第六話 黒衣の男
レインが地面に着地した。
倒れているゴブリン君主を一瞥する。
騎士たちに声をかけようとした、その時——
彼の影が、わずかに揺れた。
次の瞬間。
黒い影が地面から飛び出した!
レインはそれを見ようともせず、
わずかに身体をずらし、
龍槍を下からすくい上げる。
だが——
空振り。
同時に、腕に一筋の傷が走る。
「……」
レインは眉をひそめた。
額に冷や汗がにじむ。
「あら~?」
黒衣の男が軽く笑う。
「避けるんだ?」
「一撃で仕留められると思ったのに~」
レインは何も答えない。
ゆっくりと構えを取る。
気配を研ぎ澄ます。
一切の隙も見せない。
なぜなら——
目の前の相手から、強烈な不吉な気配を感じていた。
そして、その実力は——
自分より遥かに上。
「……お前が黒幕か?」
黒衣の男は答えない。
ただ、じっとレインを観察する。
「似てる……本当に似てるなぁ~」
くくっと笑う。
「ははは……父親そっくりだ」
「まだ未熟だけど——王の気配はあるね」
「……うるせぇな」
レインの目が鋭くなる。
次の瞬間——
白い炎が一気に膨れ上がる!
姿が消える。
そして——
黒衣の男の側面に現れる。
龍槍を突き出す!
しかし——
そこにはもういない。
次の瞬間。
黒衣の男は、レインの背後にいた。
背中合わせに立ち、
腕を組んだまま。
「少しくらい、おしゃべりしない?」
軽い口調。
まるで遊んでいるようだった。
「お前と話すことなんてねぇよ!」
レインは振り向きざまに攻撃を繰り出す。
連続の突き。
だが——
すべて空振り。
黒衣の男は軽々と回避する。
そして——
避けながら、教え始めた。
「違う違う」
「そうじゃない」
「足は、もう少し真っ直ぐに」
—————————
レインは雷魔法を全開にする。
電光が身体を駆け巡る。
一歩踏み込み——
突き!
しかし——
黒衣の男は、人差し指一本で受け止めた。
「キン」
完全に止められる。
黒衣の男は笑う。
「教えてあげるよ~」
「槍っていうのは……こう使うんだ」
次の瞬間——
龍槍が奪われた。
反応が間に合わない。
次の瞬間。
槍の雨。
「シュッ!シュッ!シュッ!」
連続突き。
正確無比。
だが——
急所は外している。
完全に弄ばれている。
レインは何もできない。
ただ傷を増やしていく。
気づけば——
全身に細かな傷。
血がにじむ。
次の瞬間——
蹴り。
ドン!!
レインは吹き飛ばされる。
地面に叩きつけられ、
転がり、
そのまま倒れる。
起き上がる前に——
黒衣の男が目の前に現れる。
背中を踏みつけられる。
「わかった?」
淡々とした声。
レインは歯を食いしばる。
答えない。
黒衣の男は一瞬見下ろし——
興味を失ったように視線を外す。
龍槍を放り投げる。
「次に会うときは——」
「少しは成長してるといいね」
そのまま、
姿が薄れていく。
そして——
消えた。
——
レインは地面に倒れたまま動かない。
呼吸が乱れている。
指が震える。
レインは心の中で呟く。
……あいつは……何者だ……
それに……
目で追えない……
—————————
レインはなんとか立ち上がる。
足元がふらつく。
その時——
遠くから声が飛ぶ。
「レイン!大丈夫!?」
振り向くと、
ジェナが飛んできていた。
「遅ぇよ……!」
レインは不満げに言う。
「さっきめちゃくちゃやられたんだぞ!」
「え?やられた?」
ジェナはゴブリン君主とレインを見る。
「まさか……ゴブリン君主に?」
「誰があんな雑魚にやられるかよ!」
「じゃあ誰よ!?」
「知らねぇよ!」
「影から急に出てきて、何回も刺してきやがって!」
「マジでムカつく!」
ジェナの表情が一瞬変わる。
影……?
まさか……
——あいつらが動いたの?
すぐに表情を戻す。
「とにかく、戻ろう」
「まずは治療」
「……チッ」
レインは顔をそらす。
「次会ったら——」
「絶対ぶっ倒す」
—————————
二人が立ち去ろうとした、その時。
「待ってくれ!」
ジェナが振り向く。
「何か用ですか?」
男が駆け寄ってくる。
「助けてくれて感謝する」
「私はこの街の領主、ガルドだ」
「いえ、当然のことです」
ガルドは深く頭を下げる。
「君たちがいなければ、この街は終わっていた」
「本当に感謝する!」
「礼として、何か望みはないか?」
「報酬として用意しよう」
「いえ、大丈夫です——」
ジェナが言いかけた時。
「あー、じゃあさ」
レインが口を挟む。
「馬、もう一頭くれ」
「ちょっとレイン!?」
「いいだろ」
「一頭じゃ遅いんだよ」
「二人で分けた方が早い」
ガルドは頷く。
「わかった」
「出発はいつだ?」
「明日の朝」
「なら用意しておこう」
「宿に届けさせる」
「ありがとうございます」
ジェナが頭を下げる。
「……ほんともう」
小さく呟く。
レインは無視する。
「じゃあな」
少し間を置いて、
「俺たち、銀月の宿にいる」
ガルドは頷く。
「了解した」
—————————
二人が去った後——
一人の騎士が駆け寄る。
「ガルド様!」
「どうした」
「おかしいと思いませんか……?」
「白い炎は……あの方だけのはずでは……」
「……!」
ガルドの目が見開かれる。
混乱で気づかなかった。
脳裏に蘇る。
十数年前。
あの頂点に立っていた男。
「……レード様……」
「まさか……子が……?」
空気が張り詰める。
次の瞬間——
「命令だ!」
「少年の情報は封鎖しろ!」
「外に漏らすな!」




