2-2. 日常の裏で終わったもの
月曜日の放課後。
由衣ちゃんが日直で、廊下を一人で歩いている。
(……いる)
今日は、空気が少しだけおかしい。
音も匂いも変わらないのに、
廊下の奥が、わずかに“浮いている”。
魔力視を意識する前から、
視界の端にノイズが走る。
(この感じ……)
協会でも感じた、
**「魔法少女に近づく生き物」**と、よく似ている。
でも、あれとは少し違う。
(似てるけど……別物だな)
角の向こうから、影が出てきた。
小さくて、丸っこくて、
どこかで見たことのあるような黒いマスコット風。
由衣ちゃんは、まだ気づいていない。
普通に歩いている。
魔力視を重ねた瞬間、はっきり分かった。
外側はそれっぽい。
声も、動きも、雰囲気も。
でも中心にあるのは――
薄く広がった黒い核。
強そうに見せるための演出ばかりで、
中身は“虚勢”の塊。
魔力出力だけは無駄に高いけど、
思想も目的も、ひどく浅い穢れのように感じる。
(……触れさせたら面倒だな)
影が口を開く。
「ぼくと――」
その瞬間、体が前に出た。
(させるかっ!)
「ヒャッハー!――○△□×%!!!!」
叫びながら踏み込み、魔力を籠めた手加減抜きの全力、迷いなく蹴る。
手応えは、予想通り。
(……軽っ)
外殻が派手に砕け、
黒い魔力が弾ける。
形を保っていた“それ”は、
ノイズみたいな悲鳴を一瞬だけ上げて――
消えた。
廊下が、急に静かになる。
(……終わった)
床に、黒い塊が転がっていた。
指先ほどの大きさ。
でも、魔力密度は異様に高い。
(何だろう、これ……)
外側はただの殻。
中枢は、このコアだけ。
由衣ちゃんの視界に入らないように、
さっと拾って袖の内へ。
魔力を絞ると、
コアは静かに沈黙した。
――そのとき。
「……だ、大丈夫?」
由衣ちゃんの声。
振り返ると、
心配そうにこちらを見ている。
(切り替え)
「だ、大丈夫!」
頭をかいて笑う。
「なんかテンション上がっちゃって……つい」
「わ、わたしは……」
一拍おいて、
由衣ちゃんが言う。
「よかった」
その一言で、胸の奥が少し緩む。
「……うん、よかった」
それ以上、何も聞かれなかった。
――助かった。
そのまま、
何事もなかったみたいに帰る。
この日の後も、
校内で“変なものを見た”という話は出ない。
理由は単純だ。
(本体は回収した)
逃げたわけでも、隠れたわけでもない。
そもそも、
「存在していた痕跡」自体が残っていない。
袖の内側で、
黒いコアが冷たく沈んでいる。
(……解析しよう)
これは、
「勧誘妖精に似た挙動をする何か」の核。
同じものが、
他にもあるかもしれない。
日常は続く。
由衣ちゃんは、まだ何も知らない。
でも――
裏側ではもう、
一つ目の異物が、確実に除去された。
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