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02 真琴は転がり落ちて、蹴られた

「本日は、高等部部長がご欠席のため、副部長であります田山裕子よりご挨拶があります。」


アナウンスの直後、ステージ左の席の中から一人のおじさんが(・・・いやあれはおばさんか)立ち上がるとすたすたとステージに向かっていく。

登壇し、演台の前に立ったそのおじさん(・・・じゃなくておばさん)はコホンとひとつ咳払いをするとしゃべり始めた。


「みなさん。本日はご入学おめでとうございます。

早速ですが、皆さんに肝に銘じて欲しいことが三つあるのであります。

まず一つは、若宮学園の生徒としての心構えであります。」


いきなり「―であります」かよ・・・。

なんちゅうおばさんなんだろうなあいつ。


「若宮学園の校訓は『Freedom and responsibility』つまり『自由と責任』であります。

これは、我が校の生徒たちが常に、自らの進むべき道を選ぶことができるという自由を持つ。

それと同時に、その道に対して責任を負うということであります。

たとえるならば、鳥の羽というところであります。

遠くへ、そして高く飛ぶためには大きい翼が必要です。

翼を大きくすれば、もっと長い距離を飛べるようになる。

つまり、自由が広がるのであります。

その分自分の好きな道も選べる。

ですが、大きくしすぎると重さも同時に増えていきます。

そして、そのまま大きくし続けるといつか飛べなくなってしまう。

これが責任であります。

つまり、自由になる代わりに、責任を負わなければならないということであります。」


ここで、あのおじ・・・いや、おばさんは一息ついた。

なんていうか・・・あの人疲れる。

体力的にも精神的にも。

いままでの「―であります。」は計8回。

これからもっと増えていくに違いない。

カウントでもしてみようか・・・。


それはそうと、だいぶ体のほうもつらくなってきた。

入学式開始から1時間弱。

別に卒業式みたいに証書を渡すわけでもないのにいまだに終わる気配を見せない。


「これが、元お嬢様学校の伝統ってヤツかな」


コンサートホールのような講堂を見渡すと、備え付けられた席には生徒たちが座っている。

しかし、保護者の席や来賓の席も確保しなければならないため、生徒が座れる人数も限りがある。

すなわち、僕を含め大多数の男子は立ち見状態だ。

加えて、男子は講堂の後ろに押し込まれている状態なのだ。


「おい、あとどんぐらいで終わるんだ?これ」


思わず、隣の男子に話しかける。


「プログラムどおりに行けば、後20分って所だな。

でもこの副部長、無駄にしゃべりたがるらしいから延長もあるかもしれん。」

「それほんとかよ・・・。まぁこの副部長、見たときからいやな予感してたけど」


たしかにあのおばさん、この調子ならあと10分でも20分でもしゃべれそうな勢いだ。

だが、さすがにそれはやばい。

寝不足のせいで貧血気味。

さらに腐っていたかもしれないグラタンをたべたせいで腹痛も止まらない。

加えて、何の相乗効果か頭痛と眩暈まで襲ってきている。

僕の体がもつか・・・。


「おい、お前大丈夫か?なんか顔色悪いぞ。」


さっきの隣の男子が声をかけてきた。


「保健室の場所知ってるから連れて行ってやろうか?」


初対面なのにこうも接してくれるとは・・・ほんとにいい奴だ。

だけど、あんまり迷惑もかけたくない。

高校の入学式なんて人生で一度しかないんだ。

僕のせいで無駄にして欲しくない。

そして僕自身もこのまま保健室に行って青春の第一歩を無駄にするようなことはしたくない。

だから――


「大丈夫だよ。ちょっとめまいがするだけさ。」


ほんとはちょっとどころではないのだが、そこは我慢だ。

俺の青春のため、君の青春のためだ。


「ほんとに大丈夫かよ?真っ青だぜ顔。先生呼ぼうか?」

