1-52.公開処刑(※本人無自覚)
魔法少女協会・受付。
午後。
比較的、静かな時間帯。
梓は気づいていた。
ここ最近の――雫の挙動に。
入口が開く前に顔を上げる。
声が一段だけ柔らかくなる。
綾芽が帰ったあと、ほんの少しだけ表情が緩む。
分かりやすい。
実に分かりやすい。
(……ちょっと遊ぼうかしら)
悪い顔だった。
横で翠が小声。
「やめときなさいよ」
「大丈夫、大丈夫」
全然大丈夫じゃない顔だった。
――自動ドアが開く。
雫、0.5秒。
顔を上げる。
梓、確認。
(早い)
「こんにちは!」
来た。
しかし。
その瞬間。
梓が――動いた。
「綾芽くーん!」
先制。
完全な横取り。
雫の思考が止まる。
「今日も可愛いわね〜」
頭をぽんぽん。
距離、近い。
近すぎる。
雫の処理速度が、
明確に落ちた。
(……え?)
綾芽はにこにこ。
「こんにちは梓さん!」
「今日は何しに来たの?」
「主任さんに会いに!」
「そっかそっか〜」
さらに距離を詰める梓。
完全に故意。
翠、心の中で合掌。
(雫、耐えて)
ちら、と雫を見る。
固まっていた。
書類を持ったまま。
ページ、めくれていない。
梓、追撃。
「ねえ、今日の私どう?」
綾芽、即答。
「今日も綺麗です!」
梓が笑う。
「もう、素直なんだから」
言いながら、
もう一度頭を撫でる。
その瞬間。
雫の指が、ぴくっと動いた。
翠、確信。
(来た)
空気が、
ほんの少しだけ冷える。
温度ではない。
圧。
梓は分かっている。
だから続ける。
「今度、お姉さんとお茶でも行く?」
冗談半分。
だが――
雫のペン先が、
カチ。
限界が近い。
綾芽が振り向く。
「あ、雫さん!」
救世主。
雫、起動。
「……こんにちは」
声。
平常。
完璧。
だが。
翠にしか分からない。
肩が、
ほんの少しだけ硬い。
「主任は第三ラボです」
業務モード。
鉄壁。
梓、ニヤニヤ。
(強いわねぇ)
綾芽は首を傾げる。
「雫さん、なんか今日きりっとしてますね!」
「……通常です」
即答。
梓、吹き出しそうになる。
綾芽、ぺこり。
「行ってきます!」
去っていく。
自動ドアが閉まる。
沈黙。
三秒。
五秒。
雫が静かに言った。
「……梓」
「なあに?」
笑いを堪えている。
「業務中です」
「そうね?」
「過度な接触は控えてください」
正論。
完璧な正論。
だが。
耳が赤い。
翠、確信。
(嫉妬ね)
梓、耐えきれず笑う。
「ごめんなさい。ちょっと見てみたくて」
「……何をですか」
一拍。
「雫の反応」
沈黙。
フリーズ。
「……は?」
翠、追撃。
「めちゃくちゃ分かりやすかったわよ」
「分かりやすくありません」
即否定。
早い。
梓、優しく言う。
「雫」
「……はい」
「好きでしょ?」
完全停止。
思考、落ちた。
「……」
「……」
数秒後。
「仕事します」
逃げた。
二度目。
梓と翠、顔を見合わせる。
(確定ね)
その頃。
第三ラボへ向かう途中。
綾芽は一人、考えていた。
(……なんか)
(さっき、空気ピリッとしてなかった?)
首を傾げる。
でも、すぐ忘れる。
八歳男子である。
受付では。
雫が、
いつもより丁寧に書類を揃えていた。
角を合わせる。
もう一度合わせる。
さらに合わせる。
翠、小声。
「壊れかけの精密機械みたいになってるわよ」
「壊れていません」
即答。
だが。
心だけが、
ほんの少しだけ、ざわついていた。
理由は――
まだ認めない。
絶対に。
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