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幻想終末の欠落者  作者: あした
【第三章】隊結成
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第三十二話 紳士

「全然日が高いっ★ まだまだ訓練できそーだねっ★」


 真っ青な空を見上げて、エルザがそう言った。


 いつも訓練は夜まで行われている。


 正午から二時間が経過した今なら、あと六時間ほど訓練ができる時間が残っていた。


 エルザは振り返って、四人に尋ねる。


「みんな、何かしたいことあるかなっ?」


「―――≪魔晶術ましょうじゅつ≫の訓練がしてぇ!」


「―――ワタシもですっ!」


 間髪入れず、手を挙げたレンとアオイが勢いよく前に出てきた。


 鬼気迫るほど目は血走っていて、明らかに様子はおかしかったが。


 この必死さは予想通りだと、エルザは八重歯を覗かせて笑った。


「そーいうと思ったよっ★ だってレンっちとアオイっちだけ、≪魔晶術ましょうじゅつ≫まだ使えないもんねっ? みんなに置いてけぼりにされて、焦燥に駆られるは当然だよっ★」


「……っ! あぁ、そうだよ。メチャクチャ焦ってんだよ、オレたちは……!」


「≪魔晶術ましょうじゅつ≫が使えないワタシたちは、明らかに戦力不足です……。このまま皆さんにこれ以上、後れを取るわけにはいけません……! なんとしても≪魔晶術ましょうじゅつ≫はできなくては……! でも、どうすれば……」


「「―――だったら、俺たちが教えるよ! 朽葉くちはさん!」」


 突然、後ろから陽気な男の声がした。


 エルザ隊はそちらを見る。


 そこにいたのは二人の候補生の少年。


 レンをバカにして、アオイに優しく教えると言っていた、あの二人だった。


「テメェら、どうしてここにいんだよ……!」


「サボり、なんだけど……」


「なんかスゴい爆発音みたいなの聞こえてきたから、こっちに来てみたらお前たちがいたんだよ」


 ミライ以外の四人が、ミライの≪陣鬼じんき連衝れんしょう≫の破壊音によって引き寄せられたのだと瞬時に理解した。


 それに気づき、レンとアオイは遠い目をする。


「それで、なんか悩んでるような声が聞こえて、俺たちが参上したってわけ」


「そういうこと。それじゃ朽葉くちはさん、今から俺たちが優ーしく教えてあげるからね?」


 爽やかスマイルで、二人の少年はアオイにそう言った。


 しかし、その心の中は、


(この小隊はなぜか、美少女四天王―――空宮さん、氷咲ひさきさん、朽葉くちはさん、星無ほしなしさんが勢揃いしてるが、同時に曲者揃いだ……! しかし、その中でも唯一朽葉(くちは)さんだけはマトモ……! 朽葉くちはさんしか、選択肢は残されていない……!)


(だが、星無ほしなしさんは論外として、空宮さんと氷咲ひさきさんと比べて、朽葉くちはさんはお胸と才能が残念だ……。しかーし、そんなことなど、どうでもいい! 男ならどんな女の胸だって受け入れる、才能なんてモノも求めん!)


((俺は―――黒髪ロングの清楚系美少女が大好きだから! コイツを出し抜いて、朽葉くちはさんを俺の彼女にしてやる!))


