一章:魔法使い、魔剣修復する。5
「沸騰しとらん…!」
驚愕の声が、テオラルテから上がる。ディオラルトもまた、驚きで目を丸くしている。
熱された鋼を水に入れようものなら、鋼に触れた水から沸騰し。ごぽりごぽりと、水が湯となり水蒸気の泡が生まれるだろう。
だがしかし、スノゥが熱された鋼を入れた液体は、ごぽりともゆらりとも、沸騰する事も揺れる事も無い。揺れない水面の奥を、アヤナとスノゥが見つめている。
「もう、取り出しても大丈夫でしてよ?」
「りょうかーい。」
アヤナの合図で、スノゥは火バサミを水面につきさして、沈めた鋼を掴んで液体の中から取り出した。
それじゃ、こっちに置いとくねー、と、熱気を感じられない鋼の塊を、ころりと作業台の上に置く。
簡単に説明すると、木製の桶の中に入っている液体は、熱エネルギーを吸収して蓄積し、充電できる液体である。沸騰する前に熱エネルギーを吸収変換するために、水面が静かだったのだ。なお、蓄積されたエネルギーは、別の形態のエネルギーとして利用可能である。
一方、剣の土台の状態を確認していたクロムが一つ頷いて。キュウヤの方を振り返る。
「キュウヤ、これで回路描けますよ。」
「ありがとう。」
クロムの言葉を受けて、キュウヤは液体状のトロパ鉱入りの木の桶を抱えて、作業台のほうへ近付く。
担当作業の終わったクロムは作業台から離れ。入れ替わる様にシルトが作業台に近付き、やっとこでスノゥの使ったものとは別の鋼のインゴッドを掴んで、小型の炉で熱し始めた。
ことり、と作業台の上にトロパ鉱入りの木の桶を置いて。応接室でしたのと同じ様に、マナ操作でトロパ鉱を細い一本の線状に持ち上げる。
「剣の傾きは、このままでいいのか?」
「問題ないかな。それじゃあ、先に剣身の方の回路を描くよ。」
剣の位置は、先程スノゥが鋼を重ねた時のまま。その状態で、キュウヤはまず実際に火を纏う剣身の方の回路を作成していく。
す、と魔剣の核から始まり、ミスリルの上に、トロパ鉱の線が描かれていく。人が触れたら火傷をするぐらいにはまだ熱がこもっているのだが、描かれたトロパ鉱の線は問題なく変化する事もない。
トロパ鉱の線が火を纏う剣身の位置に辿り着いた時、込められるマナの質が火属性のものへと変わっていく。くるり、くるり、時折葉の様な紋様を描きながら、剣身の側の回路を描いていく。
するすると描かれた回路は、一定の太さを保ったまま。マナの質が火の属性のものではなくなり、魔剣の核へと回路が帰る。
「意外と…熱にも強いみたいだね?まぁ、普通に道具を使って回路を描こうとした場合、道具の方が熱で異常を起こす可能性を否定できないかな。」
例えば、ヘルロットが使っていた万年筆の様な道具であるが。ペン先が熱を持ったままの剣身に触れてしまうと、ペン先が歪んでしまう可能性が多いにある。
歪まない様に剣の土台自体の熱を取ってしまうために対処をすると、その方法によっては剣の土台自体が歪んでしまうかもしれない。更には熱をとってしまった事で、この後に被せる鋼が剥がれやすくなってしまうかもしれない。難しいねぇ。
キュウヤは先程回路を描いた面の裏側の面にも、同じ回路を描いていく。くるり、くるり。同じ様に、葉が描かれた。
「よし、これで剣身側は描けたね。
それじゃあ今度は、持ち手側を描いていこうか。」
魔剣の核の上部から、新しい回路が描かれ始める。今度の回路は、鋼の上を描かれながら進んでいく。同じ太さで線は進み、持ち手の部分でマナを注ぐ場所としての意味を規定された丸が描かれる。
描かれた回路が魔剣の核に帰ると、また裏側の面にも同じ様に丸と魔剣の核を繋いだ回路が描かれた。
表裏で四箇所分の回路の輪が描かれて。するりと桶から持ち上げられた一本の線が、桶の中のトロパ鉱の水面に帰っていく。
これでいい感じかな、と、キュウヤが回路完成の合図のマナを込めると。マナが回路を駆け巡り、かちりと液体状だったトロパ鉱が固まった。
読了ありがとうございます!
また次話お会いできると嬉しいですっ。




