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幻想終末の欠落者  作者: あした
【第三章】隊結成
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第三十六話 策略

「やり、ました……!」


 ボア・シャドウの黒い塵が空へ舞い上がる光景を見つめ、アオイは≪魔装≫を解いて黒槍を胸の前で強く握る。


 ボア・シャドウを倒した実感、殻を破った達成感、また一つ強くなったという感覚が胸に広がった。


 パチパチ、とエルザが拍手をして、ミライと一緒にアオイの元へやってきた。


「初の≪魔晶術ましょうじゅつ≫おめでと、アオイっちっ★」


「おめでとぉ。アオイちゃん」


「ありがとうございます。ですが、ワタシが≪魔晶術ましょうじゅつ≫を発動できたのは、全てミライくんのおかげです! ……ワタシの信じていた通り、やはりミライくんは、ミライくんでした! ワタシを信じてくださり、ありがとうございました!!」


「うん―――どういうことぉ?」


 キレイな所作で頭を下げるアオイに、ミライはキョトンと小首を傾げた。


 それにアオイは頭を上げて、ミライと同じくキョトン顔。


「え? あの時、ミライくんがたすけなかったのは―――ミライくんの授けたヒントをワタシが思い出し、ボア・シャドウを倒してくれると信じてくれたからですよね?」


 アオイがミライに救いを求めた時、ミライは『がんばってぇ』と応援するだけで直接救いの手を差し伸べなかった。


 それに絶望するアオイだったが、ある言葉を思い出した。


 ―――ミライの、意味不明な擬音だらけの説明だ。


 この最高のヒントをアオイに授けたからこそ、ミライはアオイが≪魔晶術ましょうじゅつ≫に覚醒することを信じて救わなかった、と。


 そして、ミライはやはり自分の『救世主』だとアオイは言ったのだ。


「―――ヒントってなんだっけぇ?」


 が、最高に意味のないヒントを授けた張本人ミライは、全くそんな覚えなどなかった。


 アオイの凛とした顔が、美人の欠片もない間抜け面へ変わった。


 そんなアオイへ、エルザは追撃する。


「ま、ミライっちがアオイっちたちを助けなかったの―――エルちゃんの指示なんだけどねっ★」


「エルザさんの指示……? ど、どどど、どういうことですか!?」


 衝撃の真実に、アオイは激しく取り乱してエルザに問い詰める。


「≪魔晶術ましょうじゅつ≫ってね、強くなりたいとか、ぶっ殺してやりたいとか―――そーゆー『願望』で覚醒するんだっ★ アオイっちの場合、ミライっちに相応しー女の子になりたい、ってコトだねっ★ ま、エルちゃんみたいに『才能』があれば、そんなのなくても余裕だけどっ★ ニャハハハッ★」


「そう、だったのですか……」


 両手を腰に当てて笑うエルザに、アオイは項垂れる。


 てっきりミライが覚醒に導いてくれたと思っていたのに、実際にはエルザが仕組んだ策略によって≪魔晶術ましょうじゅつ≫に覚醒した。


 その真実があまりにショックで、アオイはションボリしてしまう。


 が、ある言葉を思い出して、シュンッと顔が上がった。


「な、なんでエルザさんが、ワタシの願いを……!?」


「ンニャッ? だって思いっきし叫んでたじゃんっ★ ねー、ミライっちっ?」


「うん。いってたぁ」


「確かに……思いっきり言ってました、ワタシ」


 二人に言われて、ハッキリ思い出したアオイは両手で顔を覆う。


魔晶術ましょうじゅつ≫発動前、ちゃんと人前でその願いを叫んでいたことに……。


 やらかしてしまったことに落ち込むアオイだが、今まさに己がやらかしてしまったことで自滅しそうになった。


「―――でもぉ。ぼくに『ふさわしい』ってぇ。どういうイミなのぉ? アオイちゃん」


「へっ!? そ、それは、そのー……」


 パカッと両手を開けたアオイは、顔を真っ赤にして視線を彷徨わせる。


 言えるわけがない、断じて。


 それは、自分の気持ちを伝えることに等しいのだから。


 責任感によって回答しなければいけないという気持ちと、今想いを伝えることなんてできないという気持ちがぶつかり合う。


 そのぶつかり合いを制したのは?


