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閑話 ドッジボール

 その日の体育は、ドッジボールだった。


 先生が面倒だったのか、

 クラス半分ずつで雑にチーム分け。


 俺のチームは


 花音。

 向葵。

 紅羽。

 りおな。


 ……強い。


 見た目は可愛い。


 中身は戦闘民族。


 花音なんて避ける時に前に出る。


 意味が分からない。


 対する相手は


 由衣ちゃん。

 千奈。

 真帆。


 じわじわ削って、

 気付けば相手は由衣ちゃんだけ。


 完全包囲。


 そこで。


 ボールが俺に回ってきた。


 由衣ちゃんが後ずさる。


「ふ、ふん!

 あんたのへっぽこボールなんて

 当たるわけないじゃん!」


 口だけは強い。


 さらに。


「わ、私のこと好きとか言えば

 見逃してあげてもいいわよ!」


 言った。


 すでに言葉が迷子。


 本人が一番驚いてる。


 耳赤い。


 そっぽ向いた。


 忙しいなこの子。


 まあいいか。


 俺はめちゃくちゃ手加減した。


「由衣ちゃん、投げるよ〜」


 ふわっ。


 山なり。


 ほぼ愛。


 なのに。


 なぜか。


 吸い込まれるように。


 顔面へ。


 ぺしっ。


「へぶしっ!」


 変な声。


 転倒。


 沈黙。


 由衣ちゃん。


 気絶。


 しかも幸せそうな顔。


 なぜ。


「当たり所まずかった!?」


 保健室送り。


 その後。


 戻ってきた由衣ちゃんは

 妙に落ち着いていた。


 でも顔は赤い。


 ちらちら見る。


 目が合うと逸らす。


 忙しいなこの子。


 花音が言った。


「綾芽くん、なんかやった?」


「ボール投げただけだけど」


「顔面に?」


「……うん」


 沈黙。


 向葵がぽつり。


「恋と脳震盪って

 似てるんだっけ」


「違うと思う」


 紅羽が真顔で頷く。


「でも今のはちょっと分かる」


「分からなくていい」


 その日から。


 由衣ちゃんは前より

 やたら絡んでくるようになった。


 ただ――


 前より少し優しい。


 刺々しさが減った。


 たまに心配もしてくる。


 でも本人は、

 たぶん認めない。


 理由は分からない。


 ただ一つ分かるのは――


 ドッジボールは、

 時々人生を変える。

 

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