1-94.空が割れた、そのあとで
病室・消灯後。
小さく息を吐く。
静まり返った病室。
機械の規則的な音だけが響いている。
雫は、そっと目を閉じた。
――思い出す。
土煙。
衝撃。
倒れる視界。
もう駄目かもしれない、と一瞬だけよぎった諦め。
その直後。
空が、割れた。
ヘリが降りてきた。
無茶苦茶な突入だった。
救援機の動きじゃない。
でも。
誰よりも速かった。
そして。
扉が開く音。
飛び出してくる、小さな影。
迷いがなかった。
恐怖もなかった。
ただ真っ直ぐに――こちらへ走ってきた。
「雫お姉ちゃん!」
胸の奥が、じんわりと熱くなる。
助けに来てくれた。
ただ、それだけの事実が。
あの極限の中で、どれほど心強かったか。
雫は毛布を少しだけ握る。
「……あの子」
小さく、呟く。
まだ子供だ。
守られる側のはずなのに。
どうしてあんな顔で、飛び込んでこられるのだろう。
思い出す。
震えていなかった手。
まっすぐだった瞳。
あれは――覚悟を持った人の目だ。
自然と、笑みがこぼれる。
「ずるいわね……」
あんな助け方をされたら。
安心、してしまうじゃない。
信じてしまうじゃない。
静かに、視線を天井へ向ける。
そして。
誰にも聞こえない声で、呟いた。
「……ありがとう」
一拍。
「本当に、助かった」
胸の奥に残るのは、恐怖じゃない。
温度だった。
雫はゆっくり目を閉じる。
その表情は、とても穏やかだった。
――たぶん私は。
あの子を、少し特別に思ってしまう。
理由は、まだ分からないけれど。
その夜。
雫は久しぶりに、何の夢も見ずに眠った。
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