2-20. 桜は静かに決意する(チェリー・ブロッサム)
放課後。
綾芽とかのんが並んで歩いていた、その横。
――ひょこ。
ぬいぐるみみたいな妖精が、唐突に現れた。
綾芽と目が合う。
「……」
妖精の動きが止まる。
「……げっ」
次の瞬間、方向転換して全力で逃げようとする。
が。
「――待て」
綾芽が無言で頭を掴んだ。
持ち上げない。潰さない。
逃げ道だけを塞ぐ、慣れた動作。
妖精は宙でじたばたする。
「ちょ、今日は違うの! 本当に用事ないから!」
「……何しに来た」
低く、短い。
妖精は観念して、かのんを見る。
「え、えっと……君が対象。
魔法少女、やってみない?」
かのんは一歩だけ前に出た。
声は小さい。
でも、逃げない。
「……危ないですよね?」
「うん」
「逃げられなくなりますか?」
「うん……でも」
かのんは、もう一つだけ聞いた。
「綾芽くんは、危なくなりませんか?」
妖精が詰まる。
その瞬間。
綾芽が口を開いた。
「それは、俺が止める」
短い一言。
かのんは、それを聞いて。
ちゃんと、考えて。
静かに言った。
「……私、守る力が欲しいです」
妖精の表情が変わる。
「誰を?」
迷わない。
「大切な人を」
差し出された、小さなコア。
淡いピンクの光。
「名前をつけて」
かのんは少し照れて、
それでもはっきり言った。
「……チェリー・ブロッサム」
光がふわっと広がる。
そして妖精は、満足そうに頷き、
何事もなかったように消えた。
綾芽は手を離す。
「……判断、早かったな」
かのんは小さく笑った。
「……考えすぎる前に、決めました」
――その数日後。
ラボ。
机の上に、一本の杖。
「……これ、呼ぶと出てくるんだよね」
かのんは、杖をじっと見る。
「名前、大事だから」
綾芽は真顔。
「う、うん……」
しばらく悩んで。
「……コアがチェリー・ブロッサムだから……」
さらに悩んで。
深呼吸。
「《ブロッサム・ロッド》!」
淡い光と一緒に、杖が収束する。
「……出た」
ちょっと安心した声。
綾芽は頷いた。
「覚えやすい。いい名前だ」
帰り道。
夕暮れ。
かのんは、ぽつりと言った。
「……怖くないって言ったら、嘘です」
綾芽は頷く。
「普通だ」
「でも……」
かのんは綾芽を見る。
少しだけ、強い目。
「私が守るからね」
一瞬、綾芽が目を瞬かせる。
それから、苦笑した。
「……逆転してきたな」
かのんも、小さく笑った。
引っ込み思案で、
静かで、
優しいけど。
逃げない。
考えて、選んで、決める。
それが――
チェリー・ブロッサム。
桜は、静かに咲いた。
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