「わ、ワタシが! ミライくんのことが! す、す、す―――」


「―――おい、バカ宮……。わざわざそのために、あんなコトしたってか?」


 茹でダコのように顔を赤くして、タコのように口を窄めるアオイの言葉を遮る声がした。


 直後、アオイの後ろから現れたのは、


「だとしたら、聞き捨てならねぇな……」


「サクたち、利用した。許さない……」


 レンとサクラだ。


 ボア・シャドウにやられたことでボロボロになっていて、睨みつける瞳には怒りが宿っていた。


「レンっちに、サクラっちじゃんっ★ エルちゃんのおかげで、無事で何よりっ★」


「オメーじゃなくて朽葉のおかげだろーが! テメェらのせいで、こっちは生死彷徨ってたのに、なんでそんな嘘がつけんだよ!?」


「サク、死にかけてない」


「そこ強がるとこじゃねぇだろー!?」


 一応、サクラとレンは、ある程度の気力は残っているようだ。


 怒りを鎮めて、レンはミライに向き直る。


「ミライ……お前、水遊びしたがってたよな? いいぜ、付き合ってやるよ」


「ホントぉ? なにしてあそぶぅ?」


 瞬間、レンはミライの顔面を鷲掴みにして―――川の水の中へと沈めた。


 しばらく沈めた後、レンは手を離すと、頭ごと全身がズブ濡れになったミライが起き上がる。


 芝生の上でヤンキー座りするレンと、川に尻もちをつくミライの目が合った。


「なにこれぇ?」


「ミライの顔面水に沈めるゲームだ」


「―――? たのしいのぉ?」


「楽しくねぇよ! けどな、テメェらのせいで散々な目に遭ったんだ! こんぐらい仕返ししなきゃ、帳尻合わねぇだろーが!!」


 大きな瞳を丸くさせてミライが疑問を口にすると、レンは牙を剥き出しにして叫んだ。


「へぇ。そうなんだぁ。じゃあぼくはぁ―――」


「え?」


 突然、体が浮いてそんな声を漏らすレン。


 なぜ、レンの体が浮いているのか?


 それは後転した流れで逆立ちして、ミライが両足の裏でレンを持ち上げたからだ。


 圧倒的な身体能力でそんな芸当をしてみせると、レンの視界に川のキレイな水とそれに反射する間抜けな顔をする自分の姿が映った。


 直後、


「―――レンをかわにいれるゲームぅ」


 ……レンの全身が、川の中へ沈められた。


 ミライはレンの腹の上に乗っていると、川からブクブクと水泡が出てきた。


(……これじゃ、帳尻合わねぇし……マジで、死ぬ……っ)


 レンが、水中で息を吐き出してしまったからだ。


 今度こそ本当に、レンは生死を彷徨いそうになっていた……。


 ミライとレンを見て、エルザは指を差して笑う。


「ニャハハッ★ レンっち、早速やり返されちゃってるじゃ―――」


 が、背後からタックルをされた。


 前から川に入って全身がズブ濡れになったエルザは、両手両膝をついて首だけ振り向かせる。


 そして自分に抱き着く目の前の人物を見て、紅い瞳をパチクリさせた。


「―――サクラっちっ?」


「エルザ、同罪。ズブ濡れの刑、処す」


 そうして、四人の少年少女は川遊びをする。


 笑って、濡れて、笑って、濡れて……ある者はまた死にかけて。


 陽光が反射して、川の水面がキラキラと光り輝く。


 日陰にポツンと取り残されたアオイは、


(……いつの間にか、完全にワタシのこと忘れてますね。まあ、そのおかげで有耶無耶になりましたが……なんだか、それはそれで寂しいです)


 ……独り静かに、落ち込んでいた。


 ミライに自分の想いを打ち明けそうになる絶体絶命のピンチに陥ったアオイだが、レンがミライを水遊びに誘ったことで回避できた。


 ミライの興味の切り替わる速度が凄まじいおかげである。


 ……しかし、それはそれで寂しくもあり、悲しくもあった。


 自分は勇気を振り絞って伝えようとしたコトが、ミライにとっては簡単に興味を失うモノだという、気持ちのギャップが。


 でも、ミライほどではないが、アオイだって気持ちの切り替えは得意な方だ。


 いつもそんなミライをそばで見て、密かに見習っていたのだから。


 寂しい気持ちと悲しい気持ちをポイッと投げ捨てて、


(ですが、今はそれより―――)


「ワタシも混ぜてくださーい!」


 仲間のいる川へと、駆け出した。


 靴も脱ぎ捨てず、みんなと同じ格好で、濡れることなんて気にもしないで。


 だって早く―――その青春の、仲間に入れてほしかったから。


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