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1-74.先生を目指し始める 

 協会からの帰り道。

 

 夕方の空は、少しだけオレンジが混じっていた。

 

 スノーリリー――みことは、歩きながら何度もため息をついていた。

 

(……10歳だよ?)

(人生相談って何)

(結婚って何)

 

 思い出すたび、耳が熱くなる。

 

「ちゃんと大人になります」

 

 あの真剣な目。

 

 冗談でも、憧れでもなく。

 

 ――決めて言っている目だった。

 

(……なんで、あんなに真っ直ぐなの)

 

 自分はどうだっただろう。

 

 10歳の頃。

 

 毎日を生きるだけで精一杯で、

 将来なんて、ぼんやりしていた。

 

 なのに、あの子は――

 

 誰かの未来を考える目をしていた。

 

「……ずるいな」

 

 ぽつりと呟く。

 

 子供に向ける言葉じゃないと分かっているのに、

 胸の奥が、少しだけ悔しかった。

 

 追いつきたい、とさえ思った。

 

 

 その夜。

 

 自室で装備を外し、私服に着替えても、

 頭の中から離れない。

 

 綾芽。

 

 黒髪。

 

 まっすぐな姿勢。

 

 変に大人びているくせに、笑うと年相応。

 

(……あの子)

 

 ふと、思う。

 

(あの子が大きくなるまで)

(私は、何をしていたいんだろう)

 

 魔法少女。

 

 戦うこと。

 

 守ること。

 

 それは、今も大事だ。

 

 でも――

 

「……伝える側、か」

 

 口に出した瞬間、胸の奥が小さく震えた。

 

 先生。

 

 戦うんじゃなくて、

 導く人。

 

 言葉で支える人。

 

(国語……)

 

 物語を読む。

 

 言葉を知る。

 

 気持ちを考える。

 

 そして。

 

 誰かが人生を選ぶとき、

 その背中を、そっと押せる大人。

 

「……それ、悪くないかも」

 

 スマホを手に取る。

 

《教員免許 取得》

《教育学部 社会人》

《現役でも可能》

 

 検索結果を指でなぞる。

 

 遠い夢じゃない。

 

 手を伸ばせば、届く距離にある。

 

「……間に合う」

 

 小さく、でも確かな声だった。

 

 

 翌日。

 

 協会の休憩室。

 

 みことは、同期の魔法少女にぽろっと言った。

 

「ねえ」

 

「将来、別の仕事をするなら……何がいいと思う?」

 

「え? 急にどうしたの?」

 

 少し迷ってから、正直に言う。

 

「……先生、とか」

 

 一瞬の沈黙。

 

 そして。

 

「え、めちゃくちゃ合ってない?」

 

「わかる」

 

「言葉、丁寧だし」

 

「絶対いい先生になるタイプ」

 

「ちょっと!」

 

 顔が熱くなる。

 

「真面目な話だから!」

 

 笑われた。

 

 でも――否定はされなかった。

 

 そのことが、思っていたより嬉しかった。

 

 胸の中で、小さな決意が形になる。

 

 

 その夜。

 

 布団に入りながら、天井を見る。

 

(……待ってて、って言われたわけじゃない)

 

 でも。

 

(“また聞く”って言われた)

 

 約束じゃない。

 

 勘違いかもしれない。

 

 それでも。

 

 逃げたくない、と思った。

 

「……よし」

 

 小さく拳を握る。

 

「私も」

 

 一拍。

 

「ちゃんと、大人になる」

 

 先生になる。

 

 魔法少女でいながら、

 言葉を教える人になる。

 

 理由は――

 

 ちょっと、誰にも言えないけど。

 

 

 数日後。

 

 協会ロビー。

 

 綾芽とすれ違いそうになって、

 みことは一瞬、足を止めた。

 

 声をかけるか、迷う。

 

 でも結局、いつもの調子で。

 

「こんにちは、綾芽君」

 

「こんにちは!」

 

 満面の笑顔。

 

「今日はどうしたんですか?」

 

「……内緒」

 

 くすっと笑って、歩き出す。

 

 背中越しに、綾芽が首を傾げている気配。

 

(そのうち、教えるよ)

 

(あなたが、大きくなったら)

 

 夕方の光が、ロビーに長く伸びていた。

 

 未来はまだ、形を持たない。

 

 それでも――

 

 確かに、動き始めている。

 

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