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幻想終末の欠落者  作者: あした
【第三章】隊結成
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第三十一話 満場一致

 なんやかんや紆余曲折を経て、自己紹介を終えたエルザ隊。


 彼らは今、訓練を開始しており、陣形を組んで荒廃した世界を走っていた。


 そんな中、レンは目だけを動かして周囲を観察すると、ある違和感を抱く。


「……なんか、静かだな」


「はい……なんだか不気味です。いつもであれば、もうすでにシャドウと遭遇していてもおかしくないのですが……」


 レンと同様の違和感を抱き、アオイは警戒心から怪訝な顔になる。


 普段であれば、訓練開始から30分もしないうちにシャドウと遭遇しているのだが、一時間が経過した今、エルザ隊は未だに一度もシャドウと遭遇していなかった。


「―――止まってっ★」


 突然、この小隊のリーダーであり先頭を走るエルザは止まると、同時に片腕を横に伸ばして『止まれ』というサインを仲間に送る。


 四人はその指示に従って、走るのをやめた。


「どうかしたのか? 空宮……」


 背後からのレンの問い。


 それにエルザは背中の黒大剣を持って≪魔装≫を発動し、


「―――みんな、来るよっ★」


 八重歯を覗かせた笑顔で答えた。


 直後、廃墟と廃墟の間から、多数のシャドウがエルザ隊を大きく囲うようにゆっくりと姿を現す。


 が、エルザの警告を聞いていた四人は、すでに戦闘態勢に入っていた。


 エルザ隊は己の得物を手にし、死角を潰すように体をシャドウに向けて円を作り、≪魔装≫、≪鬼装きそう≫を発動した。


「今までコイツらに遭遇しなかったのは、ここでオレたちを張ってたからか!? 数もかなり多い……50体以上はいるぞ!」


「囲まれていますし、戦闘を避けることは難しいです……倒すしかありません!」


「いっしょにがんばろぉ」


「………(こくり)」


「さーて、ぶっ殺し開始っ★」


 あっ、と黒大剣を肩に担ぐエルザは、ふと何かを思い出した。


 そして、前を見つめながら「レンっちっ★」と名前を呼ぶ。


「なんだ? 指示なら、さっさとしろよ」


 黒剣を構えたまま、レンも真っ直ぐ敵を見据えながら答えた。


 否、エルザもシャドウを見据えているが警戒しておらず、ただただ景色を眺めるような目つきだった。


 エルザは、シャドウを『敵』として認識していなかった。


「レンっちさ、エルちゃんがリーダーなの不満だったよねっ? だったら一回、エルちゃんの代わりにリーダーやってみるっ? それでもし上手くいったら―――リーダーの座、レンっちに譲ってあげるよっ★」


 そんなことを、エルザは敵と遭遇したこの状況で提案した。


 思わず、レンは敵から視線を外してしまい、驚愕した様子でエルザに顔を向けた。


「お前……本気か?」


 その問いに、


「―――うん、マジの本気だよっ★」


 エルザは、首だけを振り向かせて答えた。


 流し目の真紅の双眸。


 エルザのその瞳から、レンは真意を確かめるようとする。


 ニヤリ、とレンは口角を上げた。


 ―――嘘じゃない。


 そう、レンは判断したのだから。


(絶好のチャンス……これを逃すわけにはいかねぇ。―――オレがこの小隊の、リーダーだ!)


