第二十四話 不可能の可能
「オレたちの顔面踏み台にしたのに、全然ダメじゃねぇかよ! そもそもあんな高ぇところ、人間じゃ届かねぇよ、絶対!!」
「全くもってその通りだ」
落ちていくミライとエルザに、レンが立ち上がって怒号を飛ばすと、イッキは腕を組んで同感する。
(空宮の能力では、ここから打開することはできない。残る可能性は……)
「星無の≪魔晶術≫―――いや、≪鬼晶術≫なら、あるいは望みがあるかもしれないが、そう簡単に発動できるモノではない。やはり、俺がやるしかないか……」
「―――できます!」
背後から言い放たれた言葉に、イッキとレンは振り返る。
「朽葉……!」
真剣な顔をするアオイの名を、レンは呼んだ。
しかし、アオイに問うのはイッキだった。
「星無は『鬼晶器』を手にしてから、まだ一週間だぞ? さっきも言ったが、術の発動は一朝一夕でできるほど簡単ではない。その上、術の存在すら今まで知らなかったはずだ。……果たして、朽葉。なぜお前は、星無が≪鬼晶術≫ができると信じているんだ?」
「そんなの簡単です! なぜなら、ミライくんが―――ミライくんだからです!!」
アオイは晴れ晴れとした笑顔で断言した。
その時、エルザはミライにこう言った。
「ミライっち、これなんとかできるっ?」
「うん。できるよぉ」
「じゃ、お願いっ★」
「―――≪陣鬼・展開≫」
ミライは≪鬼装≫によって紅光が浮かんだ白刀の切っ先を前に突き出して、≪鬼晶術≫を発動した。
瞬間、ミライとエルザの落下が止まる。
―――魔法陣の、足場が展開されたことで。
それを踏み台にして跳躍すると、またその先にミライが魔法陣を展開して跳躍する。
その繰り返しによって、ミライとエルザはモス・シャドウに近づいていくのだった。
「「「———!?」」」
見ている全員が、驚愕に目を見開いた。
教官ではない候補生が、自分と同じ日に契約した人間が、これから会得するはず
だった技を行使してみせたのだから。
いや、
「ほら、言ったではないですか! ミライくんなら、と!」
アオイのみ当然のことだと、鼻を高くしていた。
「ああ……俺はどうやら、星無を侮っていたようだ……」
「ミライ……お前はとことんスゲェヤツなんだな……」
イッキとレンは柔らかな笑みを浮かべた直後、
「「―――だったら顔面踏まないで、最初っからソレを使えッ!!」」
声を揃えて、怒号を轟かすのだった。
その頃、ちょうどミライとエルザは魔法陣ジャンプを終了し―――モス・シャドウの頭上を越え、曇天を突き抜けた。
曇天に穴が空き、隠されていた太陽の日射しが、スポットライトのように一点のみ地上に降り注がれる。
ミライとエルザに後光が射し、モス・シャドウもその陽光に照らし出された。
「―――キイイイイイイイイイイイ!!」
敵であるミライとエルザの接近を察知して、モス・シャドウは甲高い叫び声を上げる。
円錐型の巨大な針のようなものが、モス・シャドウの両翼に纏った。
一本なんて生温いものじゃない、無数に。
そしてモス・シャドウは、一斉に巨大な針を敵に向かって射出した。
降り注がれる『死』の針たちを前にして、ミライとエルザは―――やはり笑顔だった。
「―――≪陣鬼・連衝≫」
ミライは≪鬼晶術≫を発動すると、モス・シャドウへ続く道のように魔法陣がいくつも並び、
「―――≪巨大ぶっ殺し≫っ★」
エルザは≪魔晶術≫を発動すると、黒大剣が巨大化した。
そして同時に、ミライは魔法陣を割るように白刀を、エルザは巨大な黒大剣を振り下ろす。
「あははぁ」
「ニャハッ★」
笑いながら放たれた必殺技。
それは、モス・シャドウの攻撃を悉く殺していき、そのまま頭から尾まで一気に両断した―――!
「――――――――」
ミライとエルザの背後で、金切り声のような耳をつんざく断末魔が響く。
真っ二つに分かれたモス・シャドウの巨体が大爆発し―――黒い塵になって消滅した。
爆風からか、必殺技からか、あるいは両方による風圧によって、ここ一帯の曇天が消え去る。
見上げれば―――澄み切った蒼穹が、視界いっぱいに広がっていた。
術を解き、エルザは黒大剣を小さくさせる。
黒い塵が舞う中、ミライとエルザは命綱なしのスカイダイビングをするが、ミライが魔法陣を展開し、それをクッションにしたことで問題なし。
二人は無事にケガもなく、レンとイッキたちの近くに着地できた。
「いぇい」
「イエーイっ★」
ミライとエルザは、お互い武器を持ったままハイタッチした。
候補生は開いた口が塞がらず、終始、何が起こっているのかわからないまま呆然としていた。
「マジでやっちまったよ、アイツら……」
「ああ……」
イッキはレンの呟きに返すと、
(空宮はともかく、今の段階では星無は術が使えないはずだ。なのに、すでに≪鬼晶術≫が使えるとは……凄まじい才能だ)
内心では素直にミライを称賛した。
それから、モス・シャドウを瞬殺した二人に声をかける。
「空宮、星無」
イッキに名前を呼ばれて、ミライとエルザはそっちへ顔を向ける。
「何かなっ?」
「どうしたのぉ?」
「お前ら……俺たちの顔面を踏み台にしたよな? 俺の顔面を踏んだのはどっちだ?」
「―――エルちゃんですっ★」
手でハートマークを作って、エルザは即答する。
……イッキの顔の上半分に陰ができた。
「清々しいくらい、バカ正直に吐いたな……。それに免じて、空宮にだけペナルティを課そうと思ったが……連帯責任に変えよう。―――お前たちには、来た時よりもさらに険しく長い帰り道を案内してやる!」
「「「え~~~~~っ!?」」」
候補生が驚愕すると、一斉に反対の声がイッキに降りかかる。
自分たちを巻き込まないで、エルザにだけ罰を与えるべきだと。
けれど、それは変わらず……。
結局、連帯責任として過酷な帰路につくこととなった。
「空宮のヤツ、最悪なことにしやがって……!」
「―――レンさん、よかったですね?」
レンがエルザに対して愚痴を零していると、突然、アオイがそんなことを言った。
「よかったって、何が?」
「え? だってレンさん―――ミライくんに、顔を踏んでもらえたじゃないですか」
「………」
「は~、スゴく羨ましいです……」
うっとりと、アオイは赤らめた頬に両手を添える。
その直後、
「それだとワタシ、まるでミライくんに顔を踏んでほしいみたいじゃないですか!? そんなの―――ハレンチですっ!」
ハッとしたアオイは、自分を罵倒した。
その一方、真実を聞いたレンは、
「―――テメェ許さねぇぞ! クソミラ~~~~~~~~~イっ!!」
大地さえ揺らすような憤怒の叫び声を、親友に向かって放った。
「―――? なにおこってるんだろぉ? レン」
キョトン、とミライは小首を傾げる。
どうしてレンに怒られているのか、まるでわからないからだ。
そうして、候補生による怒涛の初訓練が終わった。




