1-62. 母さんにお強請り回
最近、綾芽は悩んでいた。
(……魔法、撃ってみたい)
まだ一度も、本格的に撃ったことはない。
制御はできる。
流すこともできる。
でも――放つ、という経験がない。
やるなら、練習は必要だ。
そして。
(杖がいるよな)
近接は空手がある。
剣も悪くないけど、今じゃない。
長い杖は時間がかかる。
自分で作る案も考えた。
でも。
ふと思い出す。
夕方のリビング。
紫の光。
母の杖。
あの時、手に触れた魔力の流れ。
(……あれ)
(忘れられないんだよな)
今はもう使ってなかったはず。
(余ってるって言ってたよな)
しばらく悩んで、結論。
「……一回、聞くだけ聞いてみよ」
ダメなら諦める。
そう決めて、リビングへ。
「母さん」
「なに?」
「母さんさ」
「短杖、まだ使ってる?」
「ああ、あれ?」
「あるけど?」
「……もし余ってるなら」
「僕、使ってみたいなって」
菖、少し考えてから。
「あ、いいわよ」
「……え?」
「試作第一号があるし」
「あれ、もう完全に予備だったから」
拍子抜け。
綾芽、数秒フリーズ。
次の瞬間。
「ありがとう!!」
満面の笑顔。
太陽より明るい。
菖、思わず目を逸らす。
「……はいはい」
さらっと渡される短杖。
綾芽は杖を受け取り、しげしげと眺める。
その瞬間。
――すっ。
綾芽の手に、ぴたりと馴染む。
「……あ」
「なに?」
「いや」
「なんか、しっくり来る」
試しに、ほんの少し魔力を流す。
――すぅっ。
抵抗なし。
「……通るなあ」
菖も触ってみる。
「……?」
もう一度。
「……?」
魔力、流れない。
「……あれ?」
綾芽が首を傾げる。
「母さん」
「もしかしてこれ」
「認識、僕に寄ってない?」
「……は?」
二人で触る。
綾芽:すんなり
菖:完全拒否
「…………」
「…………」
「ちょっと」
「なんで私の杖が私を拒否するの」
「さあ?」
「でも、前も似たことあったよね」
菖、嫌な予感。
「そういえばさ」
「この杖、名前ついてるの?」
「つけてないわよ」
「名前なくても普通に使えてたし」
「へぇ」
少し考える。
「……まぁ、いいか」
軽いノリで、宣言。
「ルクシエル!」
――バァン。
光。
眩い光。
「ちょ、待っ――」
光が収まる。
そこにあったのは――
どこか王笏っぽい雰囲気を残した、
しかし明らかに別物の杖。
「……」
「……」
二人、顔を見合わせる。
「……これ」
「ま、魔王杖ね、これ」
「ホント、見た目が魔王杖だね!」
次の瞬間。
「はははははは!!」
「魔王杖!!」
腹を抱えて大爆笑。
「なんで名前つけただけで変わるの!?」
「知らないよ!?」
笑いが収まった頃、菖が言う。
「……大事にしなさいよ?」
綾芽、杖を抱きしめて。
「うん!」
「ありがとう、母さん!」
満面の笑顔。
その日、
魔王杖は誕生した。
だが家庭内は、特に何事もなく平和だった。
こうして――
余っていたはずの短杖は、
何もなかったかのように
綾芽専用になった。
――今日も平和。
――武器だけが、なんか増えた。
※なお、
普通の武器を作る日は、まだ来ない。
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