1-69.雪の魔法少女、胡散臭い少年に会う
――午後の協会、調整室にて。
ある日の午後。
山田みこと――コードネーム・スノーリリーは、いつも出入りしている支部とは別の魔法少女協会に足を運んでいた。
理由は単純だった。
「武器を調整できる男の子がいる」という、あまりにも胡散臭い噂。
調整前と後で見た目は同じ。
でも出力が上がる。
魔力の持ちが変わる。
使い勝手はそのまま。
――そんな都合のいい話、あるわけない。
「騙されたと思って行ってみて」
知り合いにそう言われて、近くまで来たついでに寄っただけ。
本当に、それだけだった。
受付で声をかける。
「あの、綾芽君っていう男の子がいるって聞いたんですけど」
「あー、はいはい」
受付のお姉さんが、慣れた反応で頷く。
「まお……いえ、綾芽君ですね。今日は自分のラボにいるはずです」
……今、なんて?
「個人専用ラボなので番号はありません。エレベーターで表示を見ながら行ってください」
半信半疑のまま、案内された階へ。
――そして。
ラボの前。
ドアの横に、男の子がいた。
黒髪。
背筋がまっすぐ。
年齢は……10歳くらい?
「あの……」
恐る恐る声をかける。
「綾芽君、ですか?」
ぱっと顔を上げて、満面の笑顔。
「そうです! なにかご用ですか!」
……なにこれ。
かわいい。
「武器を見てくれるって聞いて……」
「はい! 僕です!」
ニコニコ。
とにかくニコニコ。
「とりあえず、中へ。お話しききます!」
ドアが開く。
どう見ても普通の子供なのに、動きが無駄に丁寧。
「みことお姉さんは、どんな感じにしたいですか?」
(……名前、言ったっけ?)
まあいい。
「調整がすごいって聞いたから……それで、来てみたんだけど」
「今なら、好きな武器にできますよ!」
「え?」
「二本つけます!」
「えっ!?」
「さらに、好きな形で!」
笑顔。
悪気ゼロ。
「……と、とりあえず。調整でお願いします」
「はーい! よろこんで!」
そして、真顔で一言。
「本気の調整と、普通の調整と、効果がわかりにくい調整。どれにします?」
「……違いは?」
「僕の気分です!」
「選べないじゃない!」
「みことお姉さんなら、どれでも同じです!」
意味がわからない。
――それでも。
作業は、静かで正確で。
触れ方も、魔力の通し方も、迷いがない。
出来上がった杖を手にした瞬間、分かった。
「……なにこれ」
魔力が、通る。
抵抗がない。
いつもの感覚なのに、全然違う。
「すご……」
「あ、一個だけ注意です」
綾芽が指を立てる。
「名前つけるときは、慎重に。笑」
「……え?」
意味が分からないまま顔を上げた、その時。
――綾芽の表情が、変わった。
いつものニコニコが消える。
まっすぐな視線。
子供のものじゃない、真剣な眼差し。
「大丈夫です」
静かな声。
「その杖。僕が調整したから」
一拍。
「絶対、みことお姉さんを守ります」
年齢不相応。
あまりにも、まっすぐ。
スノーリリーは、言葉を失った。
子供扱いしていたはずなのに。
冗談だと思っていたはずなのに。
胸の奥が、ぎゅっと掴まれる。
次の瞬間、またニコニコ。
「じゃ、完成です!」
……ずるい。
ラボを出るとき、ふと思った。
(……騙されてない)
(むしろ)
とんでもないところに来てしまったのかもしれない。
その後――
その杖は、後に魔王杖と呼ばれることになる。
でもこの時は、まだ誰も知らなかった。
ただ一人、
「守る」と言った少年だけが、分かっていた。
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