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幻想終末の欠落者  作者: あした
【第一章】契約
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第十二話 白刀

 ―――未だ、残酷な戦場は終わらない。


魔晶器ましょうき』に封印された悪魔との契約に成功した契約者と、契約に失敗して悪魔に取り憑かれた憑依者との、志望者同士の戦闘は繰り広げられていた。


 それは、契約者側が劣勢だった。


 憑依者に立ち向かおうにも歯が立たず、泣き喚いて逃げるかの二択だった。


 これが続けば、契約者は憑依者に殺されるだろう。


 が、憑依者も憑依者で、先刻のレンと同様に目と口から出血していた。


 あと何分、命が持つか不明だが……短いことは明らかだった。


「早く、なんとかしねぇと……!」


「こういう時こそ、ミライくんの出番です! ミライくんと一緒なら、もっと迅速に事態を収束できるはずです! ですが……」


 目を輝かせていたアオイの表情が沈んだものになる。


 ミライの手に、腰に、『魔晶器ましょうき』らしき物がなかったから。


「ミライくんには、『魔晶器ましょうき』が……。ミライくん、先ほどから『魔晶器ましょうき』を探しているようですが、どんなのを探しているんですか?」


 ミライなら、悪魔との契約も難なく済ませるだろう。


 だから余計な心配をせずに、アオイはミライの望む『魔晶器ましょうき』の形状を尋ねることができた。


 ミライに『魔晶器ましょうき』さえあれば、まさに鬼に金棒。


 ミライが『魔晶器ましょうき』を手にすれば、悪魔に取り憑かれたレンを圧倒した時よりも強くなり、事態の収拾がもっと早くなる。


「―――カタナぁ」


「「刀?」」


 のほほんとしたミライの返答に、アオイとレンの間抜けな声が揃う。


「うん。みつからないんだぁ」


「刀の『魔晶器ましょうき』ですか……」


「そんなの、どこにあんだよ……見たことねぇぜ」


 周囲を見回して、ミライが希望する刀の『魔晶器ましょうき』をアオイとレンが探していると、


「―――あったよっ★」


 まさかの、エルザが見つけた。


「ホントぉ? ありがとぉ。エルザちゃん」


「いや、まだわかんねぇって!? アイツ、嘘ついてるかもしんねぇじゃん!」


「一体、どこに……」


「近づいてみたらわかるかもっ★」


 黒大剣を肩に担いだエルザが歩き出し、その後ろに三人がついてくる。


 エルザが向かったのは、この大聖堂の空間で一段と強い光に照らされているところだった。


 そしていざ、その場所へ辿り着くと―――神聖なこの空間よりも、さらに神秘的なモノがある。


 床に突き刺さっている、強い光を一身に浴びた一本の白刀だ。


 思わず、レンとアオイは息を呑む。


(マジで空宮の言った通りあった、刀……。でも、これだけ白いな。オレたちや他の『魔晶器ましょうき』は黒いのに、これだけ……。特別製か何かか……?)


(光と同化して、ワタシたちには見えなかったんですね……。いえ、違います。あの刀は、ワタシたちに見つからないようにしていたのかもしれません……。しかし、アレは……)


「あははぁ。やったぁ。カタナだぁ」


 ミライは、その白刀を求めて、そこへ向かう。


 レンに肩を貸したまま。


 レンは立ち止まることができず、一緒についていってしまう。


「おい、オレのことは置いてけよ……!」


「いいじゃん。べつにぃ。いっしょにぬいてみようよぉ」


 白刀の前に、二人は到着する。


 困ったように、レンは溜息を零した。


「……オレはもう契約してんだ。重複契約したらどうなるかわかんねぇし、そもそもコレはお前の大事な相棒だ。―――一緒じゃなくて、お前一人で抜けよ」


 レンの顔をジーッと見て、ミライは笑顔で頷く。


「レンのいうとおりだねぇ。わかったぁ」


 ミライは白刀に視線を戻す。


 そして、告げた。



「―――ぼくとトモダチになってよぉ」



 白刀の柄を掴み、抜き放つ。


 瞬間、ガクンとミライは項垂れた。


 数秒後。


 ミライの顔がシュンッと上がった。


「―――ケイヤクできたよぉ」


「「早っ!?」」


 白刀を掲げるミライに、レンとアオイが驚愕に叫ぶ。


 二人のリアクションが面白くて、「ニャハハッ★」とエルザは笑って、


「確かに早いけど、アオイっちもこの一分後くらいに起きてたよっ?」


「そうなんですか? ワタシ、長いことあそこへいたような気が……」


「現実の時間と向こーの時間の経過の仕方は違うっぽいねっ★ 向こーに長時間いても、意外とこっちじゃ、そんなに時間経ってないんだよっ★」


(ウツロは、オレの体を奪おうとトラウマを抉ってきて、自分の体を取り返すまでスゲェ長い時間を過ごしてるような気がした。でも、外の景色を見た限り、日が傾いてねぇ。今のこの暴走も、そこまで時間が経っていねぇように見える。……空宮の推測は、おそらく正しいだろうな)


 実体験とエルザの推測を照らし合わせて、レンはそう判断する。


 しかし、疑問が残る。


(……でも、どうして空宮は朽葉くちはが契約するまでの時間を知ってたんだ? ミライみたいに早く契約が終わっても、それはわからねぇんじゃ……自分の契約が終わって、それから数えたってことか?)


