1-65. 固有魔法
杖をしまう。
出す。
またしまう。
三回繰り返して、綾芽は満足した。
「……ほんと便利だな」
でも、便利なのは杖だけじゃない。
机の上に、壊れた金具があった。
古い部品。
曲がっている。
拾う。
少しだけ魔力を流す。
――すぅ。
金属が、抵抗なく歪む。
粘土みたいに。
指で押すと、形が変わる。
ひねると、素直に従う。
「……やっぱ出来るな」
昔から出来た。
鉄でも。
プラスチックでも。
工具がなくても。
魔力を馴染ませれば――
好きな形に動く。
最初は、これが普通だと思っていた。
子供の頃。
粘土遊びの延長みたいな感覚だったから。
でも。
成長して。
周りを見て。
ようやく気付いた。
(……普通じゃないよな、これ)
少しだけ怖くなった時期もあった。
なんで出来るのか。
理屈は分からない。
でも。
「便利だから、使うけど」
結論はシンプルだった。
魔力を流す。
素材が柔らかくなる。
形を整える。
魔力を抜く。
すると、固定される。
それだけ。
単純な繰り返し。
でも。
繰り返すほど――精度が上がった。
歪みが減る。
強度が上がる。
加工時間が短くなる。
そして。
ルクシエルと融合してからは。
「……効率、段違いだな」
魔力の流れが見える。
素材の癖も分かる。
どこを削ればいいか。
どこを残すべきか。
最初から、分かる。
小さく息を吐く。
(これ……)
少し考えて。
言葉を探す。
(創造……に近いのか?)
分からない。
でも。
一つだけ、確かなことがある。
また金具を握る。
少し整える。
ぴたりと収まる。
「……楽しいな」
自然に笑っていた。
もし。
この能力に名前を付けるなら。
たぶん――
固有魔法――魔力調律。
そう呼ぶしかない。
窓の外を見る。
夕方。
静かな空。
(……もしかして)
ふと思う。
(これが)
(俺がここに来た理由だったりするのかな)
答えは出ない。
でも。
別に急がなくていい。
出来ることをやるだけだ。
綾芽は机に向かう。
次の素材を手に取る。
――今日も平和。
――世界だけが、少しずつ進んでいる。
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