第二十七話 小隊
大聖堂での礼拝から数時間が経ち、現在時刻は正午。
天気のいい、初回の訓練をした場所とは違う場所にて、教官であるイッキの前に110名の候補生が整列していた。
その時、レンは前列に並ぶ―――ボーッと俯く紫紺の少女の後ろ姿を眺めていた。
(せめて名前も聞きたかったし、礼も言いたかったけど……)
レンの視線が、少女の顔から隊服を盛り上げる、豊かな胸へと吸い寄せられる。
(ダメだ……! やっぱ、あん時のアレが頭から消えてくんねぇ……!)
少女の胸が目の前に現れた時の光景を思い出し、レンは少女から顔を逸らして密かに赤面した。
あれから数時間経ったのだが、そんな程度では……少女のド迫力な胸のことなど忘れられるわけがない。
何せレンは、思春期真っただ中なのだから。
少女の胸は一生、レンの脳に刻まれ、これから悶々としたまま生きていくのだろう。
「―――どうしたんですか?」
凛とした声。
思わず、反射的にそちらへ振り向いてしまうレン。
見れば、隣にいたアオイが不思議そうにレンを見つめていた。
「朽葉……ど、どうしたってどういうことだよ? オレは、いつも通りだぜ?」
作り笑顔で、レンは咄嗟に誤魔化した。
断じてアオイに言えるわけがない。
『少女の胸が気になってしょうがない』、だなんて。
そんなことをもし言ったりしたら、即行でアオイに嫌われることは確定だ。
それだけは、なんとしてでもレンは避けたかった。
———絶対に。
「そうですか……なら、よかったです。でも、もし何か悩み事があるなら、いつでもおっしゃってください。ミライくんとは違って、ワタシでは頼りないかもしれませんが―――レンさんの力になりたいです」
ふふっ、と最後にアオイは笑みを浮かべる。
まるで女神のように美しい笑みで、光り輝いていた。
その光を浴びたレンは、無我の境地へ至り―――ある答えに辿り着く。
「―――朽葉の笑顔がありゃ、『心頭滅却』なんて必要ないんだな……」
悟りを開いたような顔で、レンはポツリと言葉を零す。
少女の胸は一生、レンの脳に刻まれ、これから悶々としたまま生きていく……はずだったが、それは否。
アオイの光によって、レンの脳を蝕んでいた『少女の胸』は消え、解放された。
「『心頭滅却』……?」
しかし、少年が煩悩から解放されたことなど、少女が気づくわけもなく―――。
レンの穏やかな顔を見て、アオイは一人キョトンと小首を傾げた。
◆
「―――そろそろ頃合いか」
呟き、イッキは候補生に語りかける。
「お前たち一人ひとりに、ある程度、実力が身についてきた。これからの訓練は、最終試験に向けて実践形式で行う。つまり、お前たちは幻滅師と同じ―――五人で一小隊を結成し、その者たちと最終試験合格を目指してもらう。その編成を俺が考え、またリーダーを決めた。今からそれを発表する」
候補生はゴクリと固唾を呑んで、緊張しながらもワクワクと興奮を抑えられないといった様子。
けれど、レンはそんな浮かれた気配など一切なく、ただただ真剣な顔つきをしていた。
(仲間……一緒にシャドウと戦って、互いに助け合って、命を預け合う大切なヤツら。それが、今からオレにできる……。絶対、守ってみせる。命懸けで、何があっても。誰一人、オレの目の前で死なせやしねぇ―――!)
決意する、もう二度と大切な人を目の前で失いたくないレンは。
一度、大切な人を失ったレンは、目の前で誰かが死に、殺されることが許せない。
だから、己の命を全て懸けて仲間を守ると決意した。
けれど、やはりレンも年頃の少年なワケで―――
(でも、オレの仲間になるヤツってどんなヤツなんだろう? 気になるぜ……。でも、できるなら朽葉と一緒がいいなぁ。ミライと空宮とだけは絶対に嫌だ。強ぇけど、アイツらに振り回されると、ロクでもねぇことになるからな。心臓が持つ気がしねぇ。ってか、守る意味も義理もねぇんだけど……)




