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幻想終末の欠落者  作者: あした
【第二章】初訓練
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第二十三話 魔晶術

 イッキは廃墟のタワーの頂上から高速で移動して、レンとスパイダー・シャドウの間を割って入ったのだ。


 レンはその大きな背中を見上げていると、


「―――無鉄砲なところまで、アイツにそっくりだな……」


 イッキが、そう呟いた。


 大きな呆れと、ほんの僅かな懐かしさを混じらせて。


「バカなことをするな、愚か者。お前らでは、コイツにはまだ勝てない。体内にある魔力を操作する技術―――≪魔装≫が、あまりに未熟だ」


(だから、オレの剣じゃ斬れなかったのか……? その≪魔装≫ってのが、お粗末だったから……)


 レンだけではなく、他の候補生たちもそう理解する。


 唸り声を上げて力を込めるスパイダー・シャドウの巨躯を、イッキは≪魔装≫によって紅光が浮かび上がった黒銃剣を薙ぎ払って吹っ飛ばす。


 候補生に背を向けたまま、語る。


「しかし、そんなお前たちでもヤツを倒す手段がある。今から、その手本を見せてやる。たった、一度だけだがな―――≪ヴァルナ・ブラック≫」


 イッキは黒銃剣を前に突き出し、銃口を向ける。


 その銃口から黒い粒子が集まって、大気が揺れ始めた。


 やがて黒い粒子は拳大ほどの黒球となり、



「微塵も残さず滅せよ―――≪ショット≫」



 その黒球を天から地へ、黒銃剣を縦一文字に振り下ろす。


 黒球を真っ二つに斬ると、そこから放たれたのは漆黒の光線。


 真っ直ぐ、どこまでも突き抜けていくソレは、スパイダー・シャドウが落下してき

たタイミングとジャストで命中する。


 ―――宣言通り、漆黒の光線がスパイダー・シャドウを飲み込み、微塵も残さず滅

した。


「「「………」」」」


 唖然とした表情で、候補生はこの圧倒的光景を見ていた。


 イッキは溜息をつくと、黒いコートを翻し、黒銃剣を肩に担いで振り返る。


「これこそが『魔晶器ましょうき』に込めた魔力によって、秘めた悪魔の能力を引き出す―――≪魔晶術ましょうじゅつ≫だ。……もう一つ、その真骨頂である技があるが、これはお前たちには不要だ」


 ゴクリ、と息を呑んで立ち上がると、レンは目を輝かせる。


(本物の、幻滅師エクソシストだ―――草壁教官は!)


 ようやくレンは、イッキが教官で、幻滅師エクソシストだと認めた。


 それは開けた黒いコートから徽章エンブレムを見たからではなく、スパイダー・シャドウを瞬殺した≪魔晶術ましょうじゅつ≫を見て、その実力を目の当たりにしたからだ。


 他の候補生たちも同様に、イッキが強者であると認識し始めた。


「当面の間、お前たちは≪魔晶術ましょうじゅつ≫の訓練を始めてもらう。地道に≪魔装≫の練度を高めるよりも、≪魔晶術ましょうじゅつ≫の方が威力が圧倒的だ。生存確率を上げるためにも、そっちに専念してもらう」


(初めて見たぜ、幻滅師エクソシストの≪魔晶術ましょうじゅつ≫……あんなにスゲェんだ! オレも≪魔晶術ましょうじゅつ≫、早く使えるようになりてぇ!!)


 男のロマンが大爆発するレン。


魔晶器ましょうき』を持つ幻滅師エクソシストが、≪魔晶術ましょうじゅつ≫という技を使って戦っていることは知っていたが、実物を見るのは初めてだ。


 漆黒のビームがスパイダー・シャドウを消滅させる瞬間を実際に見れば、≪魔晶術ましょうじゅつ≫に憧れを抱き、胸が熱くなるのは当然だ。


 今のレンは復讐心よりも、男としての純粋な気持ちで≪魔晶術ましょうじゅつ≫を使えるようになりたかった。


 しかし、


「―――草壁教官、後ろ!」


 その気持ちを消して、レンは警告を発した。


 瞬時にイッキは振り返る。


 視線の先には、巨大なナニカがこちらに向かって飛んできていた。


 目を細めて、イッキは呟く。


「モス・シャドウか……」


 黒い巨体から生える翼をはためかせ、触角を揺らし、体長が30メートルはある漆黒の巨大な蛾―――モス・シャドウ。


 スパイダー・シャドウの倍以上も大きなソレが迫ってきているのに、候補生は絶望しないどころか襲来を喜んでいた。


「草壁教官! アイツをさっきの≪魔晶術ましょうじゅつ≫で倒してくれよ!」


「もう一回、見たい!」


 候補生は、すっかり立ち直っていた。


 背後から聞こえるその元気な声に、イッキは呆れ返る。


「一度だけと言ったはずだが……」


(しかし、アレをれるのは俺だけだからな……仕方ない)


 結局、イッキはもう一度、≪魔晶術ましょうじゅつ≫を披露することになった。


 空中の巨大な標的に向かって、イッキは黒銃剣の銃口を向けると、


「―――わぁ。はじめてみるなぁ。あれぇ。おもしろそぉ」


「―――ううんっ★ エルちゃんたち、一回だけ遊んだことあるよっ★」


 そんな会話が聞こえた直後、


「グッ……!」


「ガッ……!」


 見上げていた顔の上を、誰かに踏まれて、苦悶を漏らす。


 イッキとレンの顔に、赤くハッキリと靴跡がスタンプされた。


 レンは背中から倒れるが、さすがは教官、イッキはしっかり立ったままだ。


「~~~っ! だ、誰だよ、オレたち顔面踏みやがったの……!!」


「―――空宮と星無ほしなしだ……」


 上体を起こして顔を押さえるレンに、イッキがドスの効いた声で答える。


 レンは涙目だが、さすがは教官、険しい顔のイッキも同じく涙目。


「はぁ!?」


 と、レンは顔から手を離して空中を見上げる。


 確かにイッキが言っていた通り、エルザとミライが得物を手にしながらモス・シャドウに向かって跳んでいた。


 しかし、翼を持たない人間は、


「あれぇ?」


「あらら、踏み込みが甘かったみたいっ★」


 ……落下するに決まっている。


 モス・シャドウが飛んでいるのは地上から2000メートル。


 それに対して、二人は顔面を踏み台にしても、100メートルも届かない程度。


 新たな踏み台も何もないミライとエルザでは、モス・シャドウを倒すことは叶わなかった。


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