2-16. はじめての協会
あの変身ができるようになってから、数日が経ったある日。
私は魔法少女協会を訪れた。
場所は家からそれなりに近く、広めの敷地の中に建つ五階建ての建物だった。
見た目は郊外にある町役場そのもの。
……魔法少女の拠点と聞いて、もっと怪しい建物を想像していた私は、少し拍子抜けする。
自動ドアを抜けてロビーに入ると、受付の職員さんがすぐに声をかけてきた。
「本日はどうされましたか?」
優しい笑顔。
逆に緊張する。
ここで言っていいのかな、と一瞬迷ったけれど、言われた通り来たのは事実だ。
私は先日の出来事をできるだけ噛み砕いて説明し、最後にこう付け加えた。
「……魔法少女になったので、魔法少女協会に行くように言われました」
一瞬、職員さんの表情が固まった。
「あらあら……」
次の瞬間、ちょっとだけ怖い顔になって、ぼそぼそと呟く。
「あれは、ほんとにいつも説明が雑で……」
あ、やっぱり。
「詳しい説明はこちらでしますね。ついてきてください」
そう言われ、小さな会議室のような部屋に案内された。
中に入ると、職員さんは確認するように聞いてきた。
「今日は、お時間ありますか?」
「あります」
そう答えると、にっこり笑って、
「それじゃあ、説明と簡単な研修をしますね。少し待っていてください」
と言い残し、慌ただしく部屋を出ていった。
……研修。
少しして戻ってきた職員さんが、机の上に一冊の小冊子を置いた。
可愛い図解とイラストがたっぷり入った、
『初心者のための失敗しない魔法少女のススメ(小学生向け版)』
タイトルを見た瞬間、少しだけ胸が痛くなった。
中身は、思っていたよりずっと真面目だった。
魔法少女になる前の注意点。
契約を持ちかける存在への警戒。
衣装や武器の基本。
そして何より――
「一人で戦わないこと」
「基本は三人以上でチームを組んで行動してください」
職員さんは、念を押すように言った。
「妖魔は危険です。下位でも油断は禁物。上位以上は、必ず仲間と一緒に対応してください」
……三人以上。
「三人以上って言われても、知り合いなんていませんけど」
正直にそう言うと、職員さんは即答した。
「大丈夫! そのための魔法少女協会だから!」
どうやら魔法少女協会は、単なる相談窓口ではないらしい。
現在は防衛省と協力関係にあり、半分政府機関のような扱いを受けているという。
「だからね――ちゃんとお給料も出るのよ」
「えっ」
思わず声が出た。
親への説明、学校への説明、その他の手続きもすべて協会が対応してくれるらしい。
今通っている学校も、実は魔法少女育成のモデル校として試験運用中だとか。
……全然知らなかった。
「それからね」
職員さんは、少し真剣な顔になる。
「あなたが契約した時に現れた、ぬいぐるみみたいな存在。ああいうのは他にもいます」
「もし見かけたら、まずは安全を確保して、必ず協会に連絡してください。絶対に一人で対応しないこと」
何度も、何度も念を押された。
内心、
(ええ……)
と思いながらも、ふと、あることに気づく。
……あの時。
私は綾芽君に助けられていたんだ。
今さら、その事実がじわっと胸に落ちてきた。
最後に、職員さんは端末のような小さな機械を差し出した。
「これは連絡用ね。メンバーの配置や用事があれば、こちらからも連絡します」
「学校や私生活のことで困ったことがあっても、遠慮なく相談して」
「魔法少女をサポートするのが、魔法少女協会だから!」
そう言って、職員さんは笑顔で見送ってくれた。
……思っていたより、ちゃんとしている。
少なくとも、
「一人で何とかしろ」
なんて言われなくて、少しだけ安心した。
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