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幻想終末の欠落者  作者: あした
【第二章】初訓練
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第十八話 寝言

 集合場所である西門に、ミライ、レン、アオイ、エルザの四人が辿り着いた。


 そこにはミライたちと同様に、隊服に身を包んだ候補生の姿があった。


 しかし、コソコソとした話し声が、そこかしこに広がっていた。


 話題の対象は、見上げるほどの高い壁を切り開く荘厳な門の前で―――腕を組んで目を瞑っている、黒いコートを着た男だ。


 その男は髪が伸ばしっぱなしで、前髪で右側の顔が隠れている。


 険しいその顔には少々シワが刻まれていて、40歳前後ほどの中年に見える。


「……あのボーッと突っ立って寝てるのが、オレたちの教官なのか?」


「他の3グループの教官さんたちも、あのような感じなんでしょうか……? だとしたら、正直不安ですね……」


 レンとアオイも、コソコソ話に参加した。


 今ここには、440名の候補生のうち、110名が集まっている。


 残りの330名の候補生はどこにいるのかというと、アオイの発言から推測できるように、この男以外の三人の教官の元へ集まっている。


 無論、その三人の教官というのは、ここ西門以外の北門、東門、南門の前で一人ずつ待ち構えている。


 教官一人で440名の候補生を訓練するなんていうのは、とても困難なこと。


 だが、受け持つのが110名であっても、大変なことに変わりはないような気がする。


「あぁ。だからヒトがすくなかったんだぁ」


「集合場所以外どーでもいーから、グループに分かれてたの知らなかったっ★ エルちゃん、ドジドジっ★」


 ミライは候補生を見回して、エルザはぶりっ子全開で自分の頭に拳をコツコツと乗せた。


 細かいことに興味がない二人は、うっかり屋さんなのである。


 ただし悪気がないとしても、笑い事で済ましてはいけないと、レンのお説教タイムが始まる。


「テメェら、どんだけふざけてんだよ! 自分のことはちゃんとしとけよ!」


「だってしょーがないじゃんっ★ 興味ないから覚えられないんだもんっ★ ね、ミライっちっ?」


「うん。きょうみなぁい」


「興味なくても覚えんだよ! 鉄柱に頭ぶつけて叩き込むんだよ!」


「それだと、覚える前に死んでしまう気がするのですが……」


 唾を吐き散らかしながら声を荒げるレン。


 その傍らで、冷静なアオイは静かにツッコミを呟く。


「まあまあ、落ち着いてくださいレンさん。ミライくんもエルザさんもいつも通りで、ワタシは緊張が解れましたよ?」


「………」


(―――女神かよ、朽葉くちは……)


 アオイの微笑みを見て、本当に心からそう思うレン。


 ミライとエルザのふざけた態度を笑って許せるどころか、ポジティブに変換するアオイは本当にいい子。


 そんな風に受け取れず、説教することしかできない怒りっぽい自分が小さく見えた。


 アオイのように器が大きくなりたいと、レンは静かに思った。


 そうして僅かばかり冷静さを取り戻したレンは、頭に血が上りすぎて、ワケのわからないことを口走っていたことに気づく。


 そして、それでもまだ不満が消え去っていないことも。


「それは、そうかもしんないけど……。でも、甘やかしちゃダメだ。そんなんじゃ、大事なことを自分で確認しなくなる。幻滅師エクソシストになるためじゃなくても、大人になる上で、そんくらいの最低限のことはできねぇと……アイツらは成長しねぇままだ」


「ふふっ、レンさんは優しいですね」


「―――!?」


 二人の将来を案じるレンに、アオイは雅な微笑みを向ける。


 その瞬間、レンはバッと顔を逸らした。


 火傷しそうなほど顔が熱くなって、そんなダサいところを、この少女に見られたくなかったから……。


「あれぇ? レン。かおがあかくなってるよぉ? おねつぅ?」


「ニュフフ~ッ★ レンっちてば、青春謳歌中なんだね~っ★」


 しかし、よりにもよってこの二人に見られていた。


 ミライは不思議そうに、エルザは生温かい目で、レンの顔をしゃがんで覗き込んでいた。


 レンの顔が赤いのは、ミライは『熱』があるからだと思っているようだが、エルザは違って男の子の気持ちにしっかり気づいていた。


 その眼差しと猫のような口元が、それを物語っている。


 何よりレンが反応してしまうのだから、自白しているようなものだ。


「は、はぁ!? あ、赤くなってねぇし! テキトーなこと言うんじゃねぇ!」


「恥ずかしくても本当の気持ちに嘘つかないで、レンっちっ★ 素直な方がモテるぞっ★ これ、エルちゃん先生からのアドバイスっ★」


 ウィンクして人差し指を立てるエルちゃん先生。


 そのアドバイスを受けた男の子は、思いきり怒りを爆発させる。


(―――待て待て、落ち着けオレ)


 かと思われたが、レンは一度冷静になって考えていた。


 エルザのイジりはすでに慣れ、こんな程度ではムカつきなどしない。


 佐伯レンの怒りの許容量は増えたのである。


(メチャクチャうざくて殴りたい気持ちはよくわかる。でも、空宮はあんなだけど一応女だ。女に暴力なんて、どんな理由があっても絶対にしちゃダメだ。オレの信条に反するだろ? ここは男らしく許してやろうぜ? 空宮のこと)


「―――できわけねぇだろーが! 信条ねじ曲げてでもコイツだけは、はっ倒してやらぁッ!!」


 ……否、全く短気なことに変わりはなく、エルザのイジりに耐性などできていなかった。


 どうやら、アオイのような心の広さを真似することはできなかったらしい。


 一人脳内会議の末、結局エルザをボコすことを決定したレン。


 ブチブチと額に青筋を浮かべて、「うぉらぁ!」とエルザに殴りかかる。


 どんな理由があろうと女に対して暴力を振るうなど絶対にしてはいけない、というレンの信条。


 けれど、今この瞬間だけは、その信条を曲げる。


 ―――エルザのことを、女として見ないことにして。


 無理やりに信条をねじ曲げて大義名分を得たレンは、エルザに一発お見舞いするためにパンチ。


 しかし、エルザは余裕綽々と笑い声を上げて回避。


 レンは躍起になってもう一度パンチするも、エルザは笑ってこれも回避。


 以下、再放送。


 その繰り返しに、


「なんかたのしそぉ」


「訓練前に体力を使って大丈夫でしょうか……」


 ミライは呑気に混ざりたそうに、アオイは心配げに見ていた。


 その時、男はカッと両目を開き、


「―――ママ、親子丼一丁!」


 そう叫んだのだった。


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