1-53.最近のマイブーム(※防衛線崩壊中)
最近、ちょっとしたマイブームがある。
協会の受付さんに、
挨拶を少しだけ可愛く言うこと。
別に深い意味はない。
本当に。
ほんの少し声を明るくして、
語尾を軽く跳ねさせるだけ。
――それだけなのに。
自動ドアが開く。
四人いる。
フルメンバー。
(よし)
少し姿勢を整える。
息を吸う。
「こんにちはっ!」
最初に反応したのは梓さんだった。
顔が上がるのが早い。
ほぼ反射。
「こんにちは、綾芽くん」
いつも通り。
だが視線は少し柔らかい。
「今日は主任に用事かな?」
(読まれてる)
「はい!」
「第三ラボだよ。今なら空いてる」
隙がない。
でも。
「梓さんって、
今日もすごく綺麗ですね」
一拍。
「……ありがとう」
にこっとする。
「照れました?」
「照れてない」
……0.3秒遅かった。
(効いた)
次に、雫さんがしゃがみ込む。
「こんにちは、綾芽くん」
自然に目線が合う。
「今日は顔色いいね」
「はい! 元気です!」
にこっ。
少し声を落として。
「雫さん、優しい顔してると
ずるいですよね」
停止。
「……ずるい?」
「甘やかされたくなります」
ペンが止まる。
耳、少し赤い。
(……効いてる)
「無理しないでね?」
逆に心配された。
今度は、
黙って見ていた凛さんへ向く。
「こんにちは!」
一秒。
「……こんにちは」
少し柔らかい。
レア。
「凛さんって
立ってるだけでかっこいいですよね」
沈黙。
「……そういうのはいい」
「今ちょっと照れました?」
「照れてない」
口元だけ負けてる。
(よし)
そして最後は、当然すずさん。
「綾芽くーーん!!」
「今日も来てくれたの!?」
「すずさんも元気ですね!」
「えへへ〜!」
ガシャ。
書類落下。
(通常運転)
「すずさん」
「なに?」
「今日も可愛いです」
「えっ!?!?!?」
真っ赤。
さらに。
「毎日言わないと
伝わらないかなって」
防衛線、崩壊。
後ろで。
梓、息を吐く。
凛、視線を逸らす。
雫、微笑んでる。
(このチーム、好きだな)
用件を済ませる。
帰り際。
「それじゃ、また来ますね!」
ぺこり。
自動ドアが閉まる。
背後。
静寂。
数秒後。
「……今の破壊力上がってない?」
梓。
「直球すぎるよね……」
雫。
「天然じゃないな」
凛。
「え、私だけじゃなかったの!?」
すず。
正解。
天然じゃない。
廊下を歩く。
満足。
非常に満足。
思わず伸びをする。
「はぁ〜……」
しみじみ。
「今日も受付のお姉さん達、
美人で綺麗で最高だったな!」
うんうん頷く。
「いっぱい笑顔も頂いたし」
拳を握る。
「笑顔を頂いた分はしっかり張り切って、
めいっぱい頑張りますかっ!」
ご機嫌で去っていく。
それはもう、上機嫌だった。
その背を見送りながら、
もし誰かが見ていたら思っただろう。
――たちが悪い。
なお本人は善意100%である。
今日も協会は平常運転。
ただし。
静かな防衛線のHPは
確実に削れていた。
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