第二十八話 致命的弱点
イッキが小隊の編成メンバーを発表していき、いよいよ最後の小隊を発表しようと五人の名前を呼んだ。
「最後、空宮エルザ隊。リーダーは、空宮エルザ。そしてメンバーは、星無ミライ、氷咲サクラ、朽葉アオイ―――佐伯レン。以上だ」
そうしてここに、22の小隊が結成された……のだが。
「呪われてんのかな……オレ」
レンにとっての疫病神―――ミライとエルザが、小隊の仲間として入っていた。
そのことに嘆き、レンは地面に四つん這いになって項垂れた。
「やったぁ。またみんなといっしょだぁ」
「はい! ミライくんと一緒で、ワタシも嬉しいです!」
「スゴい偶然だよねっ★」
一方で、ミライ、アオイ、エルザは、小隊としても一緒になれて喜んでいた。
「………」
もう一人のメンバーであるサクラは、小さな背中に黒弓を背負っていて、関心がなさそうに地面をボーッと眺めているだけだった。
その時、ハッと何かに気づいたレンは、勢いよく顔を上げる。
「ちょ、ちょっと待てよ、草壁教官っ! 空宮をリーダーって正気かよ!? あんな人をからかって、バカにしてばっかで、そんな戦闘狂のヤツに務まるわけがねぇって!? 考え直せよ!」
「ニャハッ★」
レンに鋭く指を差されて言いたい放題言われても、エルザは痛くも痒くもない。
ただ八重歯を見せて、いつもの明るい笑顔を浮かべるだけだ。
それにムカついたレンは、牙のように尖った歯で歯軋りしてエルザを睨みつけた。
目も当てられないと、イッキはそっと瞼を閉じる。
「お前の言い分もわかるが、空宮にはリーダーを張れるだけの実力は備わっている。……悔しいがな。だが、時期にお前も目の当たりにするはずだ―――空宮の力を」
「―――!?」
(そこまで言わしめんのか、空宮の才能は……! でも、空宮の指示に従うのは癪だし、何より……)
隊のメンバーに違和感を持ち、レンは立ち上がってそれをイッキに問う。
「だったら、なんでこのメンバーなんだよ!? オレたちが友達だからって、こんな風にしたのか? 小隊としてのバランス、ちょっとは考慮しろよ!」
「いや、考えているが? 俺がそんな浅はかな理由で編成するわけがないだろう。このメンバーにしたのは、トップ2である空宮と星無の足枷として―――ワースト2である佐伯と朽葉を入れることで、他の小隊と実力差が出ないようにするためだ」
ドカーン、とレンとアオイに爆弾が落ちてきたような衝撃が全身に走る。
明かされた真実は、それほどまでの威力があった。
「ワースト2!? オレと……!」
「ワタシが!?」
レンとアオイが自分自身を指差すと、イッキは「ああ」と頷いた。
「どうして、ワタシたちがワースト2に……」
あっ、とアオイは何か思い当たる節があった。
それをイッキに伝える。
「もしかして、ワタシたちをワースト2にしたのは……体力不足が理由ですか?」
「訓練初日の時のか……! オレと朽葉だけ、メチャクチャ遅かったからな……」
アオイの憶測が正しいと思い、レンはイッキへ反論する。
「オレたちが遅れたのは、ミライと空宮がペース上げたせいだ! 草壁教官も知ってんだろ? アイツらに煽られたんだから」
「確かに煽られたな、しつこく」
その時のことを思い出したのか、いつも険しいイッキの顔は、その色をより濃くする。
「ですが、あれ以降ワタシたちは、遅れずにちゃんとついて来れています! 体力不足ではありません! もう一度、再評価をお願いします! ……って、それだとワタシ、ミライくんと違う小隊にされるじゃないですか~~~っ!?」
ワースト2という評価が不当だということが先行して、再評価された先でミライと同じ小隊になれないことに気づく。
アオイは頭を抱えて嘆いた。
そんな中、イッキは冷静に告げる。
「いや、再評価しても結果は変わらない。そもそも、お前たちをワースト2にしたのは、体力不足よりも致命的なことが理由だ」