「大丈夫大丈夫。ほんとに大丈夫だから・・・。」


あぁ・・・。やばい。

さっきから、頭がガンガンする。

あの副部長の「―であります」のせいではないのか・・・。

視界も歪んできたし、しだいに平衡感覚が失われていく気もする。


「おい、ちょっと待っとけ。先生呼んできてやる」


さっきの隣の男子だろうか、ぼんやりと声が聞こえてくる。

多分僕を見かねて先生を呼びに行ったのだ。


「やばっ」


急にバランスを崩し、思わず通路の手すりに手をかける。

もはや、立っていることさえつらい状況だ。


「おい、大丈夫か?」

「ちょっと座っとけ」


どうやら、他の男子も気づき始めたようだ。

さすがにもう無理をするのはやめよう。

ここで無茶して逆にこれからの青春を棒に振ってしまうのでは本末転倒だ。

そう思い、ゆっくりと腰を下ろそうと手すりから手を離す――


「あ、あれ・・・」


そうだった。ここは通路の一番上だった。

階段状の通路の一番上で手すりを放す。

すなわち再びバランスを崩したらどうなるか。


答えは簡単だ。


落ちるしかない。


葛城真琴は落ちていく。


転がり落ちていく。


(あぁ・・・やばい、これ)


度重なる全身への衝撃と腹痛、頭痛のトリプルアタックの前に僕はなすすべも無い。


GAN!!


GAN!!


GAN!!


(これって、リアルに死ぬんじゃないかな)


GAN!!


GAN!!


GAN!!


「ちょっと、あんた。止まりなさい!!」


GAN!!


GAN!!


GAN!!


(止まれ?それは無理な注文だよ・・・)


GAN!!


GAN!!


GAN!!


「だから止まりなさい!!」


GAN!!


GAN!!


GAN!!


(無理だって・・・。僕このまま三途の川まで転がり落ちそうなんだし・・・)


そう思ったとき、なんかやわらかいものに当たった気がした。


「きゃ、きゃあああ」


(あぁ、だれか巻き込んじゃったのかな・・・)


ここで、葛城真琴の脳細胞が冴え渡る。


(これって、女子だよね・・・)


このなんか華奢な感じは間違いないだろう。

いくらなんでも分かってしまう。


(さすがに、やばくないか・・・。これだったら二人とも大怪我な気が・・・)


さっきから、巻き込んでしまっただれかのおかげで僕への衝撃は和らぎつつある。

つまり、巻き込まれた人は僕の分のダメージも受けているということだろう。

かといって、僕が回復不能のトリプルアタックダメージを負っているという状況は変わらないわけで、つまり僕にはどうすることも出来ない。


(なんか・・・ごめん。巻き込んじゃって)


朦朧とした意識の中、巻き込んでしまっただれかに謝る。


と同時に連続していた衝撃がなくなった。


(やっと、落ちきったのかな・・・。よかった・・・そんなに長く巻き込んだわけではなさそうだ)


(それにしても、さっき巻き込んじゃった人、大丈夫かな・・・)


もやもやした頭の中で精一杯他人の心配をしてみる。


「だ、大丈夫ですか・・・?」


なんとか声を出すことができた。

それにしても、反応がない。


「ほ、ほんとに大丈夫ですか・・・?」


おっ、何か起き上がった。

多分巻き込んでしまった人なのだろう。


「ま、巻き込んで――」


今の僕にできる精一杯の謝罪を――


「誰が、大丈夫なもんか!!!」


できなかった・・・


強烈な衝撃と共に、自分が放り上げられたような気がする。


(あぁ・・・もしかして僕・・・飛んでる・・・?)


(そうか・・・僕はもう・・・死んでしまうんだね・・・)


(I・・・CAN・・・FLY・・・)


「ぐはっッッ」


再び僕を襲う衝撃。




(あぁ・・・い・た・・い・・・よ・・・・)




僕は、闇の中へと転がり落ちた

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