一章:魔法使い、魔剣修復する。6
回路も無事に完成し、熱による変性も見られない。次の作業としては、剣の土台に剣身の外側部分である鋼を被せていく事である。
「シルト、剣の向きはどうする?」
「んあー、作業台と平行にしてもらってもいいのだー?」
「ああ。」
フォードが次の作業がしやすい様に、鋼のインゴットを熱している最中のシルトに声をかける。縦にしてたのは、スノゥとキュウヤの作業の関係なので、シルトの作業だとまた違うからね。フォードは宙に浮かせている剣を、すーっと横に倒していく。
ミルキィは、シルトの作業が始まる前に固定化されたトロパ鉱の回路をマナで覆って保護していく。頑丈に、頑丈に保護せねば…。
「よーし、あったまったのだー。
熱いのが通るのだ、そのまま動かないでほしいのだ。」
熱された鋼のインゴットをやっとこで掴んで、シルトは小型の炉の前から作業台の方へと向かう。
「剣の上に直接インゴッド置いても大丈夫なのだ?」
「いけると思うよ?」
「なら置くのだー。」
ぽてり、と浮かせている剣の剣身の上に、シルトが熱した鋼のインゴットを置いて。やっとこを作業台の上に置いて、シルトもマナ操作を開始する。
何かに押されたかの様に、鋼のインゴットが少しずつ潰れていき、剣身の上に広がっていく。
この時の圧でトロパ鉱の回路が潰れたり、擦れたりしない様に、きっちり頑丈にマナで保護しておかねば。ここで、ここで失敗するわけには…!
ずるずると、ゆるゆると、鋼のインゴットが広がり、ミスリルを、トロパ鉱の回路を覆い隠していく。上の面から下の面へ。どんどん鋼が広がっていく。
「…なんか、生き物みたいだね?」
「だなぁ。〈水様態〉みたいだ。」
「あー、言われると確かに…?」
「もちもちしてそう…でも触ったら火傷…。」
「…今度、〈水様態〉探しに行くか。」
〈森の輪〉が鋼の広がり方を見て、こそこそと話している。テオラルテはこんな技術知らん…と驚いた表情である。反対に、ディオラルトはこんな技術もあるんですね、と少し落ち着いている様子。いきなり立て続けに常識外の手法を見せられている状態だが、慣れてきたのだろうか。でも、使える技術じゃないですね、と、ポツリと呟いているので、旅人達が見せる技術に左右されずに、しっかり技術を磨いていってほしい。
ちなみに、〈水様態〉はスライムっぽい魔獣で、そこまで手強くない部類の魔獣である。見た目的にはもちもちたぷたぷしている魔獣で、体液を接着剤の様に用いることが出来る。触っただけなら、特に問題はない。家具屋で見た〈歩行樹〉の合板を作る際に接着剤として用いるのも、〈水様態〉の体液である。
亜種として、体液が酸になっている個体があるそうで。そちらは武器で攻撃したら酸で溶かされるとのこと。推奨されている討伐の仕方としては、精霊術を使うことらしい。使えなかったら全力で回避しろと。…アルカリ性の液体をかけたら、はたして、中和されるのか否か。冒険者ギルドに実験した記録とかないだろうか。
「ミルキィ、回路の状態は大丈夫なのだ?」
「頑っ丈に保護してるからね、今のところ問題なし!」
シルトの問いに、ミルキィがしっかりと答える。
トロパ鉱の回路が鋼で覆われつつあるので、〈解析〉や〈鑑定〉も併用しつつ、操作しているマナの状態を感じ取ることで回路の状態を把握しているのである。それなりに大変なので、気が抜けない。
じわりじわりと、鋼が剣身全体を包み込む様に広がっていく。広がって、鋼同士がぶつかり合った時、境目は溶けて一つにつながっていく。境目が残ったままだと、そこから鋼の層に割れ目が入り、損傷に繋がる可能性がある。それを起こさないためにも、境目を作らない事もまた、大事なのである。
広がって、ぶつかって、混ざり合って。いくらか時間をかけて、鋼が一切の継ぎ目もなく剣身を包み込んだ。先にスノゥが被せておいた鋼との繋ぎ目も一見ではわからないほどに、一体化していた。
「こんな感じで、出来たのだ。」
「トロパ鉱部分の保護解除するねー。魔剣の核の保護は継続だけどっ。」
「…粗熱をとるぞ。アヤナ、頼む。」
「お任せくださいませ。」
ちゃぽん。
剣のつけられた水面は静かなまま。
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また次話お会いできると嬉しいですっ。