「乗ったぜ、それ。でも空宮、オレがそのままリーダーの座ぶん捕っちまうぜ? 後悔しても知らねぇからな」


「ニャハハッ★ 隊の生存率が高ければ、エルちゃんは誰でもいーけどっ★」


 レンは、エルザから眼前のシャドウに視線を移す。


「―――佐伯レン隊、いくぞっ!!」



 エルザから変わって、レンがリーダーとなった。


 そしてレンは、初の指示を四人の仲間へ与える。


「みんな! 自分の目の前にいるシャドウをぶっ倒すぞ!」


「うん」


「はい!」


「わかった」


「了解っ★」


 佐伯レン隊は行動を開始する。


 レン、ミライ、アオイ、エルザはシャドウの元へ向かい、サクラは弓であるため、その場から射撃の準備をする。


 黒弓の弦を掴み、引いた。


 瞬間、魔力で作られた漆黒の弓矢―――黒矢が顕現した。


 弓型の『魔晶器ましょうき』は、≪魔装≫状態にある時、弓を引くだけでこの矢が顕現されるのだ。


 黒矢は、自身の魔力が尽きない限り何度でも放つことができる。


 そうしてシャドウに肉薄する四人は、咆哮を上げて突進するシャドウに攻撃を仕掛ける。


 同時に、サクラが漆黒の矢を放った。


 3分もしないうちに、50体以上いるシャドウは全て黒い塵と化した。


「よし! オレがリーダーなら、ざっとこんなもんよ!」


 ガッツポーズして、レンは確かな実感を得た瞬間。


 廃墟の上で、レン隊を見下ろすナニカが嗤って飛び降りる。


 ズドーン、と衝撃音と共に煙が立った。


 四人が煙の発生源を見ると、煙が晴れていく。


 そこには、5体のシャドウがいた。


 飛び降りてきたのはシャドウで、今では脅威でもなんでもない、取るに足らない害虫に等しい存在。


 ……そのはずだったのだが。


「―――サクラさん!」


 アオイが悲痛めいた声で叫ぶ。


 サクラが、その5体のシャドウに囲まれていた。


 サクラは、弓使いだ。


 接近戦は圧倒的に不利で、一体を倒しても、他の四体の攻撃は対処しようがない。


 つまり、これが意味するのは……サクラの『死』だ。


 ―――もう二度と、目の前で誰も失いたくない。


 両親を殺されて、そう誓いを立てて今まで生きてきた。


 それなのに、レンの目の前で、今再びシャドウに殺されそうになっていた。


 ……今度は、仲間が。


「オレの、指示のせい……か?」


 覇気のない、か細い声でレンが言う。


 仲間が今、死の間際を辿ろうとしているのは、全てレンのせいだ。


 レンの安直な指示によって、懐に入り込まれたら終わりの、サクラを守る者がいなかった。


 コレは敵の奇襲を想定していない、レンの読みの浅さが招いたもの。


 こうなったのは、レンのせいだ。


 自分の低能さと愚かさを突きつけられ、挙句、『仲間を死なせない』という決意すら守れなかった。


 ―――オレが、氷咲ひさきを守ってれば。


 ―――オレが、一瞬で駆けつければ。


 ―――オレが一人で、全部瞬殺できるくらい強ければ。


 ああすれば、こうすれば。


 そうできれば、そうなれば。


 一瞬のうちに、願望を交えた大量の後悔が脳内を埋め尽くす。


 だが、もう手遅れ。


 憤死しそうなほどの自分への怒りが全身に駆け巡り、


「―――オレは、リーダー……幻滅師エクソシスト失格だ……っ!!」


 レンは声を振り絞って、強く、強く拳を握りしめることしかできなかった。


 陰惨に嗤った5体のシャドウが、小さな少女に死を告げるべく魔の手を伸ばした。



「―――この程度、余裕」



 サクラは地面を蹴って、跳び上がる。


 身長が5メートルもある、己よりも倍以上に大きいシャドウの頭上まで。


 そして弓をシャドウの脳天目掛けて、高速で五回、黒矢を放つ。


 空中で回転しているというのに、5体のシャドウの脳天に寸分も違わずに黒矢を突き刺した。


 ―――黒い塵へと成り下がって、5体のシャドウは消滅する。


「わぁ。スゴいねぇ。サクラちゃん」


 白刀を鞘に収めたミライが、サクラに子どもっぽいパチパチした拍手を送る。


 アオイとレンは、一瞬とも思える凄まじい芸当に唖然としていた。


「今、何が起こって……」


氷咲ひさきは、あんなこともできんのか……?」


「―――スゴいよね、サクラっちっ★」


 いつの間にか二人の背後に立っていた、背中に黒大剣を背負ったエルザがそう言った。


 その声にハッとして、アオイとレンが振り返る。


「エルザさん、いつの間に……!」


「前にサクラっちがシャドーに囲まれた窮地で、あーやって切り抜けたのは見てたけど、実際に見てみるとスゴいねっ★ 接近戦が苦手な弓使いとしての欠点がないっ★ 完璧だねっ★」


