第四十話 ハーレムデート?
翌日、エルザが昨日言った小隊結成パーティーをするために、第一区の広場にある幻滅師の像の前を待ち合わせ場所と指定していた。
集合時刻は午後1時。
その10分前に来て、幻滅師の像を見上げているのは―――佐伯レンだった。
シンプルな白シャツの上に、黒のジャケットを羽織って袖をまくっており、灰色のズボンを履いて、レンは爽やかな大人っぽいコーデをしていた。
(これが、伝説の幻滅師の像か……。確か『世界終末』の時に戦死した英雄で、等身大らしんだよな? 草壁教官よりもガタイいいし、2メートルあんだっけ? デケェ……)
伝説の幻滅師の像に対してそんな感想を抱いていると、なぜかレンはソワソワとし始める。
(居心地が悪ぃ……! 空宮のヤツ、なんつーとこ待ち合わせ場所にしやがった……! ここはカップルの待ち合わせ場所で有名なんだぞ!)
レンの他にも先に待っている男が何人かいて、そして彼女と思わしき女と会って、ここを離れている。
そうして今、レンは一人ぼっちだから、彼女にすっぽかされたヤツだと思われて、ソワソワしているのは恥ずかしい思いをしているからだ。
―――というわけではなく、
「あのイケメンのコーデ、相当気合が入っているようね……!」
「初々しいわよね? 私の旦那もそうだったわ、背伸びしてかわいいわよね~。どんな彼女なのかしら、気になるわ~」
……少し離れたところで生温かい目でこちらを見ている、二人組のマダムのせいだ。
おばさんシスターといい、レンはつくづく熟年の女性にモテる傾向にあるらしい。
けれど、その性質はレンにとっては呪いそのもの。
とても迷惑がっていた。
(気合入れてんじゃねぇ! 恥をかきたくねぇだけだ! 余計なお世話だよ、アンタら!)
実際には言わないで、心の中だけに留める。
レンはコーデに気合が入っていないと言い張っているようだが、マダムたちの言う通り、カッコ良く見られたいから気合が入っていた。
だって、これから会う人物の中に、あの少女がいるのだから……。
「―――お待たせしました、レンさん」
背後から、聞き馴染みのある声が耳に入る。
そちらへ振り向くと、アオイとサクラがいた。
「お、おう……朽葉、氷咲……」
レンはドモりがちに言ってしまう。
アオイの姿に、釘付けになってしまったからだ。
アオイは、白のワンピースを着ていた。
それはアオイの白い素肌と、艶やかな黒髪の魅力を最大限に引き立たせ、スラリと長い手足が際立ってよりスタイルがよく見える。
まさに白ワンピースは、アオイが着るために作られたといっても過言ではないほどスゴく似合っていた。
ランニング用のジャージを着ているサクラなんか、眼中になく視界に入る隙さえないほどに。
「あとは、ミライくんとエルザさんだけですね。お二人が来るまで、ここで待ちましょう」
「そ、そうだな。といっても、あと数分もしないうちに来るな。いくら空宮でも、自分から誘ったから約束の時間までには来るだろうよ」
―――約束の時刻から、30分後。
「お待たせ、みんなっ★」
「チコクしないでエラいねぇ」
「―――テメェらはまず、遅れたこと謝れよ!」
エルザとミライが待ち合わせ場所に到着して声をかけると、返ってきたのはレンの怒鳴り声だった。
エルザはTシャツとジーンズ生地のオーバーオールという子どもっぽい格好で、ミライはダボダボのパーカーに黒のパンツという少年っぽい格好をしていた。
そして怒れるレンに、「ごめんなさい」と二人は素直に頭を下げて謝った。
さすがの常識知らずのミライとエルザでも、全面的に遅刻してきた自分たちが悪いことは理解していた。
