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1-93.雷と、不問と、次の約束

 病室のドアが、勢いよく開いた。


「真咲綾芽ぇぇぇ!!」


 空気が震えた。


 主任だった。


 後ろには受付チームの三人。


 全員無言。


 怖い。


 ものすごく怖い。


「……無断出動」


 一歩近づく。


「無断操縦」


 さらに一歩。


「無断突入」


 綾芽は姿勢を正した。


「はい!」


「返事が良すぎる!!」


 雷、落ちた。


「お前は!!

 救援機を!!

 何だと思ってる!!」


「救援機です!」


「そうだ!!」


 一拍。


「だがな!!

 操縦者が子供なのは想定外だ!!」


 後ろで、すずが吹き出しかけて凛に肘で止められていた。


 梓は額を押さえている。


 雫は――


 ベッドの上で、必死に笑いを堪えていた。


「命令系統を無視するな!!」


「はい!」


「単独判断をするな!!」


「はい!」


「次やったらどうなると思う!!」


 少しだけ考える。


「……出動停止?」


「ラボ出禁だ!!!」


 それは困る。


 かなり困る。


 綾芽の顔が、初めて本気で焦った。


 その様子を見て、主任は深くため息を吐いた。


 長い沈黙。


 そして、ぽつり。


「……だが」


 全員が顔を上げる。


 主任は視線を逸らしたまま言った。


「よく間に合わせた」


 小さな声だった。


 だが、確かに聞こえた。


「今回は――不問だ」


 すずが小さくガッツポーズ。


 凛は目を閉じる。


 梓の肩から力が抜けた。


 雫は、静かに微笑んだ。


 主任は最後に一言だけ落とす。


「次は――必ず許可を取れ」


「はい!」


 病室を出た瞬間。


 綾芽は、大きく息を吐いた。


(めちゃくちゃ怒られた……)


 でも。


 胸の奥は、不思議と軽い。


 反省はしている。


 本当に。


 勝手に出たのは良くなかった。


 それは分かっている。


 だけど。


 後悔は――ない。


 あの時、動かなかった自分のほうが。


 きっと、ずっと嫌いになる。


 小さく拳を握る。


 まだ足りない。


 判断も。


 力も。


 全部。


 もっと強くならないと。


 守りたいものに、手が届くように。


 静かに前を向く。


「……次は、もっと完璧に間に合わせる」


 その呟きを聞いていた者は、誰もいなかった。


 ただ一人を除いて。


 少しだけ開いた病室のドアの隙間。


 雫がこちらを見ていた。


 そして――


 誰にも気づかれないほど小さく、


 笑った。

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