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『パパが3人は多すぎます! 〜最強イケオジたちの過保護すぎる異世界子育て事情〜』  作者: 水前寺鯉太郎


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第5話:夜のクルーザーと、招かれざる(?)美女たち

第5話:夜のクルーザーと、招かれざる(?)美女たち

1

「……静かだ」

 子供たちが祖母ジャネットの家に泊まりに行った金曜の夜。誰もいない静まり返ったリビングで、ダニエルは深々とソファに沈み込んでいた。

「ステラが叫んでいない。ミシェルが泣いていない。ルチアがお小遣いの交渉をしてこない……! なんという平静、なんという安らぎだ……!」

 妻を亡くしてから三ヶ月。初めて訪れた「子育てからの完全解放」。ダニエルはシルバーフレームの眼鏡を押し上げ、隣の二人に熱っぽく語りかけた。

「二人とも。今夜は子供たちの親としてではなく、男同士の固い友情と絆を深める夜にしたい。……静かな海の上で、夜釣りをしよう。王宮から小型の魔導クルーザーを手配しておいた」

「おお! ダニー、粋な提案じゃないか!」

「……海か。魚なら、刺身が良い」

 男三人の静かでシックな「夜釣りパーティ」——になるはずだった。港に着くまでは。

「やあジェリー! 久しぶりね!」

「……え?」

 ライトアップされた豪華な魔導クルーザーのデッキで、ワイングラスを傾けていたのは、超絶スタイル抜群の赤髪の女騎士——ジェラルドの元恋人・ファロンだった。さらにその隣には、とんがり帽子を深くかぶった妖艶な黒魔導士の美女・セレナが、楽しそうに手を振っている。

「ジョシュアから聞いたのよ! 今夜はイケオジたちがクルーザーでパーティするって!」

「ジェリーの不器用な顔、久しぶりに見たくて来ちゃった〜」

 ダニエルが素早く首を撃ち抜くような視線をジョシュアへ向けた。

「ジョシュア・ギアハート。男同士の静かな夜釣りという私の言葉の、どの単語が『元カノと美女を呼んでパーティ』に変換されたんだ?」

「いや〜、船出すなら華があった方がいいだろ!? なあジェシー!?」

「……俺に振るな。気まずい」

 最強ハンター・ジェラルドが、かつてなく肩を小さくして気まずそうに目を逸らしている。

 こうして、ダニエルの「男の絆深め計画」はあっさり崩壊し、夜の海をいくクルーザーは一瞬で大人のギャル&イケオジ夜会へと変貌を遂げたのだった。

2

「はいジェリー、アーンしてあげる!」

「……自分で食う」

「つれないわねぇ。昔は私の手料理、黙って完食してくれたのに!」

 デッキの上は大盛り上がりだった。ジョシュアは美女セレナと魔法のバブルを夜空に打ち上げて大はしゃぎし、元カノのファロンはジェラルドに絡みまくっている。

 ダニエルは一人、船尾で釣り糸を垂らしながら、ハーブワインをヤケあおりしていた。

 (何が男同士の絆だ……。私は静かに、最近の育児の苦労や、妻の思い出話でもしようと思っていたのに……)

 そこへ、ファロンの追撃をなんとか逃れてきたジェラルドが、のっしのっしと歩み寄ってきた。無言でダニエルの隣に立ち、自分の釣り糸を海へ垂らす。

「……すまん、ダニー」

「いい。お前のせいではない。全てはあの軽薄な騎士団副官のせいだ」

 二人の間に、波の音だけが響く静寂が戻ってきた。不器用な男二人。だが、少しずつ酒が回るにつれて、ジェラルドがぽつりと口を開いた。

「……子供たちがいないと、家が広いな」

「ああ。静かすぎて、少し落ち着かないくらいだ」

「……俺は、お前を尊敬している」

 ダニエルは驚いてジェラルドを見た。

「妻を失って、一人で三人の娘を育てるのは……俺なら一日で逃げ出している。お前は強い父親だ、ダニー」

「……ジェラルド。お前やジョシュアが来てくれなかったら、私はとっくに折れていたよ。感謝しているのは私の方だ」

 グラスを軽く合わせる二人。女たちが騒ぐ歓声のバックで、確かに男たちの温かい絆が深まっていた——その時。

 ギシッ……!!

