第二話 やだ、行かない!
俺の名前はレイン。十六歳。今年で成人だ。
この大陸の名前は——レクレール大陸。
父親のレッドは、この大陸に存在する五人の英雄の一人であり、最強の英雄と呼ばれている。「白獅子」という異名もある。
母親もまた英雄の一人で、世界最高峰の魔法使い。「大賢者」と呼ばれていた。
俺が生まれて二年後——
終焉の戦いが起きた。
邪神が百万の魔族を率いてレクレール大陸に侵攻し、五人の英雄がそれを迎え撃った。
戦いは七日七晩続き——
結果は最悪だった。
両親は戦死。
残りの三人の英雄も、行方不明。
その後は、両親の知り合いだという女に引き取られて育てられた。
……まあ、その人はほとんどここには来ない。たまに顔を出すくらいだ。
代わりに、姉に体力や戦闘の訓練を叩き込まれている。
正直、かなりきつい。
俺の素性を知っているのも、その二人だけだ。
「ちょっと待て……離せって!」
レインは銀髪の少女の手を振り払った。
「何なんだよ。何も言わずに引っ張るな。」
少女は落ち着いた様子で口を開く。
「じゃあ、まず自己紹介するね。」
「私の名前はジェナ。」
「古代種族——吸血族の出身。かつては王族だった。」
風に銀色の髪がわずかに揺れる。
「それに、今この世界で最後の吸血族でもある。」
レインは眉をひそめた。
「吸血族って……もう滅んだんじゃなかったのか?」
「ん〜、まあそうなんだけど……親が禁忌の魔法を使って……あ、私の話はどうでもいいか。」
ジェナは軽く話を切る。
「とにかく、あなたのことを知ってるのは、慈愛の女神が神託を下したから。」
「神託では——邪神が復活すると告げられている。」
「特徴も、居場所も全部教えられた。」
一歩踏み出す。
「だから——私の最優先任務は、あなたをラファエル王国へ連れていくこと。」
「は……?」
レインは小さく息を吐く。
「何言ってんだよ……」
短い沈黙の後——
「ふざけんな。」
「やだ、行かない!」
「おい! 逃げるな!!」
「誰が言うこと聞くかよ!!」
「救世だの英雄だの——そんなの、俺はごめんだ!!」
その瞬間——
ジェナの背に魔力が集まる。
血色の翼が一瞬だけ顕現し、そのまま一気に距離を詰めた。
レインは急停止し、そのまま左へ方向を変える。
ジェナは小さくため息をついた。
手のひらを開く。
指先から血が流れ出し、一本の長剣を形作る。
軽く振る——
レインの前に、高い壁が現れた。
「ちっ……うざい。」
レインは足を止めた。
ジェナは落ち着いた声で言う。
「逃げられないよ〜」
「なあ……話し合いとかできないのか?」
「無理〜」
「……」
レインは眉をひそめる。
「この世界、俺より強いやつなんていくらでもいるだろ。なんで俺なんだよ。」
ジェナはまっすぐ見つめる。
「守りたい人、いないの?」
「もし邪神が復活したら——」
「いない。」
レインは即座に言い切った。
「俺には、守りたい人なんていない。」
「嘘。」
「……」
レインは少しだけ黙り込む。
やがて、小さく息を吐いた。
「……わかったよ。」
顔を上げる。
「行けばいいんだろ。これで満足か?」
「ほんと!? やった!」
ジェナの表情が明るくなる。
「でもな!」
レインは声を張り上げた。
「先に言っとく——俺、お前のこと嫌いだからな!」
「えええ!? なんで!?」
ジェナは目を見開く。
「無理やり人に嫌なことさせるやつが好きなわけないだろ。」




