第3話:魔法幼稚園の「大きな」不審者たち
第3話:魔法幼稚園の「大きな」不審者たち
1
「いやだー! 幼稚園行かない! お家でおじちゃんたちと遊ぶのー!」
魔法幼稚園の登園初日の朝。玄関の柱にセミのようにしがみつき、号泣していたのは次女のステラだった。
「ステラ、聞き分けなさい。今日からお友達がたくさんできる楽しい場所なんだよ」
ダニエルが優しくなだめるが、ステラは首をぶんぶんと横に振る。見知らぬ場所、知らない子供たちへの不安と緊張でパニックになっているのだ。
見かねたジョシュアが「よし! パパ特製の『絶対に友達ができるからくりバッジ』を——」と怪しい発明品を取り出そうとし、すかさずダニエルが「余計に浮くから引っ込んでいろ」と一蹴する。
結局、ダニエルが根気強く抱きしめ、「パパもずっと応援しているからね」と繰り返し語りかけることで、なんとか鼻水を垂らしたステラを幼稚園まで連れて行くことに成功したのだった。
だが——問題はここからだった。
「……おい、ジョシュア。あの角の陰、目立ちすぎていないか?」
「しーっ! 声が大きいぞダニー! 俺たちは今、気配を消す高度な偵察任務中だ!」
教室の窓の外。茂みの中から、三人のイケオジが並んで教室の中を覗き込んでいた。
白衣を着たまま胃薬を飲んでいる元宮廷医師。ゴーグルを装着して双眼鏡を構える騎士団副官。そして、そもそも巨体すぎて茂みから頭と肩が完全にはみ出しているSランクハンター(ジェラルド)。
「あ、ステラちゃんが席についたぞ! ……あーっ! 隣の男子が話しかけた! ダニー、あいつステラに気があるんじゃないか!?」
「落ち着けジョシュア、まだ七歳児だ! ……だが待て、あの男児、手元で火の魔法をチラつかせているな。危険だ、即刻保護者を呼び出すべきでは……!」
「……俺が、あの男児を威嚇してくる」
「待てジェラルド! お前が行ったら国家規模の事件になる!」
保護者参観でもないのに、窓の外で怪しくヒソヒソと騒ぎ立てる不審すぎるハーフエルフ三人組。当然、教室の中で園児たちに絵本を読み聞かせていた若き女性教諭の目が、殺気をも帯びて三人へ注がれた。
「……そこの保護者の方々。園児の集中を妨げますので、敷地外へ出ていただけますか?」
笑顔だが目がまったく笑っていない先生の圧に、さしもの最強ハンター(ジェラルド)も思わず「う……」と怯み、三人はあえなく園庭の隅へと追いやられるのだった。
2
「ふぅ……やはり過保護になりすぎるのは良くないな。ステラも頑張っているんだ、僕たちも信じて見守ろう」
幼稚園の門の外で、ダニエルが反省の弁を述べていたその時だ。
「……お父様?」
聞き覚えのある声に振り返ると、そこには魔法学園の制服を着た長女のルチアが立っていた。今日が初登校のはずなのに、カバンをぎゅっと抱きしめ、息を切らせている。
「ルチア!? なぜここに……学園を抜け出してきたのか!?」
ダニエルが驚いて駆け寄ると、ルチアは下唇をかみしめ、ぽろぽろと涙をこぼし始めた。
「だって……ステラが泣いてないか心配で……! それに、あたしのクラス、みんな貴族の子ばかりで……誰も口をきいてくれなくて……っ」
しっかり者の長女として、いつも妹たちの前で背伸びをしていたルチア。だが、彼女もまた、新しい環境への不安と孤独に押し潰されそうになっていたのだ。妹の心配という口実を作って、大好きな父親たちの元へ逃げ出してきてしまったのだった。
「ルチア……」
ダニエルはハッと胸を突かれた。ステラの登園拒否ばかりに気を取られ、一番我慢強い長女の変化に気づいてやれなかった自分に対する激しい後悔が押し寄せる。
ダニエルが膝をつき、ルチアを抱きしめようとした——その時。
ドスン、と大きな影がルチアの前に立った。ジェラルドだった。
3
ジェラルドは無言でルチアの頭の上にドシリと大きな手を置いた。
「……ルチア。お前は、昨日のギルドの書類整理で、大人のハンターより早く計算ができた」
不器用で、重厚な声。
「あんな難しい地図を読めるやつは、あの学園にもそうはいない。……胸を張れ。お前は強い」
「……ジェシーおじちゃん……」
さらにジョシュアが笑顔で歩み寄り、ポケットから小さな、星の形をしたからくり細工をルチアの手のひらに握らせた。
「これはな、寂しくなった時にネジを回すと、俺の変顔の幻影が飛び出す特製お守りだ! 授業中に使うと怒られるから秘密だぞ?」
「……ふふっ、なにそれ。いらないよ」
ルチアの唇から、小さな笑みがこぼれた。
ダニエルは、優しくルチアの目元を拭った。
「ルチア。お前が頑張っているのは、パパたちが一番よく知っている。……だがな、つらい時はいつでも逃げてきていいんだ。ここには、お前を絶対につむじ風から守る大人が三人もいるんだからな」
「……うん!」
ルチアが大きく頷いたその時、幼稚園のチャイムが鳴り、園内から元気な歓声が響いた。教室のドアが開き、走ってきたのは——顔中にお絵かきの絵の具をつけたステラだった。
「パパー! おじちゃんたーち! 見て見て、お友達とお絵かきしたの!」
最初はあんなに泣いていたステラが、新しいお友達の手を引いて笑顔で駆け寄ってくる。その姿を見て、ルチアはハッと目を見開き、そして誇らしげに胸を張った。
「妹があんなに頑張ってるのに、お姉ちゃんが負けてられないよね。……パパ、あたし、学校に戻る!」
「ああ。行きも帰りも、このうるさい叔父たちと一緒に送迎してやるからな」
夕暮れ時。三人のイケオジと、笑顔を取り戻した二人の娘、そして抱っこされたミシェル。ごちゃまぜファミリーの賑やかな足音が、街の街道に温かく響き渡っていた。




