2-9. 翌日受付 ――そんな名前の人は知りません
翌日。
魔法少女協会・受付。
いつも通りの朝。
書類、端末、来客ゼロ。
平和。
そこへ。
「こんにちはー」
綾芽が普通に入ってきた。
いつもの小さな鞄。
いつもの笑顔。
完全に無害。
雫が、にこっと笑う。
「綾芽君」
「はい?」
一拍。
「昨日はありがとうね」
綾芽、首を傾げる。
「昨日?」
雫、優しい声で。
「うさぎ魔王」
間。
綾芽。
真顔。
「そんな名前の人は知りません」
すず、横で吹き出す。
梓が眼鏡を押し上げる。
凛は腕を組んだまま。
雫、少し身を乗り出す。
「昨日、市街地で」
「白タイツで」
「胸に“まおう”って書いてて」
「うさぎのお面で」
綾芽。
一歩下がる。
「そんな名前の人は知りません」
凛、小声。
「二回目」
雫、笑いを堪えながら。
「昨日はうさぎ魔王だったじゃん」
綾芽、やや焦る。
「そ、そんな名前の人は知りません!!」
すず、机に突っ伏す。
「無理…声そのまま…」
梓が冷静に追撃。
「現場の証言、全員一致なんだけど」
綾芽、後退。
半歩。
さらに半歩。
「ぼ、僕は!」
胸を張る。
「可愛い綾芽君です!!」
受付チーム、全員同時に吹く。
綾芽、さらに言い切る。
「そんな名前の人は知りません!!」
ビシッと指差す。
「では!」
くるっと踵を返し。
「さらば!!」
ダッシュ。
本気。
速い。
自動ドアが開く前にもう消えていた。
沈黙。
すずが顔を上げる。
「……逃げた」
梓。
「うん」
雫、苦笑い。
「隠す気あるのかな…」
凛が最後にぽつり。
「次から」
一拍。
「せめて胸の文字は消せ」
受付、爆笑。
――この日。
協会の内部メモに、静かに追記された。
『うさぎ魔王=否認傾向強』
受付は、今日も平和だった。
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