2-22. 変わった気配
綾芽視点
最初は、はっきりした違和感じゃなかった。
ただ、少しだけ空気が違う。
道場で並んで竹刀を構えたとき。
踏み込みでも、間合いでもない。
もっと手前――身体の奥の張り方。
(……増えてる)
火宮紅羽。
俺と同じくらい剣道に通って、同じ床を踏んできた幼馴染。
だから分かる。
技じゃない。
姿勢でもない。
“中身”が、少しだけ増えている。
「くれは」
声をかけた瞬間、肩がわずかに揺れた。
それで確信した。
「……なに?」
いつも通りの顔。
でも、隠してる。
「昨日、何かあった?」
「別に」
間が、ほんの一拍だけ遅い。
逃げ道を作らず、直球で聞く。
「魔法少女になった?」
一瞬。
本当に一瞬だけ、目が泳いだ。
「……うん」
正直に答えた。
そこは、くれはらしい。
「綾芽には、言わなきゃって思ってた」
胸の奥が、少し締まる。
(……やっぱり)
「ちょっと、来て」
理由は言わない。
でも、くれはは黙ってついてきた。
ラボ。
「ここ、俺が働いてる場所」
「……知ってたけど、入るの初めて」
扉を閉め、遮音をかける。
「見せて」
「なにを?」
「今、持ってるもの」
くれはは首元に手をやって、少し迷ってから小さく首を振った。
「……何も」
嫌な予感が、はっきりした形になる。
「変身しただけ?」
「うん。
それ以上は、何も」
(……最近は最低限、渡してたはずだろ)
内心で、静かに怒る。
声には出さない。
「俺が用意する」
ラックから、一本の長剣を引き出す。
実戦用。
でも、過剰じゃない。
「名前、つけて」
「……え?」
「名前がないと、安定しない」
くれはは剣を見つめて、少し考えてから口を開いた。
「《ローズブレイカー》」
赤い魔力が、剣にすっと馴染む。
(……合ってる)
「これでいい」
剣を渡すと、くれはは柄を強く握った。
「……ありがと」
少しだけ、安心した顔。
「無理すんな」
「うん」
一拍おいて、くれはが言う。
「でも」
真っ直ぐな声。
「男の子は危ないでしょ」
「綾芽は、私が守る」
――ああ。
そういうところだ。
「……がんばるね」
俺はそう返して、視線を逸らした。
(前に立つのは、くれは)
(なら、俺は後ろを固める)
剣は渡した。
名前もつけた。
でも、これは始まりだ。
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