 そうサクラを称賛すると、エルザは浮かない顔のレンに体を向ける。


「それでレンっち、初めてリーダーになった気分はどーかなっ? 手応えあったかなっ? できそーかなっ?」


「性格(わり)ぃぞ、テメェ!」


(―――でも、今はその皮肉に救われるな……)


 エルザの随分と遠回しな慰め。


 いや、慰めではなく、都合よく解釈しているに過ぎないかもしれない。


 けれど、仮にそうだとしても、心が軽くなったのは事実だ。


 ―――仲間サクラが、死なずに済んだのだから。


 だから、エルザの本心はどうだっていい。


 一人勝手に感謝を覚えながら、レンは勝手にエルザに告げる。


「オレじゃリーダーは務められねぇみたいだ……リーダーは、諦めるよ」


「レンさん……」


「わかったっ★ んじゃ、このままエルちゃんがリーダーってことでいーかなっ★」


「―――ちょっとまってよぉ」


 のほほんとした声が聞こえて、そちらを見ると、ミライとサクラがこっちへ来ていた。


 到着して、ミライはエルザに向かって手を挙げて言う。


「ぼくぅ。リーダーになりたぁい」


「おいおい、お前にできるわけねぇだろ……。単独で特攻カマすだけだぜ、絶対……」


「ミライくんには申し訳ありませんが、ワタシもそう思います……」


 ミライがリーダーとなった光景を想像して、レンは遠い目をして、アオイは苦笑する。


 何かとミライに甘いアオイであるが、さすがにこればっかりは擁護できなかった。


 しかし、


「わっかんないよ、二人ともっ★ やってみなくちゃわかんないってっ★ それじゃ、エルちゃんとミライっちでリーダーしてみよっかっ★ それでどっちがよかったか、みんなに判定して決めてもらおっ★ まずは先攻、エルちゃんからねっ★」


 そうして―――エルザとミライの、リーダーの座をかけた勝負が始まった。


 エルザ隊はシャドウと遭遇すると、


「ミライっち、レンっち、アオイっち、突っ込んでドンドン蹴散らしてってっ★ サクラっちは三人の討ち漏らしをカバーしてあげてっ★」


 エルザの迅速な状況把握からの適切な指示によって、先ほどのようなピンチ(実際はそうではなかったが)に陥ることなく、スムーズにシャドウ退治ができた。


 エルザは小隊のリーダーとして必要な『広い視野』『瞬時の決断力』『動じない精神』など持っていた。


 だからこそ、エルザの指示のもとに動いた三人の判定員の評価は、当然とても高かった。


「次はミライっちの番だねっ★」


「うん。がんばるぞぉ」


(あの変人で奇人な空宮が、あんなリーダーとしてスゲェヤツだなんて……。それじゃ、もしかしたら……!)


(ミライくんも同じように、途轍もないリーダーシップを発揮するのでは……!)


 密かに、レンとアオイから期待を向けられるミライ。


 そうしてミライをリーダーとした、星無ほしなしミライ隊の行動が開始した。


 前方に大量のシャドウを発見して、ミライが取った行動とは、



「―――あははぁ」



 指示も何もしないで、単独でそのシャドウの群れに突っ込むことだ。


陣鬼じんき連衝れんしょう≫で、どんどんシャドウを消滅させて無双するミライ。


 破壊音が轟き、一方的に蹂躙されるその光景を見て、


「やっぱこうなるよな、ミライは……」


「思った通りでした……」


 レンとアオイは、悟りを開いたかのような穏やかな顔で……そう言った。


「それじゃ、みんなっ★ リーダーに相応しーの誰かなっ★」


 キャピキャピ、とエルザがかわいらしく尋ねる。


 判定員―――レン、アオイ、サクラは、どこからか取り出したエルザの名前が入ったプレートを持った。


 満場一致。


 こうして、ミライの知らぬ間に―――エルザがリーダーになることが正式に決まったのだった。


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