第七話 ラファエル王国
薄暗い地下室——
四つの人影が、それぞれ離れた場所にいた。
それぞれが別々のことをしている。
ある者は武器の手入れをし、
ある者は目を閉じて静かに休んでいる。
またある者は壁にもたれかかっていた。
その中で——
一人の女が、だらしなく座っている。
口元には笑み、目には妖しげな光。
彼女は——サキュバスだ。
空間全体に、重苦しく危険な気配が漂っている。
その時——
四人の視線が同時に中央へ向いた。
闇の中から、黒い影がゆっくりと現れる。
「おかえり~」
サキュバスが軽く笑う。
「どうだったの~?確認できた?」
黒衣の男は淡々と答える。
「間違いない。あいつで確定だ。」
空気がわずかに重くなる。
「……あのババアめ」
「また当てやがったか。」
その時——
人形を抱えた少女が、ぴょんと跳ねながら近づいてくる。
「おばあちゃんの予言は外れたことないよ~!」
「っていうかさ!もう見つけたなら——」
「捕まえに行こうよ!」
その瞬間——
入口から声が響いた。
「まだ手を出すな。」
全員が振り向く。
一人の男が、階段をゆっくりと降りてくる。
目は閉じられている。
だが——
何も見えていないはずなのに、迷いは一切ない。
「なんでだよ、ボス!」
少女が不満そうに叫ぶ。
「もう見つけたんだよ!?」
男は足を止める。
ゆっくりと少女の方を向く。
目は閉じたまま——
それでも、すべてを見透かされているような感覚。
次の瞬間——
圧が広がる。
まるで無数の刃に囲まれているかのような威圧感。
息が詰まる。
「二度は言わない。」
「っ……は、はい……!」
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翌日——
レインとジェナは、朝早くに出発した。
四日間の道のりを経て、
午後になり、ついにラファエル王国へと辿り着く。
レインの目に飛び込んできたのは——
高く、分厚い城壁だった。
門の両脇には、
剣を携えた巨大な像が二体、そびえ立っている。
「見えてるあの像ね——初代国王の像だよ」
ジェナが言う。
「初代って二人いるのか?」
レインが少し驚いたように聞く。
「うん、そう」
ジェナは頷いた。
「それに、ラファエル王国は元々、女性中心の国だったの」
「最初は騎士は全員女性」
「貴族に男性はいたけど、かなり少なかった」
「でも、ここ数代で改革が進んで——」
「今は男女の騎士はだいたい半々かな」
レインは顎に手を当てる。
「なんかさ……初代の二人、ただ男嫌いだっただけじゃね?」
「うーん……まあ、そういう説もあるね」
二人は話しながら馬を進める。
やがて城門へ。
本来なら身分確認が入るが——
ジェナの姿を見た瞬間、兵士の表情が変わった。
「ジェナ様!お帰りなさい!」
ジェナは軽く頷く。
二人はそのまま通される。
レインが横目で見る。
「へぇ~~、お前結構偉いんだな?」
「や、やめてよ……」
ジェナは少し照れたように視線を逸らした。
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そのまま王城へ。
レインはずっと文句を言っていた。
「おいマジでさ!」
「俺、先に飯食いたいって言ったよな!?腹減ってんだけど!」
「あとでって言ったでしょ」
「終わったら全部付き合うから」
「我慢できるわけねーだろ!」
「外めっちゃ美味そうなもんあったぞ!?」
「はいはい、あとでね」
ジェナは苦笑しながらなだめる。
——
やがて謁見の間へ。
レインはキョロキョロと見回しながら、まだ文句を言っていた。
だが——
王座を見た瞬間、動きが止まる。
「……?」
目を擦る。
王座には——
一人の女性が座っていた。
水色の長い髪が、流れるように垂れている。
光を受けて淡く輝く。
白い肌、整った顔立ち。
その美しさには、近寄りがたい気品があった。
そして——
その瞳には、優しさと絶対的な威厳が同時に宿っている。
ただそこに座っているだけで、
空間の中心が彼女であるかのようだった。
——王の風格。
レインは目を見開く。
「……白綾……母さん?」
ジェナが小声で言う。
「レイン、それ失礼だから……」
女性は柔らかく笑った。
「久しぶりね」
「大きくなったわね」
「はぁ!?母さん!?なんでここにいるんだよ!?」
周囲がざわつく。
女性はくすっと笑う。
「どうしてって?」
「この国の王だからよ」
「はぁぁぁぁぁ!?!?」
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白綾は手を軽く上げる。
「下がりなさい」
騎士と臣下は一斉に退室した。
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「つまり……陛下が言ってた子って、レインのこと?」
「そうよ~」
「なんで神託の時言わなかったの?」
「だって、驚く顔が見たかったんだもの」
「なんだよそれ……」
「てか、俺なんで今まで知らなかったんだよ」
「言おうとは思ってたのよ」
「連れて来るつもりもあったし」
「でも忙しくてね」
「フィアも同じよ」
その名前を聞いた瞬間——
レインの全身に鳥肌が立つ。
「……」
白綾は笑う。
「あら、相変わらず怖いのね」
「そりゃそうだろ!!」
「あの人の訓練、マジで地獄なんだぞ!?」
「フィアは“まだ基礎にもなってない”って言ってたけど?」
「……マジかよ……」
レインは固まる。
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ジェナはその様子を見ていた。
自然で、温かい空気。
胸の奥が少し温かくなる。
だが——
次の瞬間。
(もし……私の家族も……)
彼女は拳を握る。
(必ず——)
(邪神と魔族に、代償を払わせる)
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しばらく話した後——
白綾が言う。
「部屋に案内してあげて」
袋を差し出す。
「その後、街も見てきなさい」
「はい」
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部屋に入る。
扉を開けた瞬間——
レインが固まる。
「うわ……なんだこれ……豪華すぎだろ……」
「いいじゃん」
「今のあんたにぴったりでしょ」
「は?何が?」
「王子」
「……血繋がってねーし」
「他の国なら重要だけどね」
「ここは違うから」
ジェナがさらっと言う。
「ついでに言っとくけど——」
「五日後、あんたのこと公表されるよ」
「はぁ!?」
レインが叫ぶ。
「母さん……俺こういうの嫌いって知ってるだろ!!」
ジェナは吹き出す。
「何笑ってんだよ!」
「ごめんごめん、面白くて」
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ジェナが言う。
「先に準備してきなよ」
「外で待ってるから」