「「致命的?」」
同時にオウム返しをして、首を傾げるレンとアオイ。
二人は体力不足ではないし、客観的に見ても、身体能力だって110名いる候補生の中でも上位に食い込んでいるはず。
そして『魔晶器』に魔力を送ることができているため、魔力をコントロールする技術―――≪魔装≫に関しても特に大きな問題はない。
何が致命的なのか、まるで見当がつかない。
しかし、それでもイッキは二人の疑問に「そうだ」と頷く。
そしてついに、レンとアオイの致命的な弱点を告げたのだ。
「―――お前たちが未だに、≪魔晶術≫を使えないからだ」
「ワタシたちだけ、ですか……? そんなはずは……あと10人くらいいたと……」
「そ、そうだぜ! オレたち以外にもいるぞ、使えねぇヤツ!」
悪魔と契約し、『魔晶器』を手に入れて早一ヶ月。
そして、候補生となって訓練を始めて二週間。
その間に、候補生たちは≪魔晶術≫を発動するための訓練を各々行い、その力に目醒めた。
しかし、レンとアオイを含めた十数人だけ、未だに≪魔晶術≫が使えなかった。
その者たちと比較して、レンとアオイは実力的には勝っていると自負しており、さらに自分たちがワースト2であることの疑念が深まった。
「―――いや、お前たちだけだ。お前たちが言っているソイツらは、昨日≪魔晶術≫を発動するところを俺はこの目で見た」
「嘘だろっ!?」
「本当ですか!?」
驚愕して、レンとアオイは思わず声を上げた。
すると突然、レンとアオイの前に二人の候補生の少年が現れる。
「嘘じゃないし、ホントだ。お先に≪魔晶術≫使えない組を脱却させてもらった、佐伯! あ、朽葉さん。あとで俺が≪魔晶術≫のやり方教えてあげるね? じっくり丁寧に……」
「佐伯に至っては、悪魔から自我を取り戻した期待のルーキーだってのに、意外と大したことないんだな! あ、朽葉さん。頼るなら、俺の方がいいよ? スッゴい上手いから……色々と」
その二人の少年は、元≪魔晶術≫使えなかった組だ。
しかし今は、≪魔晶術≫が発動できるようになったことで、すっかり天狗になっていた。
憎きイケメンはとことんバカにして、美人にはとことん優しくして。
「それは、その……」
「―――テメェら、好き勝手言いやがって……! どっか行きやがれ!」
困っているアオイの助け舟を出すために、レンは特技の怒号を飛ばす。
その少年二人は笑いながら、レンの前からシュンッと立ち去った。
その場面に周囲から、クスクスと笑いが起こった。
それを耳にして、
(クソッ、アイツらも笑ってるコイツらもバカにしやがって……! ゼッテェ≪魔晶術≫できるようになって見返してやる!)
奥歯を噛みながら拳を強く握って、レンは密かにそう決意するのだった。
「でも、最終試験っていっても、この小隊でシャドウを倒すってだけだろ? 楽勝だな!」
「それな! だって私たち≪魔晶術≫使えるようになって、スパイダー・シャドウもやっと倒せるようになったし! 最終試験っていう割に、レベル低すぎ!」
「最終試験、余裕で突破して! 俺たち全員、幻滅師になるぞ!」
候補生から緊張感がなくなり、ワイワイとハシャぎだす。
訓練当初は、シャドウですらあれほど恐怖していたというのに、二週間という短い訓練期間で飛躍的な成長を遂げ、スパイダー・シャドウを≪魔晶術≫によって単独で倒せるくらいの実力を身につけた候補生。
彼らの自信は、きっとそこから来ているのだろう。
「―――お前たちは勘違いしているようだが、最終試験でお前たちに倒してもらうのはシャドウではないぞ」
イッキが告げた一言は、浮かれる候補生をあっさりと沈黙させた。
「え? じゃあ、何倒すっていうんだよ……」
「我々幻滅師には、シャドウともう一つ、殲滅すべき人類の敵がいる。その名は―――天使だ」




