばれたのに、やっと≪魔晶術ましょうじゅつ≫ができたのか……』と呆れられましたが……あれは一体、どういう意味なんでしょうか?」


 ふと思い出したのは、初めて≪魔晶術ましょうじゅつ≫を発動した日の訓練が終わった時のこと。


 突如として、エルザ隊の前に現れたイッキにそう言われたのだ。


 ……一体、どこから自分の≪魔晶術ましょうじゅつ≫が発動するところを確認したのか気になったが、そのことよりもイッキのこの言葉が何よりも疑問だった。


「―――考えても仕方ありません。ミライくんと同じ力を手に入れたとはいえ、全然まだまだです……。これからもずっと、ミライくんの隣に居続けるためにも、もっと精進しなければなりません!」


 しかし、わからないモノはわからないので疑問を放棄。


 気を引き締め直して、アオイは走る速度を上げた。


 すると、前方に自分と同じようにランニングをしている、見覚えのある背中を見つけた。


 アオイは手を挙げて、その名を呼ぶ。


「サクラさーん!」


 人気がないから、アオイの透き通った声はよく響き渡った。


 気づき、ジャージを着たサクラは足を止めて振り返る。


「………」


 やはり返事に応えることなく無言だったが、アオイは気にする素振りも見せずにサクラの元に到着した。


「おはようございます、サクラさん。サクラさんも、ランニングですか?」


「………(こくり)」


「もしよろしければ、一緒に走りませんか? きっと一人よりも二人の方が楽しいですし、切磋琢磨できるはずです!」


「………………(こくり)」


 サクラは何拍か置いて頷く。


 本当は一人で集中してランニングしたかったようだが、なんだか断りづらいと渋々と了承した様子だ。


 アオイと知り合って、仲間になって、まだ5日間。


 だが自分とは真逆で、アオイは感情がすぐに表に出るくらい表情豊かなことを、サクラは短い期間で知っていた。 


 なので、断った時のアオイの落ち込む顔が容易に想像できたから了承したのだ。


 サクラは無表情だけど、本当は気遣いができる、根が優しい少女なのである。


 けれど、サクラが葛藤していたことなど気づかずに、アオイはその返答にニッコリと微笑む。


「では、走りましょう!」


 サクラと一緒にランニングを再開。


 数分走ったところで、アオイはふと考える。


(集中して無言で走ることはいいことですが……ワタシとサクラさんは仲間です。今後もワタシたちの前には、大きな壁が立ちはだかることでしょう……。それを乗り越えるためには―――信頼が必要です。信頼を深めるためには、サクラさんのことをもっと知らなければなりません……。そしてそこから、サクラさんと仲良くなって―――仲間であると同時に、お友達になりたいです……!)


「さ、サクラさん!」


 友達になりたい気持ちが高まって、アオイは強張った声で話しかけてしまう。


 不自然に思ったサクラは眉をひそめるが、気にせずアオイの話を聞くことにした。


「サクラさんは、走ることは好きですか?」


「………(こくり)」


「サクラさんは、体力には自信がありますか?」


「………(ふるふる)」


「走るのは、気持ちがいいものですね!」


「………」


「サクラさんの好きな食べ物はなんですか?」


(―――って、ワタシはさっきからなんてつまらない質問ばかりしているのですか~~~~~~~っ!?)


 そこでようやく、アオイは自分の質問がいかに絶望的なことか気がついた。


 表情は笑顔だけど、心の中で猛烈に頭を抱える。


(こんなつまらないこと聞いてばかりいては、サクラさんと仲を深めるどころか、一緒にいても楽しくない人だと思われて嫌われてしまいます……! も、もっと楽しい話題を急いで考えなくては……!)


 難問に躓いているような難しい顔をして、アオイは走りながら必死に考え込む。


 その横顔をサクラはボーッと見つめて、それから前に視線を移した。


「―――お肉」


「へっ……?」


 その呟きが聞こえて、アオイは間の抜けた顔でサクラを見つめると、


「好きな食べ物、お肉。アオイ、仲間。―――そして、友達。無理な会話、不要」


 サクラはアオイの顔を見ず、やはり前を見たままそう言った。


「サクラさん……っ!」


 その顔は無表情で、その声は無感情で、そのどれもが冷たいモノ。


 だけど……その言葉とは裏腹に、アオイの胸をポカポカと温める優しいモノだった。


 アオイは仲間としての信頼を深めて、そしてそこからサクラと友達になりたかった。


 だから、つまらない人だと思われたくなくて、面白い話題を考えようと一生懸命考えていた。


 けれど―――そんな悩みなど、初めから抱える必要はなかった。


 元からサクラは、アオイのことを仲間だと、友達だと思っていたのだから。


 悩む必要のなかったことに悩んでいたアオイ。


 だが、無駄な努力だと落ち込むことはなかった。


 なぜなら、


「―――今、ワタシの名前を……っ!?」


 初めてサクラに名前を呼ばれたことに、胸を打たれて感動していたから。


 そんな想いでサクラを見つめていると、ふとアオイの視界にブルンブルンと揺れる何かが映った。


 それに視線を落とすと、アオイは衝撃で大きく目を見開いた。


(な、な、なんて巨大な―――お胸なんですかっ!!)


 ボインボイン、とジャージの上から激しくサクラの双丘が上下に揺れていた。


 ……アオイは決心して、尋ねることにした。


 どうしても聞かなければならないのだから―――。


「……サクラさん、一つお聞きしたいことがあります。いいですか?」


「何?」


 アオイの声音で、無理して話そうとしているのではないと悟り、サクラは横目でアオイを見た。


「サクラさんは―――どうしてそんなに、お胸が大きいのですか?」


「………」


「見ての通りワタシは……胸が、その、他の女性と比べて……小さいです。ですので、サクラさん! サクラさんに、お胸を大きくするための秘訣を教えていただきたいです! ご教授、お願いできないでしょうか!?」


 至って真剣なアオイ。


 決してふざけてではなく、本気で自分の胸を大きくしたいと思い、大きな胸を持つサクラに教えを乞うたのだ。


 アオイの透き通った黒い瞳から伝わる本気度合い。


 だからこそサクラは、


「―――友達、解消」


 心底呆れたようなジト目をして、走る速度を上げて、アオイを置いていった。


「さ、サクラさん!? 友達解消ってどういうことですか!? どうして置いていくのですか!? ワタシ何か失礼なこと言いましたか!? 冗談ですよね!? ま、待ってくださ~~~~~い!!」


 アオイは手を伸ばして、慌ててサクラの後を追うのだった。


 その原因が何もかも、わからないまま……。


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