2-1. ヒーローは月曜日にだけ現れる
なんと、私は転生者である。
今世の名前は、木村由衣。
現在、十一歳の女の子だ。
前世の名前は、鈴木由衣。
記憶もしっかり残っている。
前世では、異世界転生もののラノベやアニメ、おねショタ系の本、乙女ゲームなどを嗜んでいた、わりと普通の二十一歳の大学生だった……と思う。
多分。
転生に気づいたきっかけは、八歳のときの体育の授業だった。
ドッジボールが顔面に直撃して、そのまま気を失い、保健室に運ばれたらしい。
ベッドの上で目を覚ました瞬間は、正直よく分からなかった。
でも、今世の記憶と前世の記憶が、少しずつ混ざり合って――
全部が、カチリと噛み合った瞬間に理解した。
「あ、これ……転生してるな」
多分、前世では死んだんだと思う。
ただ、その瞬間の記憶はなぜか無い。
今世の私は、はっきり言って美少女だ。
黄みがかった瞳に、黒い髪。目鼻立ちも整っていて、某集団アイドルに混じっても見劣りしない……と思う。
……思うんだけど。
ここは、男の子が極端に少ない世界だった。
そのせいか、女の子は総じてレベルが高い。
つまり。
「美少女だけど、全然目立たない」
そう、私はモブである。
この世界では、男性の割合はだいたい五〜六人に一人。
原因は、妖魔と呼ばれる化け物らしい。
妖魔は決まって、十三歳以上の男性を狙って攫う。
最初の頃は警察や自衛隊が迎え撃ったそうだけど、返り討ちに遭い、男性の死傷者が大量に出たという話をニュースで見たことがある。
今では、妖魔への対処は魔法少女の仕事らしい。
私はニュースで見るだけの、完全な一般人だ。
小学生の間は比較的安全らしく、クラスにも男子は普通にいる。
割合としては、五人に二人くらい。ちょっと女子が多い、くらい。
そんな私には――
最近、とても気になっている男の子がいる。
名前は、真咲綾芽君。
紫がかった瞳に、黒い髪。
光の加減で、少しだけ紫がきらきらと反射する。
顔立ちは整っていて、乙女ゲームの攻略キャラになりそうなタイプだ。
ただ、体が弱くて病弱らしく、学校に来るのは月曜日だけ。
だから、私は月曜日が待ち遠しい。
……なのに。
自分でも分かるくらい、私は拗らせている。
綾芽君に対しては、すぐ突っかかるし、からかってはダル絡みするし、
心配されると反抗するくせに、反応はめちゃくちゃ気になる。
あとで必ず、
「なんであんなこと言っちゃっうんだろ……」
と、自己嫌悪する。
それでも、綾芽君はいつも優しかった。
そんなある日の放課後。
日直だった私は、日誌を職員室に返して、一人で廊下を歩いていた。
そのとき、廊下の奥から、黒い変な生き物に呼び止められた。
前世でよく見たアニメに出てくる、
魔法少女のマスコットみたいな見た目の不思議生物。
目付きは悪い。
可愛い見た目だけど見るからに胡散臭い雰囲気が出ていた。
そいつが口を開き、
「ぼくとけいや――」
(……来た)
(ニュースで見たやつ)
(魔法少女勧誘妖精)
(契約すると戦うことになるっていう……)
と言いかけた、その瞬間。
「ヒャッハー!――○△□×%!!!!」
意味不明な叫び声とともに、
とんでもない勢いで何かが飛び込んできた。
ドンッ、という鈍い音。
よく見ると――
蹴り飛ばしていたのは、綾芽君だった。
しかも、叫び声は若干……嬉しそうだった。
正直、かなりドン引きしたけれど。
今はそれよりも、二人きりという状況のほうが気になってしまう。
私は恐る恐る声をかけた。
「……だ、大丈夫?」
綾芽君は少し気恥ずかしそうに、頭をかきながら言った。
「なんか、テンション上がっちゃって……つい。
由衣ちゃんは大丈夫だった?」
「わ、わたしは大丈夫だよ」
そう答えると、
「よかった!」
と、満面の笑み。
その笑顔を見た瞬間――
胸の奥が、きゅっとなった。
ああ。
私、やっぱり――
綾芽君のこと、好きなんだ。
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