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1-95.ヒーローを見た日

 受付チーム・控室。


 病室の外。


 静かになった廊下の先、受付チーム用の小さな控室。


 ドアが閉まった瞬間。


 沈黙。


 そして――


 すずが最初に爆発した。


「ねえ今の見ました!?!?!?」


 梓がこめかみを押さえる。


「声量を落としなさい春風」


「だって!!ヘリで突っ込んできましたよ!?!?!」


「見ていたわ」


 凛が短く答える。


 腕を組んだまま、壁に寄りかかっている。


 雫はまだ少し顔色が白いが、椅子に座って微笑んでいた。


 そして――ぽつり。


「……助けに来てくれたのね」


 その一言で。


 空気が変わった。


 すずが振り返る。


「え?」


 凛の視線が動く。


 梓の眉がわずかに上がる。


 雫は気づいていない。


 自分がとんでもない爆弾を落としたことに。


「雫」


 梓が静かに言う。


「何かしら」


「あなた、あの子の名前を呼んでいたわよ」


 一拍。


「無意識に」


 雫が固まった。


「……え」


 すず、前のめり。


「え!?そこ!?!?!」


 凛が小さく息を吐く。


「完全にヒーローを見る目だったな」


「違うわよ!」


 珍しく、雫が声を上げた。


「ただ……安心しただけで……」


 言葉が続かない。


 耳が、少し赤い。


 すず、ニヤァ。


「これはもう完全に――」


 梓「言うな」


 すず「おねショ――」


 凛「言うな」


 すず「はい」


 だが止まらない。


「でも分かりますよ!?

 あんなの助けに来られたら普通キュンとしますって!!」


 雫がさらに赤くなる。


「してないわ!」


 凛がぼそり。


「否定が速い」


 梓は深くため息を吐いた。


「……あなた達」


 全員の視線が集まる。


「囲う気?」


 静止。


 すず「え」


 凛「は?」


 雫「な、何の話!?」


 梓は淡々と言う。


「将来性SS」


「判断力A」


「胆力S」


「行動力SS」


「倫理観……ギリギリ合格」


「子供じゃなければ即戦力」


 すずが口を開ける。


「……評価高すぎません?」


 凛が頷く。


「10年後が怖いな」


 雫は小さく呟いた。


「……でも」


 三人が見る。


「きっと、誰かのために動く子よ」


 柔らかい声だった。


 凛がふっと笑う。


「もう理解者側か」


 雫「違います!」


 すずが突然立ち上がる。


「よし決めました!」


 嫌な予感。


「私、あの子推します!」


 梓「アイドルじゃないのよ」


 凛「派閥を作るな」


 すず「えー!」


 そのとき。


 控室のドアが開いた。


 全員、反射で姿勢を正す。


 主任だった。


 ゆっくりと室内を見渡し――


 一言。


「……お前達」


 嫌な間。


「絶対、変な教育をするなよ」


 バレていた。


 すず、目を逸らす。


 凛、無言。


 雫、微笑み。


 梓だけが静かに答えた。


「善処します」


 主任は天井を仰いだ。


「善処じゃない。やるな」


 ドアが閉まる。


 沈黙。


 そして。


 すずが小声で言った。


「……もう手遅れでは?」


 誰も否定しなかった。

 

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