1-76.もしものために
今日は、真面目に武器を作ろう。
朝、ラボに入った瞬間にそう決めた。
――昨日のことは、忘れる。
鎧の魔装なんて、最初から存在しなかった。
「……うん、無かった」
小さく頷く。
設計台の前に立つ。
深呼吸。
気持ちを切り替える。
今日はちゃんと、実用的なものを作る。
理由はひとつ。
考えたくはないけど。
もし。
本当に、もしも。
身近な誰かが魔法少女になったとしたら。
そのときに渡される武器が、
少しでも扱いやすいものだったらいい。
勧誘妖精が渡すから、
自分の武器が届くとは限らない。
それでも。
準備しておくことに意味はある。
「……順番は、よく話す人から」
設計ノートを開く。
ペンを走らせる。
かのん。
運動神経がいい。
動きも速い。
だから、取り回しのいい――
少し長めの短杖。
間合いを取りやすく、
近接にも対応できる。
「うん、合いそう」
ひまり。
空手をやっている。
なら、打撃の感覚を活かした方がいい。
最初はグローブも考えたけど、
防御面が少し不安だった。
だから。
魔力補助付きのバトルハンマー。
重さは感じにくく、
振り抜きやすい設計。
「怪我、しないといいけど……」
小さく呟く。
紅羽。
剣道経験あり。
両手でしっかり握るタイプがいい。
竹刀に近い感覚で扱える、
両手持ちの長剣。
重心はやや手前。
振ったときに軌道が安定する。
「……紅羽なら、ちゃんと使いこなしそう」
少しだけ安心する。
できれば。
使う日が来ない方がいいけど。
りおな。
普段から弓を触っている。
なら、余計な調整はいらない。
手に馴染む長さ。
引きやすい張力。
迷わず撃てることを優先。
「道具は、迷わせない方がいい」
それが持論だった。
由衣。
真っ直ぐな性格。
思い切りがいい。
なら、迷いの少ない武器。
刺突剣。
踏み込みを、そのまま威力に変える。
「シンプルが一番強い」
千奈。
まず浮かんだのは、防御。
少し大きめの盾。
重さは魔力で補助。
支えるだけで、壁になる設計。
「前に出る人ほど、守るものが必要だから」
真帆。
体力はあまり強くなさそう。
なら、負担の少ない短杖。
距離を取って戦える形。
「無理しなくていいように」
それが一番だった。
気付けば、作業台の上に武器が並んでいた。
どれも、いい出来だ。
魔力の通りも滑らか。
強度も問題ない。
少しだけ、肩の力が抜ける。
時計を見る。
もう夕方だった。
「……早いな」
最後に、協会でよく使われるステッキ型もいくつか仕上げる。
これなら、誰が持っても扱いやすい。
工具を置く。
ラボを見渡す。
静かだ。
完成した武器たちも、何も言わない。
綾芽は、少しだけ考えて。
小さく呟いた。
「……渡されないといいな」
本音だった。
誰も戦わなくていいなら、
それが一番いい。
電気を落とす。
鞄を持つ。
出口へ向かう。
ラボの扉を閉める直前、
もう一度だけ振り返った。
整然と並ぶ武器。
どれも、“もしも”のためのもの。
その“もしも”が来ないことを願いながら、
綾芽は帰路についた。
夕焼けが、静かに街を染めていた。
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