1-73.10歳に人生相談される
午後の協会ラボ。
スノーリリー――山田みことは、武器の経過確認のため綾芽のラボを訪れていた。
「……ほんとに、調子いいな、これ」
杖を軽く振る。
魔力の通りが素直すぎて、逆に怖い。
「ありがとうございます、みことお姉さん!」
少し離れたところで、
黒髪の男の子――綾芽が、今日もにこにこしている。
いつも通り。
元気で。
礼儀正しくて。
……可愛い。
可愛い、はずだった。
「ねえ、みことお姉さん」
呼ばれて、顔を上げる。
「はい?」
綾芽は一歩近づいて、
急に真剣な顔になった。
背筋が伸びて、
視線がまっすぐ。
嫌な予感。
「結婚って、どう思います?」
「……」
空気が、止まった。
(え?)
(今、なんて?)
「え、えっと……?」
聞き返すと、
綾芽は首を傾げる。
「結婚したら、幸せになれるんですよね?」
「……」
みこと、完全フリーズ。
(人生相談?)
(10歳?)
(このタイミング?)
「ど、どうして急に……?」
綾芽は少し考えてから、
いつもの調子で言った。
「だって」
一拍。
「みことお姉さんみたいな人が、そばにいたら」
「毎日、ちゃんと頑張れそうだから」
――ストレートすぎる。
「……っ」
胸を、正面から殴られた感覚。
子供の言葉。
そう片付けていいはずなのに。
目が、真剣すぎた。
冗談として流せない。
「……それはね」
みことは一度、深呼吸して、
ちゃんと向き合った。
「結婚っていうのは、大人になってから考えることなの」
「好き、とか」
「安心するとか」
「守りたい、とか」
「全部、ちゃんと分かるようになってから」
綾芽は、ふむ、と小さく頷く。
「じゃあ」
一拍。
「そのときまで」
「僕、ちゃんと大人になります」
「……」
また、直球。
「それで」
「そのときに、まだ独身だったら」
「そのときに、もう一回聞きます」
「……は?」
さらっと爆弾を投下する、10歳。
「え、ええっと……!」
みことは慌てて笑った。
「そ、それは……ずいぶん先の話ね!」
「はい!」
満面の笑顔。
「じゃあ、約束です!」
「約束じゃありません!」
「まだ何も決まってません!」
即、否定。
でも。
綾芽は、いつものにこにこに戻って言った。
「みことお姉さんが幸せじゃない未来は」
「僕、あんまり想像できないです」
……ずるい。
「……もう」
みことは額を押さえた。
「あなたね」
「そういうこと、簡単に言っちゃだめ」
「え?」
「相手の人生、ちょっと変えちゃうから」
綾芽は、少し考えてから、
とても真剣に答えた。
「じゃあ」
「ちゃんと、変えられるくらい」
「頑張ります」
「……」
完敗。
その日、スノーリリーは帰り道で思った。
(……この子が大きくなる頃)
(私は、どこで、何をしてるんだろう)
すぐに、首を振る。
(だめだめ)
(相手は10歳!)
――でも。
「先生、か……」
ふと零れた言葉が、
なぜか胸に残ったままだった。
オチ(ラボを出た帰り)
受付のお姉さん(ひそひそ)
「ねえ、スノーリリーさん」
「ちょっと様子おかしくない?」
別の受付。
「うん」
「ニヤニヤしてる」
「……あの子、また何かやったな」
遠くで、くしゃみをする綾芽。
理由は、まだ知らない。
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