 そんな思春期ボーイの、よこしまだけれど純粋な気持ちでいっぱいだった。


 アオイは困惑して目を泳がせると、


「―――み、ミライくんに教えていただくので、結構ですっ!」


 ミライを引っ張り出して、二人の少年に言い放った。


 アオイとミライが並び立った瞬間、二人の少年は―――悟りを開き、極地へ至

る。


 アオイとミライが、光り輝いて見えていた。


 そして、少年たちの汚い心が浄化され、踵を返してエルザ隊から離れようとする。


「黒と白の聖なる領域に……」


「俺たちは立ち入ってはならない……」


「「―――『百合』は、誰にも穢されてはならないのだから……!」」


 そう言い残して、二人の紳士は去っていった。


「か、帰っていったようですが……あれはどういう意味なんでしょう?」


「ねぇ」


「アイツら、アホか。ミライを女だと勘違いしてやがる……」


「ま、しょーがないよねっ★ あの見た目だもんっ★」


 アオイとミライは紳士の言葉を理解できなかったが、レンとエルザは理解していた。


 ミライは中性的な美少年だが、見る人によっては美少女にも見えてしまう。


 たとえ、男物の隊服を着ていたとしても。


 知り合ってまだ時間が少ないから、さっきのようにそう勘違いしても仕方がなかった。


 一方、サクラはどうでもよさそうに、無関心のままボーッと一部始終を見ていた。


「アオイちゃん」


「はい?」


「ぼくに≪マショウジュツ≫のやりかたぁ。おしえてもらいたいんだよねぇ。いいよぉ? いっしょにやろぉ」


「本当ですか!? では、早速お願いします!」


 背中から黒槍を手に取って、アオイはやる気満々。


 ミライは頷いて、身振り手振りを大きく使って解説を始める。


「それにバンってやるとバぁンってなるじゃん。それでバンしたヤツをもっとバぁンってするんだよぉ」


「―――ミライくんっ、その説明では全然わかりませ~~~んっ!!」


 アオイは半ベソをかいた。


 ミライが解説したことを簡単に説明すると、≪魔装≫を発動して『魔晶器ましょうき』に送った魔力を外に放出するようなイメージ、ということだ。


 つまり、どっちにしろ解説の役割を果たしていない。


 傍から見ていたレンは、アオイを憐れんでいた。


朽葉くちは……ミライにそういうのはゼッテェ無理だって」


「ミライっちは、どー考えても感覚タイプだからねっ★ 説明できっこないよっ★」


 そーいえばっ、とエルザはレンに一つ尋ねる。


「レンっちが≪魔晶術ましょうじゅつ≫できないのおかしんだよねっ★」


「……? どういうこった?」


「だってレンっち、一回、悪魔に取り憑かれてた時、フツーに≪魔晶術ましょうじゅつ≫やってたじゃんっ★」


「あ……」


 エルザに言われて、思い出した。


 レンはウツロに取り憑かれていた時、黒剣の剣身に闇のオーラのようなモノが纏っていた。


 それこそが―――≪魔晶術ましょうじゅつ≫だ。


 レンは一度、自分の意志ではないが、己の肉体は確かにその発動を経験している。


 その感覚があるのに、未だ≪魔晶術ましょうじゅつ≫ができない……。


 それは明らかにおかしい、とレンは強い違和感を抱く。


 不意に、自分の手の平へ視線を落とした。


「そうだよ……オレ、あん時≪魔晶術ましょうじゅつ≫やってたじゃねぇか。なのに、どうしてオレは……」


「悪魔にきーてみればっ? 何かヒントぐらいは教えてくれると思うよっ★」


 レンは頷くと、エルザの言う通りにウツロとの会話を試みる。


 集中するために、目を瞑って頭の中で話しかけた。


(ウツロ。お前一度、オレの体で≪魔晶術ましょうじゅつ≫やってたよな? どうやったんだ、教えてくれ……!)


『うん、いーよ。教えてあげるよ』


 脳内会話を始めると、ウツロがすんなりと受け入れた。


 レンは喜びの吐息を漏らすが、あの意地悪悪魔のことだと、すぐに疑いの気持ちへ切り替える。


(お前のことだ……『対価を寄越せー』とかなんとかで、タダで教える気はねぇんだろ? どうせ)


『うん、そーだよ。短い期間で僕のことよくわかってるじゃん。教えてほしかったら―――その体、僕にちょーだい?』


「―――やるわけねぇだろ!」


 レンはバチッと目を開けて、実際に怒鳴り声を上げると、


『チェ、レンのケチ」


 ウツロのかわいらしい愚痴が、頭の中で聞こえた。


 脳内会話終了。


「ダメだったみたいだねっ★」


「クソ……アイツ、ヒントをやらないどころか、また取り憑かせろとか言ってきやがった……。どんだけ、現実こっちに飢えてんだよ……それか恨んでんのか?」


「……両方じゃないかな」


 誰にも聞こえないような声量で、エルザは静かに答えた。


「………?」


 すると、サクラの耳がある音を捉える。


 エルザの声ではない、別の音だ。


 音のする方を見て、その理由を把握する。


 サクラはその報告をするため、エルザの背中をつつく。


 こんな喋り方なので、実際に見てもらった方が早いと思ってのことだった。


「んっ? サクラっち、どしたのっ?」


「………」


 無言で、サクラは音が聞こえた方を指差す。


 エルザがそちらへ顔を向けると、


「「―――助けてくれ~~~~~~~~~~~っ!!」」


 一体の真っ黒な巨大猪に追われて、二人の少年が泣き叫びながら全力疾走して逃げていた。


 その少年たちとは―――思春期ボーイから紳士へ進化し、『百合』を見守ることを誓ったあの二人だった。


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