とりあえず、その謝罪によってレンの溜飲が下がって怒りを鎮める。
「……んで、どうして遅れたんだよ」
「何かトラブルでも巻き込まれたのですか……?」
レンは少しトゲのある口調で、アオイは心配そうに尋ねる。
ミライとエルザは顔を見合わせて頷くと、
「よりみちしてたぁ」
「寄り道してたっ★」
後頭部に手を当てて、無邪気な笑顔で遅れた理由を明かした。
やはり、この二人の常識の無ささは凄まじい。
ブチブチ、とレンの顔にいくつも青筋が浮き出る。
そして怒号すら飛ばさずに振り返って、ポケットに手を突っ込んでドンドンと大股で歩き出す。
「コイツらはトラブルに『巻き込まれる』側じゃなくて―――トラブル『起こす』側だっつんだよ……!」
「お、レンっちスゴいっ★ あってるよっ★ 道案内してないのに、場所知っているんだっ★」
「マジかよ!? こういうのってフツー逆じゃねぇのかよ!?」
思わず、レンは振り返ってしまう。
自分が歩き出した先が、エルザの向かう場所にあっているとは予想外で、大変間抜けな顔をしていた。
そんなレンを、アオイは微笑んで見ていると、
「―――アオイちゃんのおようふくかわいいねぇ」
背後からミライにそんな感想を言われて、バッと振り返ってしまう。
「か、かわいいだなんて、そんにゃ……! み、ミライきゅんの方がパーカーが似合っていて、かわいいでしゅ!」
かわいい、という言葉に動揺しすぎて、アオイは急激に呂律が回らなくなる。
顔を真っ赤にして、首と手を連動させながらブンブンと横に振った。
「あははぁ。『でしゅ』だってぇ。ヘンなアオイちゃん」
ミライが様子のおかしいアオイを笑っていると、
「アオイ、趣味悪い」
ミライとアオイのやり取りを間近で見ていたサクラが、いつものジト目でポツリと呟いた。
その時だ、ミライのターゲットがサクラに変わったのは。
「サクラちゃんはジャージなんだぁ。おようふくないのぉ? ―――だったらぼくのパーカーにはいるぅ?」
と、サクラが拒絶するその前に、ミライはパーカーで飲み込んでしまう。
「………!」
サクラは抜け出そうと踠くが、ミライがパーカーの上から抱きしめて抜け出せない。
身長の低いサクラは、ただ、ミライの胸に顔を埋めるだけだ。
すると、サクラをパーカーで飲み込むミライはあることに気づく。
「あぁ―――サクラちゃんのおっぱいおなかにあたってるぅ」
ミライの腹部に、サクラの豊かな双丘が当たっていた。
しかも、サクラが抜け出そうと暴れるごとに、その双丘がミライのお腹を叩きつけてくる。
その感触が楽しくて、ミライは「あははぁ」と笑った。
瞬間、サクラのジト目がギラリと光り、莫大な力を得る。
ミライのパーカーから抜け出し、
「―――しね……!」
その冷え切った呟きと共に、ミライの頬に渾身のビンタを放った。
サクラの小さな手がミライの笑顔をめり込み、凄まじい勢いで吹っ飛ばした。
どこかで、ドンガラガッシャンと音がした。
「ミライ、くん、と……サクラ、さん、が……」
白目を剥いて全身から生気を失い、アオイはゾンビのような掠れた声を漏らす。
まあ、ミライが吹っ飛ぶ前に、ミライがサクラを自分のパーカーで飲み込んだ時からすでにこうなっていたが。
「二人の美少女と待ち合わせしてるかと思ったら……! その後にもう二人の美少女が合流……!」
「それじゃ、あのイケメン……これから四人の美少女とハーレムデートするってこと!?」
「「最近の若い子、恐ろしいわ~~~~~~~っ!!」」
五人を見ていた二人のマダムたちが、驚愕に叫ぶ。
これよって、カップルの待ち合わせ場所として有名なこの広場が混沌と化すのだった。




