1-58. 主任、頭を抱える(※通常業務)
夜。
協会・技術棟。
すでに定時は過ぎている。
主任は椅子に深く座り込み、天井を見ていた。
「……」
机の上には、
・試作第一号(バール型)
・測定ログ
・未提出の報告書
が、きれいに並んでいる。
「……整理しよう」
自分に言い聞かせる。
「まず前提だ」
独り言が始まる。
「八歳」
「変身なし」
「素体」
「魔力操作、安定」
「武器に同期」
「しかも、使用者固定を突破」
ペンが止まる。
「……普通、ここで一個アウトだ」
椅子を回す。
「五個アウトは聞いてない」
端末を操作する。
過去ログを呼び出す。
・同期現象
・武器側最適化
・波長完全一致
「……該当例、なし」
深いため息。
「研究対象にしたら、世界が壊れる」
「放置したら、もっと壊れる」
どっちも嫌だ。
机に突っ伏す。
「……なんでバールなんだ」
そこじゃない。
画面を見つめる。
「……あの子」
思い出すのは、
笑顔。
丁寧な受け答え。
「ありがとうございます!」
の一言。
「……自覚、ないんだよな」
そこが一番厄介だった。
主任は、ふと思い出す。
受付の報告。
「最近、受付が妙に疲れている」
「原因、特定できず」
「ただし来訪ログに共通点あり」
共通点。
――黒髪の少年。
「……ああ」
納得してしまった自分が嫌になる。
「武器も人も、無自覚に最適化するタイプか……」
椅子から立ち上がる。
バールを持つ。
魔力を、ほんの少し流す。
――応える。
早い。
素直。
危険なほど。
「……これは」
小さく呟く。
「“使える”武器じゃない」
「“育つ”武器だ」
そして、それを育てたのが――
「……八歳児」
笑うしかない。
机に戻り、報告書を開く。
一行目。
試作武装に関する非公式ログ
二行目で止まる。
「……いや、無理だな」
そっと閉じる。
代わりに、別のファイルを開いた。
内部管理メモ(非公開)
そこに、こう書いた。
・当該人物は刺激しない
・褒めすぎない
・止めない(止まらない)
・見守る
・受付への被害は各自自衛
最後に、太字で一行。
“普通”を壊さないことを最優先とする
ペンを置く。
「……世界を守るって」
静かに言った。
「こういうことなんだろうな」
照明を落とす。
帰り際、振り返って一言。
「……協会」
「また、とんでもないのを拾ったな」
扉が閉まる。
廊下の先では、
何も知らない世界が、
今日も平然と回っていた。
(つづく)
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