 船体が、異様な音を立てて大きく傾いた。

3

「きゃあああっ!?」

「何事!?」

 デッキで悲鳴が上がる。ダニエルが垂らしていた釣り竿が、あり得ない角度で満月に向かってしなり、今にも折れそうになっていた。

「ダニー、何引っかけた!?」

「わからん! 底に引っかかったかと思ったが、動いている! 巨大だ!」

 海面がゴバァッ!と割れ、暗闇の中から現れたのは——船よりも巨大な、青く光る「伝説の海魔獣・クラーケン」の足だった!

「嘘でしょ、こんな近海に出るわけないのに!」女騎士ファロンが剣を抜く。

「私の酒の匂いに誘われて寄ってきたのかしら!?」セレナが杖を構える。

「ダニー、糸を切れ! 船が沈む!」ジョシュアが叫ぶが、ダニエルはメガネを光らせて頑なに竿を放さなかった。

「断る!! この竿はセレーナ(亡き妻)が誕生日にプレゼントしてくれた高級魔導竿だ! 絶対に手放さん!!」

「頑固かよ宮廷医師!!」

 クラーケンの触手が船体を絞め上げようと迫る! その時、ジェラルドが長髪をなびかせ、デッキの縁に仁王立ちした。

「……俺たちの『男の夜』を邪魔するな」

 Sランクハンターの威圧感が海全体を圧迫する。ジェラルドは背中の大剣を抜くと、巨大な触手に向かって一閃——真空の斬撃が夜空を切り裂き、クラーケンの触手を瞬時に切り払った!

「ファロン、セレナ! 左の触手を張れ! ジョシュア、船を左旋回だ!」

「了解っ!」

 先ほどまで飲んだくれていた大人たちが、一瞬で超一流のプロチームへと化す。ファロンの鋭い剣技、セレナの華やかな爆発魔法、ジョシュアの正確な操舵、そしてジェラルドの圧倒的な一撃。

「ダニー! 竿を引けぇぇぇ!!」

「うおおおおお押せぇぇぇ!!」

 宮廷医師ダニエル、人生最大の力勝負。プロたちの怒涛の連携のもと、ダニエルが渾身の力で竿を突き上げると、大海魔は悲鳴を上げて海の底へと逃げ出していったのだった。

4

 夜明け。港に戻ってきた魔導クルーザーは、触手で揉みくちゃにされてボロボロ、大人たちも服が破けて全員ドロドロだった。

 だが、朝日を浴びながら、五人はデッキで大爆笑していた。

「あははは! 最高にイかれてるわね、あなたたち!」

 ファロンがジェラルドの背中をバシバシ叩き、ジェラルドは苦笑いしている。

「ダニエル様、あの竿を放さなかった根性、見直しましたわ!」

「……ふん、当然だ」

 ボロボロになりながらも、ダニエルは心底すっきりとした顔でハーブティー(冷めたやつ)を飲んでいた。

 そこへ、港の向こうから「パパー! おじちゃーん!」と元気な声が聞こえてきた。祖母ジャネットに連れられたルチア、ステラ、ミシェルの三人が走ってくる。

「あ! パパたち、泥だらけ! なにしてたのー!?」

「ふふ、男同士の『絆』を深めていたんだよ」

 ダニエルは駆け寄ってきたミシェルをひょいと抱き上げ、朝日の中で笑った。ハプニングだらけの夜だったが、たまの大人の羽伸ばしと、男たちの確かな絆。

「さあ、家へ帰ろう。……今日のご飯は、あのクラーケンの足の刺身だ」

「ええーっ!? クラーケン食べたのー!?」

 娘たちの賑やかな悲鳴が響く中、ごちゃまぜファミリーの新しい一日が始まっていた。

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