 レンは顎に手を当て、眉をひそめる。


 そう結論づけるも、どこか釈然としなかった。


 ミライはご機嫌なのか、子どものように無邪気に鼻歌を歌って、その白刀を腰に差す。


「ね、ミライっちっ★ ミライっちの契約した悪魔って、どんな感じなのっ?」


「どんなのかぁ。うぅん―――」


 悩ましげに唸って、ミライは小首を傾げる。


「見た目とか、名前とか、なんか特徴はあったか?」


「あぁ―――かみのけがトマトみたいにまっかでぇ。なまえもトマトみたいだった

ねぇ」


(全部、トマトに当てはめちまってる……! 気の毒だな、ミライと契約したソイツも、オレも……)


 返答を聞いたレンは、遠い目をした。


 自ら質問しておいて。


 そこでアオイが、パチッと手を叩く。


 アオイに三人の視線が集まった。


「疑問は大いに残りますが……ミライくんも無事、『刀』を手に入れたことですし、悪魔に取り憑かれた彼らを無力化しましょう! 絶対に誰も、死なせません!」


「―――んじゃ、オレもやろっかな」


 ミライの肩を抜け出して、レンがそう言った。


 首をゴキゴキ鳴らしたり、体を伸ばしたりして調子を確かめていた。


「ですがレンさん、無理をするのは……」


「無理してねぇよ。休憩してたら、動けるくらいには回復したから。それに見た目ほどケガは酷くねぇ。―――やれる」


「酷くないわけがないです! だってレンさん、あんなに血を出して……!」


 わなわなと華奢な肩を震わせて、痛む胸を押さえて、アオイは悲痛な顔で俯く。


「―――だいじょうぶだってぇ。アオイちゃん」


 ミライが、のほほんとした声で言った。


 ハッ、とアオイの顔が上がる。


「レンは『チのケがおおい』からぁ。あのくらいヘぇキだよぉ」


「そうそう、オレは血の気が多い―――って、テメェのせいだろーが!」


 目と歯を悪魔のように鋭くさせて、レンがノリツッコミする。


『血の気が多い』ことを否定しないどころか、どうやら自覚があるらしい。


「あははぁ。やっぱりレンげんきぃ」


「ミライくん、レンさん……」


朽葉くちは……オレは、大丈夫。だから……手伝わせてくれ。―――取り憑かれてる時、オレは朽葉くちはに迷惑かけたから……その分を取り返したいんだ」


「―――! レンさん、そのことを覚えて……」


 悲しそうな顔でアオイが言うと、レンは申し訳なさそうに頷く。


 レンの潜在意識の中で、ウツロの手が頭から離れた瞬間、取り憑かれている間の記憶が脳内に入り込んだ。


 だから、レンは憶えている。


 アオイの苦しそうな顔も、アオイを殺しそうとしたことも、全て……。


 罪悪感に苛まれていたレンは、そのことからさらにソレが膨らんでいた。


 ……無理はしてないと嘘をついてでも、その罪に少しでも償いたかった。


 だから、


「―――だから、頼むよ」


 アオイのキレイな漆黒の瞳をちゃんと真っ直ぐ見て、レンは思いを伝えた。


 その眼差しから、声音から、レンの意志が伝わってきた。


 思わず、頬が緩んでしまうほど伝わった。


「わかりました……協力お願いします、レンさん」


「ごめん……ありがとう、朽葉くちは……」


 自分の意志を尊重してくれたアオイに、レンは破顔した。


(ウツロに取り憑かれたおかげなのか、オレは力の―――魔力の使い方がわかった。体が、その感覚を覚えてる。それを早く試してぇ……!)


 頭の中がワクワク一色に染まったレンは、黒剣を強く握って魔力を込めると、その剣身に紅光が浮かび上がる。


 それから視線を外し、三人を見た。


「オレたちなら、もっと早く暴走を止められるはずだ! アイツらを助ける

ぞ!!」


「うん」


「はい!」


 気合の入っている、レン、ミライ、アオイ。


 それを後ろから見ていたエルザは、八重歯も見せずに意味深に口角を上げた。


「―――空宮も、な?」


 名前を呼び、レンはエルザの方へ振り向く。


 同じく、ミライとアオイもそちらへ振り向いた。


 その時にはもう、


「もちろんだよ、レンっちっ★」


 あの笑みは消え、エルザはいつもの満面の笑みで八重歯を見せていた。


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