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1-67.相談に乗る回

 魔法少女協会・受付

 

 自動ドアが開いた瞬間、空気が一段だけ明るくなる。

 

「おはようございますっ!」

 

 黒髪。背筋まっすぐ。迷いのない声。

 

 受付の三人が、ほぼ同時に顔を上げた。

 

 梓が一番早い。次に凛。

 そして、わずかに遅れて雫。

 

「おはようございます、綾芽くん」

 

 雫の声だけ、ほんの少し柔らかい。

 

「ラボ主任さん、今日はいますか?」

 

「第三ラボです」

 

 凛が即答する。

 

「ありがとうございます!」

 

 ぺこり。

 

 さらに一歩踏み込む。

 

「今日も皆さん素敵ですね!」

 

 ——致死量。

 

 雫、微笑みが一瞬だけ崩れる。

 梓、視線を逸らす。

 凛、無表情のまま固まる。

 

「それでは、失礼します!」

 

 去っていく背中。

 

 静寂。

 

 梓がぽつり。

 

「……今の、“皆さん”って言った?」

 

 凛「言ったな」

 

 雫「……平等ですね」

 

 梓「そこ褒めるとこじゃないから」

 

 凛が小さく息を吐く。

 

「天然でやってるのが一番まずい」

 

 雫は小さく笑った。

 

「でも……悪気がないのが分かるから、困るんですよね」

 

 梓、頷く。

 

「将来、とんでもないのになるわよあの子」

 

 凛、即答。

 

「もう片足入ってる」

 

ロビー

 

 綾芽は歩きながら、ふと足を止めた。

 

 視線の先。

 

 壁際に立つ魔法少女が一人。

 

 武器は持っている。

 だが——様子がおかしい。

 

 肩が落ちている。

 視線が泳いでいる。

 

 完全に「どうしていいか分からない」顔。

 

(あ、困ってる人だ)

 

 迷いゼロ。

 

 綾芽はそのまま近づいた。

 

「どうしたんですか?」

 

 魔法少女がびくっと跳ねる。

 

「えっ!? あ、えっと……」

 

 視線が武器へ落ちる。

 

「壊れちゃって……」

 

 綾芽、手を差し出す。

 

「見てもいいですか?」

 

 なぜか断れない。

 

 気づけば、武器を渡していた。

 

 

 受け取った瞬間——

 

 綾芽の表情が変わる。

 

 数秒。

 

 静止。

 

 見ているのは外装じゃない。

 

 内部。

 

 流れていない“中”。

 

 

「……壊れてますね」

 

 即答だった。

 

 魔法少女の肩が落ちる。

 

「やっぱり……」

 

 綾芽は武器にそっと触れた。

 

 その瞬間。

 

 頭の中に、歪んだ魔力の流路が浮かぶ。

 

 ねじれ。

 潰れ。

 途中で止まった循環。

 

(ああ、ここか)

 

「でも、大丈夫です」

 

「……え?」

 

 顔を上げる。

 

 迷いが一切ない。

 

「完全には死んでません。芯は生きてます」

 

 魔法少女が息を呑む。

 

「魔力の通り道が途中で潰れてるだけです。

 例えるなら——血管が詰まってる状態ですね」

 

 理解より先に、安心が来る声だった。

 

「……直るの?」

 

 綾芽、にこっと笑う。

 

「はい。整えれば戻ります」

 

 

 あまりにも自然に言う。

 

 まるで最初から見えていたみたいに。

 

 ——いや。

 

 見えていた。

 

 

「同じ感じで直します?

 それとも、少し調整します?」

 

「……調整?」

 

「長さとか、重さとか。使いやすい方がいいですよね」

 

 

 さらっと言う。

 

 まるで当たり前の技術みたいに。

 

 

 魔法少女は少し迷い——言った。

 

「もう少し長くて……殴りやすい方がいい」

 

「いいですね!」

 

 即答。

 

 軽い。

 軽すぎる。

 

 

「最後に一つだけいいですか?」

 

「なに?」

 

「いつも魔法撃つときみたいに、魔力を出してもらって」

 

「……今?」

 

「今です!」

 

 

 言われるまま魔力を放つ。

 

 綾芽は武器を両手で包む。

 

 目を閉じる。

 

 数秒。

 

「……うん」

 

「な、なにしてるの?」

 

「確認です!」

 

 にこっ。

 

「たぶん、明日の今頃にはできてます」

 

「……できてる?」

 

「はい!」

 

 断言。

 

 根拠の塊みたいな声。

 

 

 気づけば——不安が消えていた。

 

 

「じゃあ、また来てくださいね!」

 

 手を振られる。

 

 魔法少女は呆然としながらロビーを出た。

 

(……なに今の)

(でも……)

(大丈夫な気がする)

 

 理由は分からない。

 

 ただ、あの少年が「大丈夫」と言ったから。

 

翌日・第三ラボ

 

 魔法少女が入室すると——

 

 綾芽がいた。

 

 なぜか主任の横に。

 

 

 作業台の上には、新しい武器。

 

 昨日より長いロングメイス。

 

「できました!」

 

 魔法少女、恐る恐る持つ。

 

「……軽い」

 

 振る。

 

 止まる。

 

 魔力を流す。

 

 ——すっ。

 

 抵抗ゼロ。

 

「……え」

 

「通ります?」

 

「通りすぎる……」

 

 

 主任は無言で武器を見る。

 

 次に綾芽を見る。

 

 そして深く息を吐いた。

 

(説明、いらないな)

 

 

 測定器を見るまでもない。

 

 完成している。

 

 

「……使用、問題ありません」

 

 淡々と承認。

 

 

 魔法少女は武器と綾芽を交互に見た。

 

「……ねえ」

 

「はい!」

 

「あなた、何者?」

 

 綾芽、きょとん。

 

「え? 普通ですけど?」

 

 主任、間髪入れず。

 

「普通ではありません」

 

 綾芽「えっ」

 

 

 主任は書類にハンコを押しながら続ける。

 

「ロビーで武器診断をしないでください」

 

「もう呼び名が増えてます」

 

 魔法少女、小声。

 

「……魔王子って」

 

 綾芽、首を傾げる。

 

「?」

 

 

 主任、天井を見る。

 

(自覚ゼロが一番厄介なんだよな……)

 

 

 その日。

 

 協会のロビーではまた一つ、静かに噂が増えた。

 

 ——武器を一目見ただけで内部を言い当てる少年がいる。

 

 しかも本人は、

 それを特技だと思っていない。

 

 

 今日も協会は平和。

 

 ただ一つ確かなのは——

 

 普通の基準だけが、壊れ続けている。

ここまで読んでいただきありがとうございます!


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