1-92.目覚めた時、隣にいた
雫、目を覚ます。
まぶたが重い。
意識が、水面の下から浮かび上がる。
ぼやけた視界の中に――影があった。
小さな影。
椅子に座ったまま、ベッドに突っ伏している。
眠っているのだろうか。
規則正しい呼吸。
その手が、そっとベッドの端を掴んでいた。
まるで――
まだここにいるか、確かめるみたいに。
(……この子……)
記憶が戻る。
妖魔。
強襲。
衝撃。
そして――落ちていく意識の中で、最後に見たもの。
空から来た、白い機体。
雫は、無意識に指を動かした。
布が擦れる。
その小さな音に反応して、少年が顔を上げた。
ぱち、と視線が合う。
一瞬。
それから綾芽の表情がほどけた。
「……よかった」
心の底から滲んだ声だった。
飾りがない。
計算もない。
ただ、本気で安心した声。
雫の胸の奥が、きゅっと縮む。
なに、この感じ。
知らない。
こんなの、知らない。
「起こしちゃいましたか」
綾芽は少しだけ申し訳なさそうに言う。
目の下に、薄く影があった。
(……ずっと、いたの?)
「もう大丈夫ですか」
その言葉で気づく。
握っていたベッドの端。
逃げないように。
消えないように。
ここにいると、分かるように。
雫は、ゆっくりと手を伸ばした。
気づけば。
その小さな手に、触れていた。
温かい。
生きてる。
守られたんだ、私。
胸の奥に、静かな熱が灯る。
これは恋じゃない。
もっと原始的なもの。
本能に近い感情。
――この子を、守りたい。
守られる側のはずなのに。
なのに。
どうしてこんなふうに思うの。
雫は、小さく息を吐いた。
「……ありがとう」
綾芽は一瞬驚いて、
それから少し照れたように笑った。
「無事で、よかったです」
その一言で――決定的だった。
雫は理解する。
ああ。
私、この子に――弱い。
とても。
たぶんこれから先も、ずっと。
雫はまだ知らない。
この小さな少年が、やがて――
魔法少女たちの切り札と呼ばれる存在になることを。
そして。
自分の心が、
この子にこんなにも揺さぶられる日が、
これから何度も来ることを。
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