1-64.武器職人・綾芽、はじまりの日
母さんの杖が長杖になった。
正確に言うと、
名前をつけたら、勝手に長くなった。
「……でかくない?」
八歳児の率直な感想だった。
両手で抱える。
ずしっ。
「重い……」
将来用としては申し分ない。
格好いいし、魔力の通りも最高。
でも――
「今、使えないじゃんこれ」
第一、持ち歩けない。
保管場所もない。
部屋に立てかけたら倒れる。
倒れたら危ない。
危ない以前に、怒られる。
どうしようかと悩みながら、
両手で杖を支えた、その時。
――ふわっ。
「……?」
杖が、光った。
硬い光じゃない。
キラキラした粒子のような、柔らかい光。
「え?」
次の瞬間。
すーっ、と。
杖がほどけるように分解し、
光の粒になって――
胸の奥へ、吸い込まれていった。
「……おおー」
思わず漏れる、素直な声。
杖は消えた。
服も無事。体も無事。
むしろ――
「……なんか」
体が、軽い。
息が深く吸える。
魔力が、どこにも引っかからずに巡っている。
「……巡り、良くなってない?」
軽く腕を振る。
違和感ゼロ。
便利だな、と思った。
でも――
出せなかったら意味がない。
「……えーと」
少しだけ緊張しながら、名前を呼ぶ。
「ルクシエル」
――ぱぁっ。
手元に光が集まる。
粒子が線になり、骨組みになり、形になる。
数秒後。
そこには、
さっきまで胸の中にあったはずの長杖が、
当たり前のように存在していた。
「……便利すぎない?」
思わず、笑った。
重さの問題、解決。
保管問題、解決。
持ち運び――完全解決。
「……将来用って言ったけど」
杖を見上げる。
「今から育てればいいのか」
そう思った瞬間。
――ふと、気づく。
魔力の動きが、
いつもより“見える”。
自分の魔力だけじゃない。
空気に混じる揺らぎ。
物に残る流れ。
わずかな癖。
「……あれ?」
試しに、魔力の質を変えてみる。
さっきよりも、
細かく、静かに、整えられる。
「……波長」
無意識に、合わせていた。
その感覚は――
どこか知っている。
素材に魔力を馴染ませた時の感覚。
バールを作った時の手応え。
(これ……)
小さく息を吸う。
(他の人の武器にも、合わせられる?)
頭の中で、
点と点が繋がる。
作る。
合わせる。
調整する。
「……あ」
思わず、笑った。
「なるほど」
難しい理屈は分からない。
でも一つだけ、はっきりしている。
「……これ、楽しい」
胸の奥が、少しだけ熱い。
この日――
綾芽はまだ知らない。
自分が、
武器を作る側の人間になったことを。
ただ一つ分かっていたのは。
手の中の杖が、
やけにしっくり来るということ。
そして――
これが、
武器職人・綾芽の、
静かで少しだけ派手な始まりだった。
――今日も平和。
――武器だけが、勝手に進化している。
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